TOKYO蕎麦めぐり。
「江戸蕎麦 ほそ川」で愉しむ、蕎麦と料理の美学。

「江戸蕎麦 ほそ川」で愉しむ、蕎麦と料理の美学。

蕎麦屋の魅力はストイックで美しい手打ち蕎麦?それともキリッと粋な空間や佇まい?いやいや、天ぷらやツウなつまみと酒も捨てがたい。江戸蕎麦の旗手「江戸蕎麦 ほそ川」で、“蕎麦屋の醍醐味”についてとことん考えました。

フィールドワークから始まる蕎麦づくり。

「江戸ソバリエ協会」理事長のほしひかるさんと、モデルのNOMAさん。蕎麦を心から愛する二人が思いきり蕎麦をたぐって、蕎麦ととことん向き合うシリーズ「TOKYO蕎麦めぐり」。
明治2(1869)年創業の老舗「室町 砂場」の次に訪れたのは、ほしさんが愛してやまない「江戸蕎麦 ほそ川」。1985年に埼玉県吉川市で創業し、2003年に東京の両国へ移転。コアな蕎麦好きはもちろん、ピエール・エルメさんなど国内外の腕利きの料理人をも魅了してきた、江戸蕎麦の名手です。
蕎麦、料理、空間……店主、細川貴志さんの美学がちりばめられた世界を堪能するべく、小粋な暖簾をくぐりました。

東京の蕎麦をめぐるふたり

ほしひかる

ほしひかる

佐賀県佐賀市出身。豊かな知識とわかりやすい解説でビギナーからツウまで幅広く支持される、蕎麦界の博覧強記。偏愛蕎麦屋は両国「江戸蕎麦 ほそ川」。江戸の蕎麦の通人を表す民間の資格「江戸ソバリエ」認定委員長であり、深大寺そば学院講師や「武蔵国そば打ち名人戦」審査員も務めている。共著に『休日の蕎麦と温泉めぐり』『江戸蕎麦めぐり』(ともに幹書房)がある。

NOMA(ノーマ)

NOMA(ノーマ)

佐賀県佐賀市出身。ファッション雑誌からラジオのパーソナリティまで幅広いジャンルで活躍中の人気モデル。生態学者である日本人の父とシシリア系アメリカ人の母を持ち、佐賀の大自然に囲まれて育つ。ライフワークは蕎麦と植物と宇宙。江戸蕎麦は原宿「玉笑」と両国「江戸蕎麦 ほそ川」がフェイバリット。蕎麦打ちにも興味津々。VOGUE JAPAN WEBで「モードな植物哲学。」を連載中。TOKYO FM「東京プラネタリー☆カフェ」でパーソナリティを務める。

ほし
今日はNOMAさんにプレゼントがあるんです。第1回目で縄文晩期の蕎麦の実がさいたま市で出土されたとお話しましたが、その「真福寺貝塚」の“みみずく土偶”のレプリカです。
NOMA
かわいい!“お蕎麦の神様”として、さっそく自宅の神棚に飾ります。
ほしさんとNOMAさん
NOMA
久しぶりに「江戸蕎麦 ほそ川」さんに伺いましたが、モダンなデザインの暖簾が改めて素敵ですね。綺麗なお花も活けられていて、入口からこまやかな美意識を感じます。
ほし
こちらはとにかく蕎麦も料理もクォリティが高いですし、器やインテリアなどのビジュアルも美しい。バランスが良いんですね。
NOMA
ほしさんから“ほそ川愛”が伝わってきます(笑)。私も「江戸蕎麦 ほそ川」の十割蕎麦を愛してます。
ほし
徳島、茨城、北海道などをメインに常時ふたつの産地の蕎麦を自家製粉し、十割蕎麦にしています。店主の細川貴志さんは33年にわたって蕎麦の産地に足を運び、納得した農家と直接取り引きしてきました。「土や水はけの状態を知りたい」と、種を蒔く前の畑の状態を見に行くほど。暇さえあれば産地を訪れ、界隈の窯元を回っているそうです。おいしい蕎麦をつくる生産者の共通点は、水はけが良く土地のことを熟知していると。
穴子天せいろ
立派な穴子の天ぷらが付いた“穴子天せいろ”2,670円。追加せいろは920円。
NOMA
おいしいお蕎麦は店主のフィールドワークの賜物なんですね。せいろのおかわりを頼むと、1枚目とは違う産地が出てくるのがいつも嬉しくて。今日は最初が徳島の祖谷渓(いやだに)、2枚目が北海道の留萌(るもい)ですって。祖谷渓は歯ごたえが強く、濃厚な風味がワイルドで好みです。留萌は香りが爽やかな印象でした。
ほし
食べ比べると違いがよくわかりますね。「江戸蕎麦 ほそ川」ではつゆに付けないまま完食することがよくあります(笑)。ここの蕎麦はそのまま食べてもおいしい。蕎麦の実を選別して、粉にし、丁寧に打っているので、蕎麦自体の香りと味がしっかりしているからですね。
NOMA
ほしさんは、いつも山葵をどのようにしていますか?
ほし
最近ではつゆが濁るのを嫌がって中尾彬さんのように山葵を蕎麦に付ける人もいますが、つゆに入れるのが昔ながらの食べ方です(笑)。
NOMAさん

