観光客の知らない浅草~浅草高校・国語教師の飲み倒れ講座~
「コントワールクワン」でジャンルレスな洋食を|神林先生の浅草ひとり飲み案内⑦

「コントワールクワン」でジャンルレスな洋食を|神林先生の浅草ひとり飲み案内⑦

穴場感満点、自然派ワインを愉しめるカウンターだけの料理店が登場!江戸の“飲み倒れ”の精神を、「飲むことに人生を懸けて」追求する神林先生が、自身のミニコミ「ひとり飲みの店ランキング2019」25軒より、欧風料理店を案内します。

“アサクラ”エリアの隠れ家的名店である。

極めて柔らかい食感!ゴルゴンゾーラのニョッキ1,700円。
極めて柔らかい食感!ゴルゴンゾーラのニョッキ1,700円。

僕だって、おやじ酒場ばかりではなく、たまにはビストロやワインバーにも行くのだ。
このジャンルで一番お世話になっているのは「ペタンク」(8位)なのだが、『ミシュランガイド東京2019』のビブグルマンに選出されたり、レシピ本『小さなビストロ「ペタンク」ワインが旨い絶品つまみ』(世界文化社)を出したり、いろんな雑誌で紹介されたりということで今回の取材は遠慮させていただいた。山田シェフごめんなさい(dancyu 2018年5月号に登場しているのでご覧ください)。

神林先生が職場の都立浅草高校で配布する目的でつくり始めたミニコミ誌。今回のテーマは「ひとり飲みの店ランキング2019」に即した大好きな店ばかり25軒をランキング形式で紹介しています。
神林先生が職場の都立浅草高校で配布する目的でつくり始めたミニコミ誌。今回のテーマは「ひとり飲みの店ランキング2019」に即した大好きな店ばかり25軒をランキング形式で紹介しています。
キッチンを囲むカウンター席。料理のライブ感が感じられます。
キッチンを囲むカウンター席。料理のライブ感が感じられます。

「Comptoir Coin」という店名は、フランス語で「コントワール」はカウンター、「クワン」はコーナー(角)という意味。店名はフランス語だが、ジャンルレスの洋食と自然派ワインが愉しめるカウンターバル。路地裏の角の小さな店は、「ひとり飲み」にピッタリのロケーションだ。
しかも住所は「~島宅1階」。民家の1階を自らリノベーションした文字通りの「隠れ家」なのだ。店は蔵前にあるのだが、近年この辺りにはオシャレな店が増え、浅草から蔵前にかけての一帯が「アサクラ」と呼ばれ注目されていることもあり、取り上げた。

マスターの丸井裕介さんはイケメンだ。しかし、料理のクオリティーをルックスでカバーしている店とは一線を画する魅力的な料理を提供する。

店内のインテリアは磨かれたセンスが感じられます。
店内のインテリアは磨かれたセンスが感じられます。
店の前に立つ店主の丸井裕介さん。ここだけパリの一角のよう?
店の前に立つ店主の丸井裕介さん。ここだけパリの一角のよう?

マスターは優男(やさおとこ)ではない。料理への関心を持つまでは実は建築関係の仕事に携わっていた。
東日本大震災を機に「生きる基本としての食・食の安全性」に興味を持ち、料理の道に。イタリアンをはじめ、ビストロ、バーなどさまざまなジャンルで寸暇を惜しんで働いて技術と食の知識・哲学を学び、餃子屋の工場立ち上げを任されたことで経営のノウハウも身に付ける。
そして、2015年にこの店を開店した。

ランプや飾られる絵はブロカントのような雰囲気が漂います。
ランプや飾られる絵はブロカントのような雰囲気が漂います。
店名どおり、“コントワールクワン”のなかで立ち回る丸井さん。
店名どおり、“コントワールクワン”のなかで立ち回る丸井さん。

「~風」と称する料理に店主の個性と心意気と自信が詰まっている。

店は6坪。厨房を囲むL字カウンターに7席、壁側3席のカウンターは手造りだ。アートには昔から興味があり、作家ものを揃えた店の装飾や食器類にはセンスが光る。
特に厨房には工夫を凝らし、狭いスペースに2口(しかない)のガス台。それをカバーするスチームコンベクションオーブン、真空低温調理器、下ごしらえに活躍する真空包装機、食器洗浄機、省エネで修理もしやすい家庭用冷蔵庫などを機能的に配備。
客の目の前で魔法のように次々と料理ができ上がる。

