日本のワイナリーを巡る。
食用ぶどうで世界品質のワインをつくるワイナリー。

食用ぶどうで世界品質のワインをつくるワイナリー。

東は日向灘、西は尾鈴連山に囲まれた、宮崎県都農町の高台にある「都農ワイナリー」は、1996年に第三セクター方式で誕生したワイナリー。世界的にも高く評価されているそのワイン造りの歴史は、不可能に挑み続ける人々の歴史でもある。

欧州の常識にとらわれないワイン造り。

キャンベル・アーリー

摘みたてのいちごのような芳醇な香りとフルーティーな味わいで人気を博している“キャンベル・アーリー”のロゼワインは、「都農ワイナリー」の主力銘柄。専門家からの評価も高く、海外で数々の賞を受賞している。ここで特筆すべきは、原料の“キャンベル・アーリー”が生食用品種であるということ。本来、ワイン造りは専用種のぶどうを用いるのが常識だ。しかも都農町は、雨や台風の被害を受けやすく、ワイン造りには適さないと考えられていた土地。そうしたハンデをものともせずに世界品質のワインをつくりあげたのが、現在社長を務める小畑曉(さとる)さんと、今回お話をうかがった工場長の赤尾誠二さんだ。

フレンチオーク樽
樽はすべてフレンチオーク樽で、毎年15~20本の新樽を購入。まっさらで香りの強い新樽は、まずはシャルドネの樽発酵・樽熟成に使用されることが多い。
工場長の赤尾誠二さん(左)、社長の小畑曉さん(右)
工場長の赤尾誠二さん(左)は18歳で栽培・醸造家としてのキャリアをスタート。オーストラリアのワイナリーで学んだ経験もある。社長の小畑曉さん(右)は、青年海外協力隊としてボリビアで農業指導を行った後、ブラジルのワイナリーで支配人を務めたという異色の経歴の持ち主。

特産の食用ぶどうに付加価値をつけるため、町内のぶどうだけでワインを造ろう、という発想から出発したワイナリーの設立。ところが当初、地元農家の人たちとの交渉はかなり難航したという。いちばんの原因は“加工品の原料=市場に出せないモノ”という考え方が、当時の農家の間で主流だったこと。そのため、納品されたぶどうの中に傷んだものが混ざっていることも少なくなかった。

“いいワインをつくるには、いいぶどうが絶対に必要なんだ”と主張する小畑と、“自分たちが育てているのは、生食のための上質なぶどう。加工用なんてつくっていない”という農家さんとの間の溝がなかなか埋まらなくて……。しかも小畑はとても熱い男。居酒屋で農家さんと話し合っているうちにどんどん議論が白熱してしまい“表へ出るか?!”なんて展開になったこともありました(笑)。でも、やはり情熱というのは伝わるんですね。次第に協力者が増え、結果的には信頼関係を築くことができました。

自社栽培畑ではシャルドネ、ソーヴィニヨンブラン、ピノ・ノワール、メルローなどの栽培を開始。その特徴はヨーロッパの栽培スタイルにとらわれず“都農らしさ”を追求していることだ。たとえば土づくり。

この土地は“黒ボク”と呼ばれる火山灰土壌で非常にやせた土地です。はじめのうちは“ぶどうは、やせた土地でよく育つ”という定説を信じていましたが、勉強会を重ねるうちに健全な土づくりの重要性に気づき、積極的に堆肥を活用する栽培へと方向転換しました。

一方、醸造に関しては“例年どおりの作業”を決してよしとせず、その年に採れたぶどうにとって最善な醸造方法を実践しているのが特色。仕込み作業の内容や、作業時間をそのつど細かく調整している。

堆肥
堆肥はぶどうのための栄養ではなく、土壌微生物のエサ。微生物が堆肥を分解することで、ぶどうの根が張りやすい環境が整うのだ。
ステンレスタンク
型のステンレスタンクは全部で20基。