蕎麦は総合芸術だ。

NOMA
こちらは“せいろ”以外の種ものも名作揃いなので、注文に迷いますが……“冷やかき蕎麦”が大好きなんです。北海道釧路町の仙鳳址(せんぽうし)産の大きな牡蠣がふわっとした舌触りで、芳醇でまろやか。1個で普通の牡蠣3個分を食べているくらいの満足感です(笑)。
ほし
牡蠣は葛をまとわせて、沸騰した日本酒でさっと霜降りにするそうです。旨味が凝縮した“牡蠣のオイル煮”もおすすめです。私がいつも頼むのは、梅干しを浮かべた“冷かけ蕎麦”。最後まで飲み干せるすっきりと上品な味わいです。
“冷やかき蕎麦”2,000円
“冷かき蕎麦”2,000円。「夏から秋にかけて牡蠣の身がとろ~っとクリーミーになるの」。細川さんは嬉しそうに教えてくれた。
“冷かけ蕎麦”1,300円
具はシンプルに紀州産の梅干しのみ。蕎麦と冷たいだし汁を最大限に味わえる“冷かけ蕎麦”1,300円。
“煮穴子”1,100円
ほしさん絶賛の“煮穴子”1,100円。クセがなく柔らかで上品な穴子は、九州から取り寄せている。
NOMA
ほしさんお気に入りの“煮穴子”をいただきます。うん、絶品ですね!お箸で切れる柔らかさで、煮汁の甘さも絶妙なバランス。香ばしい蕎麦の実が練り込まれた “焼きみそ”も、柚子で爽やかに風味付けがされています。料理にも仕事がきっちり行き届いていますね。
ほし
いつも感心するのは、細川さんの料理に対する熱心さ。おいしい料理を提供したいという情熱を持って、研究し続けているのが素晴らしい。煮穴子を筆頭に天ぷらも名作ですが、「てんぷら 近藤」の近藤文夫さんの直伝なんだそうです。フレンチや中国料理など蕎麦屋以外のレストランへ足を運び、刺激を受けたものは自分でもトライする。「とにかく何でも揚げてみる」と特大のマシュマロを揚げて出していた時もありましたよ(笑)。
NOMA
食材もすべて生産者さんから直接仕入れていると伺いました。まさに探求し続ける料理人ですね。蕎麦も料理も空間も洗練されていて、店主の魂がすみずみまで行き渡っていると感じます。蕎麦とは総合芸術なのですね!
ほし
その通り。ここは器もかなり凝っているのですが、器の話はまた後ほど。細川さんが蕎麦打ちを実演してくれるそうですよ。
NOMA
なんてスペシャル!楽しみです!


――明日につづく。

内装
木をベースにしたモダンで温かみのある内装は、建築家の高橋修一氏による設計。

店舗情報店舗情報

江戸蕎麦 ほそ川
  • 【住所】東京都墨田区亀沢1-6-5
  • 【電話番号】03-3626-1125
  • 【営業時間】11:45~14:00(L.O.)、17:30~19:30(L.O.)
  • 【定休日】月曜 第1、第3火曜
  • 【アクセス】都営地下鉄「両国駅」より2分、JR「両国駅」より7分

文:森本亮子 写真:本野克佳 ヘアスタイリング:河原里美

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森本 亮子(編集者・ライター)

1980年兵庫生まれ、東京・錦糸町界隈に生息。出版社の雑誌編集を経てフリー9年目。肉(偏愛部位はハラミとクリ)、酒、下町酒場、イタリア、盆栽が好き。