日本のワイナリーを巡る。
日本最大のワイン産地・勝沼の100年ワイナリー

日本最大のワイン産地・勝沼の100年ワイナリー

ぶどう生産量国内トップである山梨県。その中でも日本のぶどう栽培発祥の地である甲州市にあるワイナリー「くらむぼんワイン」を訪ねて知る、勝沼のワイン造りの歴史。

勝沼は甲府盆地の東部に位置する、ぶどう畑と民家が混在する地域。取材した日は風がほとんどなかったこともあって、あちこちで剪定した枝を燃やしていて、地域全体にうっすらと煙がかっていた。

歴史あるワイナリー。

日本のぶどう栽培発祥の地である勝沼。明治の頃、西洋の技術を取り入れてワイン醸造が始まり、今では海外からも注目されるワインの一大産地である。
現存するワイナリーは約30軒。この地域では1993年に勝沼駅を「勝沼ぶどう郷駅」へと改称し、地域に点在するワイナリー巡りを見所として観光地化も進めてきた。「くらむぼんワイン」は、その勝沼でもっとも古いワイナリーのひとつで、2019年に創業106年目を迎える歴史あるワイナリーだ。

くらむぼんワインの四代目醸造家・野沢たかひこさん。趣味は「おいしいものを食べること」。

大正時代に始まったワイン造り。

「くらむぼんワイン」のワイン造りは、1913年にスタートした。母屋は、初代の野沢長作さんが山梨市牧丘町(旧山梨県東山梨郡)にあった養蚕農家の母屋を勝沼の地へ移築したもの。

1932年になると近隣のぶどう農家を集めて「田中葡萄酒醸造協同組合」が結成され、野沢家も組合に参加。地域と連携しながら、勝沼ワインの黎明期を支えてきた。1962年に組合が解散すると、野沢家は「山梨ワイン醸造」を設立する。醸造家ひとりで管理ができる範囲で自社畑と、近隣農家から仕入れるぶどうでワイン醸造を続けた。
「くらむぼんワイン」と名を変えたのは、2014年。四代目醸造家の野沢たかひこさんが決めた。少なからず周囲からの反対もあったが、先代の野沢貞彦さんは、たかひこさんが言い出したら聞かない性格であることを知っていた。舵は切られた。

勝沼ワインをつくるワイナリーであるのに、『山梨』という言葉だと意味が広くなり過ぎてしまうなと思ったんです。

ぽつぽつと控えめに語りながらも、「勝沼」のワインをつくることへの誇りや覚悟の強さをうかがわせる。

母屋として使われていた日本家屋は、ワイナリーに訪れた観光客用の休憩スペースやテイスティングやワインを購入できるワインサロン、勝沼ワインに関する資料室となっている。
大正から昭和初期にかけて使用されていたぶどう圧搾機など。勝沼でぶどう造りが始まった当初は、木桶など日本にもともとあった農耕用の道具をワイン造りに活用していた。
「くらむぼんワイン」のセラーは、敷地にもともとあった古い蔵を利用している。木の柱や石を積んだ壁も、すべて当時のまま。
ワインセラーとして使っている倉庫の地下は、戦時中は防空壕として使われていたそうだ。
日本家屋の裏には自社畑が広がる。勝沼の多くのぶどう畑は棚づくりだが、たかひこさんはフランス留学の経験を活かして、垣根畑に変えた。

たかひこさんは23歳からの2年間、フランスへ留学して、醸造学校でワイン造りを学んだ。留学中のほとんどをブルゴーニュで過ごし、地方料理と現地で造るワインを家庭の食卓で楽しむことを知った。

ワイナリーで生まれ育ちながらも、留学するまではワインにそれほど関心を持てなかったんです。ブルゴーニュに行って初めてワインの魅力に目覚めて、家業を継ごうと決めました。

2007年、「くらむぼんワイン」のぶどう栽培は、除草剤や殺虫剤を使わず、肥料も与えず、土も耕さないという自然栽培へと舵を切った。病気予防には、銅と石灰を合わせたフランスの「ボルドー液」と硫黄を使った。自社畑は雑草を敢えて生やしっぱなしにして、絨毯のように地面をふかふかの状態にしながら、適度な水分と養分を保持している。

