山の音
あらあらかしこ。
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あらあらかしこ。

春は別れの季節。行く末に思いを馳せれば、希望と感傷と不安が交錯する。そして、あたたかな陽気に誘われるように、新しい一歩を踏み出す。そう、春は出会いの季節でもある。恐惶謹言。

栄湯はタトゥー、入れ墨もOKで、最寄りの駅は三ノ輪です

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自分を形づくっているものって何なんでしょうね。感受性とか考え方とか、そっちの方面。
たとえば、さまざなな音楽に感動して影響を受けてきましたが、いまのボクがいちばん好きな音楽は、そうだなあ、シューベルトかな。あえてのベスト3を挙げるとすると、すべて室内楽なのです。
3位:「八重奏曲 ヘ長調 D803」2位:「弦楽四重奏曲15番 ト長調 D877」1位:「弦楽5重奏曲 ハ長調 D956」。
もうねえ、5つの弦の対話、会話のスリルがこんなにドキドキとエロティックに伝わってくる音楽はなかなかないですね。では1位の曲をL’Archibudelliの演奏でどうぞ。https://www.youtube.com/watch?v=0jiwAjI4Obs

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文章、小説や詩や評論、エッセイということでいうとなんだろう。これはもう橋本治につきますね。本当に残念なことに昨年お亡くなりになりましたが、まだ自分の中で受けとめきれていない橋本さんのことばが蠢き続けているなあ。
3位:「ひらがな日本美術史」(新潮社)2位:「桃尻娘」(講談社)1位:「蓮と刀」(河出文庫)。
「蓮と刀」の副題は「どうして男は“男”をこわがるのか?」これだけで、もう深い所へ降りて行かざるを得ないのです。

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ヤバい写真集、これは選ぶの難しいなあ。
3位:Robert Frank「The Americans 」2位:William Eggleston「Democratic Forest」1位:Diane Arbus「Diane Arbus」。
うーん、やっぱり難しい。Diane Arbusは学生時代、写真集をバラバラに解体して椎名町の家賃¥13,000―四畳半の自室の壁に貼りまくってました。
東京の好きな街。3位:「新井薬師」2位:「浅草」1位:「八丁堀」番外で「恵比寿」あと、東京じゃないですが「浦安」。
好きな東京の銭湯。3位:「湊湯」(八丁堀)2位:「清水湯」(武蔵小山)1位:「湯どんぶり 栄湯」(日本堤)。どこもお湯が素晴らしい。栄湯はタトゥー、入れ墨もOKで、最寄りの駅は三ノ輪です。
好きなカクテル。3位:「ラフロイグ・プロジェクト」https://www.washingtonpost.com/recipes/laphroaig-project/15533/これは恵比寿のバー「trench」のロジェリオ・五十嵐・ヴァズさんに教えてもらった&つくってもらったのですが、元はサンフランシスコのテンダーロインという地区にある「Bourbon and Branch」という店のOwen Westmanという人が考案したもの。酒、酒、酒、酒、そして酒、という強力なカクテルですがたまらんです。食前でも食後でも。2位:「ジャック・ローズ」1位「ネグローニ」。

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ちょっとほかのカメラでは体験できない次元の何かです

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好きな落語家(故人の部)。3位:「三代目桂米朝」2位:「三代目桂春団治」1位:「六代目笑福亭松鶴」。「松鶴極つき十三夜」という音源に詰まっているストリート感はホンマ、やばいでっせ。
好きな野球選手。3位:「福本豊」(阪急ブレーブス)2位:「ジョン・シピン」(大洋ホエールズ)1位:江夏豊(阪神タイガース)。
好きなカメラ。3位:「CANON NEW F-1」2位「KONICA HEXAR RF」1位:「LEICA M3」。最近、M3はあまり使っていないのですが、インターフェイス、触り心地、重量感、どれをとっても素晴らしいのですが、ファインダーを覗いてフォーカスを合わせる時の気持ち良さは、ちょっとほかのカメラでは体験できない次元の何かです。
魂の位の高い友人&最高の夜を一緒に過ごした女性ベスト3、これは2つとも書くのはやめときます、笑。

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ああ、やっぱりシューベルトは素晴らしいなあ。長い長い道を歩いていて、やっと曲がり角が見えて、そこを曲がるとまたまったく新しい景色が見える!
さて、1年間に渡って連載してきた「山の音」はしばらくお休みします。引っ越し先が決まったら、ボクのSNSなどでまたお知らせしますね。ご愛読ありがとうございました。

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――未来につづく。

文・写真:大森克己

大森 克己

大森 克己 (写真家)

1963年、兵庫県神戸市生まれ。1994年『GOOD TRIPS,BAD TRIPS』で第3回写真新世紀優秀賞を受賞。近年は個展「sounds and things」(MEM/2014)、「when the memory leaves you」(MEM/2015)。「山の音」(テラススクエア/2018)を開催。東京都写真美術館「路上から世界を変えていく」(2013)、チューリッヒのMuseum Rietberg『GARDENS OF THE WORLD 』(2016)などのグループ展に参加。主な作品集に『サルサ・ガムテープ』(リトルモア)、『サナヨラ』(愛育社)、『すべては初めて起こる』(マッチアンドカンパニー)など。YUKI『まばたき』、サニーデイ・サービス『the CITY』などのジャケット写真や『BRUTUS』『SWITCH』などのエディトリアルでも多くの撮影を行っている。