次なる挑戦は“フルボディの赤”の実現。

こうして栽培にも醸造にもこだわりぬいた「都農ワイナリー」は、2004年にイギリスの専門誌「ワイン・リポート」でキャンベル・アーリーが「最も興奮した世界のワイン百選」に選ばれたのを皮切りに、国産ワインコンクールで3種類のシャルドネが何度も入賞を果たすなど、国内外で高く評価されることとなった。

食べるためのぶどうでつくったワインが高評価を受けたことも、ぶどう栽培不適地で生まれたシャルドネが世界大会でトロフィーを獲得できたのも、これまでの常識を覆すような出来事で、ロゼと白ではそれが実現できた。問題は“赤”なんです。

ロゼワイン
「都農ワイナリー」人気ナンバーワンのロゼワイン“キャンベル・アーリー(右)”と、コクとキレが楽しめる大人の辛口ロゼ“キャンベル・アーリードライ(左)”。

なぜ、ヨーロッパと同じ品種を植えても、日本ではライトボディの赤ワインしかできないのか。いちばんの要因は土。ヨーロッパの土地は見た目に貧弱な土でも、渋くて色の濃いぶどうが育つために必要なカルシウムやマグネシウムの量が多いのだという。赤尾さんがユニークなたとえ話で説明してくれた。

フルボディの品種を人間にたとえると、栄養をたくさん欲しがるムキムキマッチョなアスリート。そんな彼らが、ホームステイで日本にやってきたところ、出てくる食事は白飯、味噌汁、アジの開きに冷奴……。そうなると、いつしか細マッチョなボディに変化してしまいます。それに対して、白の品種はたとえるなら芸術家。ご飯と味噌汁の生活でもまったく問題がなく、宮崎なら宮崎の気候風土に合った、オリジナルの芸術作品を生み出すようになるのです。

牧内台地。
「都農ワイナリー」が位置するのは、日向灘と宮崎平野を一望できる標高150mの高台・牧内台地。
ビニール屋根
降水量の多い土地柄、ビニール屋根が欠かせない。

それならば、「都農ワイナリー」は今後もロゼや白、そしてライトボディの赤ワインで勝負していく覚悟なのかと思えば、さにあらず。赤尾さんたちは目下、フルボディの赤ワイン造りのための大掛かりな実験を始めているという。

目標は、フランス人が“美味しい”と言ってくれる、シラーのフルボディをつくること。ぶどうが色づく前のタイミングで、一定の水分ストレスを与えるとぶどうの色と渋味が増すことが解明されているので、そのための環境づくりに取り掛かっています。

6月初旬のシラー
なんとも若々しい6月初旬のシラー。いつの日かこの畑からフルボディの赤ワインが生み出されるのか?実に楽しみだ。
都農ファームカフェ
併設されている「都農ファームカフェ」のテラス席では、芝生の広場やその先に広がる海を眺めながら、美味しいワインと料理がいただける。

赤尾さんが力強く言う。

この土地の可能性にチャンレジし続けるのが、我々の仕事だと思っていますから。

さまざまな固定概念や先入観を打ち破り、着実に結果を出してきた「都農ワイナリー」。その実績を鑑みると、さらなる奇跡も期待できそうだ。

チキン南蛮
鶏胸肉を使ったチキン南蛮は、肉をあらかじめ赤のスパークリングワインに浸しておくことで、しっとりジューシーな味わいに。ベストパートナーはもちろん“キャンベル・アーリー”!

「都農ワイナリー」のこれまでの歩みや製法のこだわり、併設するカフェの大人気メニュー・チキン南蛮のレシピなどを「シャーウッドclub」でお読みいただけます。詳しくは以下のリンクから。

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記事で紹介したワイナリー

都農ワイナリー

宮崎県児湯郡都農町大字川北14609‐20
お問い合わせ TEL.0983‐25‐5501

文:木村美幸 写真:小原太平