山の音
写真に未来は写らない。
大森さんの写真 大森さんの写真

写真に未来は写らない。

みんな、赤ん坊の時間を過ごしてきた。年を重ね、バラ色か、ほろ苦いのかわからないけれど、確実に青春時代を過ごし、泣いたり笑ったりしながら、年月は過ぎ、老いる。その先には紛うことなき死が待っている。そしていま、写真を撮ったことも撮られたこともないという人はいないだろう。人生のある瞬間を、写真は確かに記録する。

丸刈りで国民服姿の父がその写真を見ている自分より年下なのである

祖父の家が神戸市須磨区にあり、そこには古い写真を収めたアルバムが何冊もあって、小さい頃からそのアルバムを見るのが好きだった。
祖父の会社の慰安旅行、山登り、結婚式のスナップ写真、広島にいる会ったことのない遠い親戚たち、路面電車が走っている神戸の街並。アルバムの写真を見ることに旅行のような、探検のような高揚があった。

大森さんの写真

昭和20年8月終戦記念、と書かれた家族写真をアルバムの中に発見したのは確かボクが中学2年の頃だったか。祖父、祖母、4人兄弟の末っ子の父、伯父、そして伯母がふたり。大森家6人家族の記念写真。その写真をまじまじと見つめていたボクは、あることに気がついて衝撃を受ける。狼狽する。写真の中の、丸刈りで国民服姿の父がその写真を見ている自分より年下なのである。自分の父なのに、お父さんなのに。まるで自分が時間旅行のSF小説の登場人物になったかのようだ。いま、そのアルバムを見るとすると、55歳になった自分より若い父にいろんな場面で会えるに違いない。
大学生の頃、伯父と肩を組んで神戸の町に立つ父。新婚旅行で別府の熱い源泉の脇に若い母と笑っている父。明石の団地に母と居を構えることもいまだ知らない、大阪万博に行くことも、ひとりの息子と3人の娘の父親になることも、息子が写真家になることも、神戸に大地震が起こることも、スターバックスも、携帯電話も知らない父。
時間が育てる、熟成させる写真の不思議な力。あなたがいま付き合いはじめたばかりのボーイフレンドと一緒に写真を撮るとしますね。そして時が流れ、その写真が元カレと一緒の写真、となるのか、夫婦が出会った頃の写真になるのか、いまのあなたにはわからない。決められない。

大森さんの写真

ほかでもない、ここにしかない、かけがえのない

2018年の春、サニーデイ・サービスの『the City』というアルバムのジャケット写真を撮影した。バンドを支えるコミュニティの記念写真のようなものである。実際に血のつながった家族だけでなく、友人たちや美容師さんや、よく行くラーメン屋の店主だったり、マネージャーのお母さんだったり、ある種の拡大家族のようなことなのかもしれないなぁ、曽我部クンが考えていたのは。26人の不思議な集団が東京のごく普通の公園に集まって、各自が思い思いの表情でこちらを見ている。
『the City』というアルバムタイトルのそのtheという定冠詞。ほかでもない、ここにしかない、かけがえのない、という雰囲気が濃厚に写真に滲んでいて何度見ても飽きがこない。ここ数年自分がやった仕事の中でもっとも気に入っているもののひとつです。アナログのLP盤が制作されたことも、うれしいことのひとつだったな。
メンバー以外、ほとんどボクがよく知らない人たちの映っているその不思議な記念写真、事務所に飾ってときどき眺めている。

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――文月につづく。

文・写真:大森克己

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大森 克己(写真家)

1963年、兵庫県神戸市生まれ。1994年『GOOD TRIPS,BAD TRIPS』で第3回写真新世紀優秀賞を受賞。近年は個展「sounds and things」(MEM/2014)、「when the memory leaves you」(MEM/2015)。「山の音」(テラススクエア/2018)を開催。東京都写真美術館「路上から世界を変えていく」(2013)、チューリッヒのMuseum Rietberg『GARDENS OF THE WORLD 』(2016)などのグループ展に参加。主な作品集に『サルサ・ガムテープ』(リトルモア)、『サナヨラ』(愛育社)、『すべては初めて起こる』(マッチアンドカンパニー)など。YUKI『まばたき』、サニーデイ・サービス『the CITY』などのジャケット写真や『BRUTUS』『SWITCH』などのエディトリアルでも多くの撮影を行っている。