ワイン造りにおいて大切にしているのは、自然な栽培で育ったぶどうを使って、できる限り自然な方法で醸造すること。科学の力や人の手を加えないことによって、本来ぶどうが持っている抵抗力を上げ、力強いぶどうに育てたいと思っています。

自社畑の土はほとんど耕していない。畑全体に雑草が生い茂り、脚を踏み入れるとすぐに、ふかふかで柔らかな土壌を実感できる。寝転がっても気持ち良さそう。
天然酵母で醸した「マスカット・ベーリーA2017」。花やりんごのコンポートのような自然な香りが特徴的な赤ワイン。ブルゴーニュの赤ワインの造りを参考にして発酵温度を管理し、樽でねかせる時間を短めにしている。

「くらむぼん」の由来。

「くらむぼんワイン」という個性的な名称は、たかひこさんのワイン造りの理念を表現したものだ。宮沢賢治の童話『やまなし』の中で何度も繰り返される「くらむぼん」という言葉に由来する。だが、作品の中では「くらむぼん」が何を意味しているのかは明記されていない。今もまだ読者の間で「プランクトンを指すのか」「いや、自然を破壊するごみのことか」など、解釈のゆれている不思議な言葉なのである。たかひこさんは、そんな独特の世界観に惹かれているという。

宮沢賢治は、人間と自然の共存、科学の限界、他人への思いやりを童話で伝えようとした作家として知られています。勝沼のぶどう畑と自然が両立しつつ、地域住民とワイナリーが協力し合っていく環境を実現していけたら、という自分の思いと宮沢賢治の信念が重なるような気がして、ワイナリーの名前に『やまなし』から象徴的な言葉を借りたのです。

樽熟には、フランスのオーク樽を使うことが多い。「甲州ベリーAなど、日本のぶどうの繊細な香りを上手に引き出せるのはブルゴーニュ樽。樽香が強いアメリカの樽は使っていません」。
今年度の新しいヴィンテージから、エチケットのデザインをリニューアル。たかひこさんが知人のデザイナーに依頼し、宮沢賢治の『やまなし』に登場する梨や蟹、魚をイメージしたイラストにした。
ワインのボトルを並べたテイスティングコーナーは500円。テイスティンググラスを渡され、気になる商品を自由に試すことができる。ワインを購入すると、500円は返金される。
テイスティングコーナーのワインボトルには、そのワインに合ったおつまみを記入したタグが掛かっている。「ソースたっぷりお好み焼き」など意外な料理の名前もある。料理好きのスタッフが実際に自宅でマリアージュしながら考案したという。

勝沼町産甲州種100%で造られた「くらむぼん樽甲州 (2017、白)」には、山梨名物のほうとうと合わせるのがおすすめだと、たかひこさん言う。ステンレスタンクでじっくりと低温醗酵させてから樽醗酵したワインとブレンドしているので、飲みごたえがしっかりしているのが特徴。そのため、ほうとうに使われている味噌にも負けない強い味わいになっている。さらに梨のような甘さや柚子、みかんを連想させる爽やかな香りと酸味のバランスがいいこともあって、かぼちゃやきのこ、白菜、豚肉など、ほうとうに含まれるさまざまな具材とも相性がいいのである。

僕自身、ブルゴーニュで郷土料理とその土地で造られるワインとの相性の良さを知ってからワインを好きになったこともあって、勝沼で造られた『くらむぼんワイン』を山梨の名物だったり、日本の料理とともに味わってほしいという思いがあります。

くらむぼん樽甲州 (2017、白)。「このビンテージは特に梨を彷彿させる味わいが強く出ています」

野沢さんのお話の続きやくらむぼんワインの近くにあるレストラン「ミル・プランタン」の土屋義幸シェフがお薦めする白ワインと美味しいレシピを「シャーウッドclub」でお読みいただけます。詳しくは以下のリンクから

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記事で紹介したワイナリー

くらむぼんワイン

山梨県甲州市勝沼町下岩崎 835
お問い合わせ TEL. 0553-44-0111

文:吉田彩乃 写真:遠藤素子