メニュー数は、前菜、ピザとパスタ、メイン、デザートでなんと常時30~40種類。
これをたった一人で!この驚きも「コントワールクワン」の大きな魅力につながっている。しかも1,000円台が中心だ。
料理は「自然派ワインに合うもの」を考えている。自然派といわれるワインとはオーガニック農法や自然な生産方法で造られたワインで、健康的で飲みやすい。流通量は少ないが、ラベルなども自由で楽しいものが多く、価格が手頃なのもありがたい。クワンでは、グラス1杯を一律900円で提供している。

前菜の“野菜の盛り合わせ”には手間をかけた7種類ほどの料理が並び、この1皿だけでも彼の実力がわかる。

前菜盛り合わせ1,200円。この日は季節の野菜のグリルにマリネ、揚げ物、玉ねぎのタルト、オムレツ。ワインが進んでしまいます。
前菜盛り合わせ1,200円。この日は季節の野菜のグリルにマリネ、揚げ物、玉ねぎのタルト、オムレツ。ワインが進んでしまいます。

“クワン製 牛100%ハンバーグ”は手切りの肉々しさがたまらない。

手切りの牛肉と挽き肉、背脂少々を合わせたハンバーグ1,900円。“肉を噛みしめている”実感が湧き上がる1品。黄身がソースのよう。
手切りの牛肉と挽き肉、背脂少々を合わせたハンバーグ1,900円。“肉を噛みしめている”実感が湧き上がる1品。黄身がソースのよう。

彼は「本格的」とほめられることを好まない。
「~風でいいじゃないですか。~風が大事なんです。」と悪戯っぽく笑う。
それを象徴する料理がピッツァだ。生地の粉の配合や焼き方を工夫し(オーブンで焼いた後に焜炉の網で焼き上げ、バーナーで焦げ目を付ける)、窯はなくとも「ナポリピッツァ風」モチッとした美味しいピッツァに仕上げる。「~風」には彼のアイデアとアレンジ、思想と個性、そして、心意気と自信とが詰まっているのだ。

“ピッツァ マルゲリータ”1,000円。香ばしくてクリーミー!
“ピッツァ マルゲリータ”1,000円。香ばしくてクリーミー!

こう見てくると「コントワールクワン」の料理は、先に「イタリアン系」と書いたが、実はジャンルを超えた「クワン風」の料理なのだ。

路地裏の角にある小さな別世界。
独創的で工夫に満ちた「オンリーワン」の料理と、「オンリーワン」の店づくりがそこにある。しなやかで魅力的な丸井ワールドに、あなたもきっとハマりますよ。

神林先生の「ひとり飲みの店ランキング2019」より。
▼15位「焼酎処 乙」
2005年開業。珍しい焼酎が揃っている。地元の客や飲食関係者たちが多く集まる店。
▼14位「OGURA isBar」
1998年開業。オーセンティックな雰囲気で、ウイスキーの品揃えがすばらしい大人のバー。
▼13位「田毎」
1966年開業。釜飯屋で飲む。焼鳥も『dancyu』に載る実力。女将は元女子レスラー。
▼12位「コントワールクワン」
2015年開業。自然派ワインバー。パスタ、ピザ、メイン料理が1000円前後から。
▼11位「おにぎり 金太郎」
1972年開業。吉原裏の渋いおにぎり居酒屋。女将さん手製の日毎の惣菜も魅力。
▼10位「呑み喰い処 酔花」
2007年開業。浅草の芸者衆や旦那衆も立ち寄る家庭的な店。靴を脱いでくつろげる。
▼9位「笑ひめ」
2010年開業。愛媛料理の居酒屋。着物に割烹着姿の女将が人気。柑橘系の酒が充実。
▼8位「ペタンク」
2017年開業。「ミシュランガイド東京 2019」ビブグルマン掲載のビストロ。気取らずに料理とワインを。要予約。
▼7位「ちゃこーる」
2013年開業。元「萬鳥(ばんちょう)」の焼き方が開いた。天城軍鶏に仏産鶉、鴨、ジビエもある焼鳥屋。
▼6位「コメジルシ」 
2014年開業。浅草駅地下街のカルト的日本酒バー。店主におまかせのお得なコース制。
(ランキングは、テーマや先生の独断で変動することも多分にあります)

*前回『OGURA is Bar』の「女に言う(メニュー)」の答えは、「当然事=あたりめ」、「骨折=ポッキー」、「野球首領=焼きうどん」でした。正解できましたか?

――明日につづく。

似顔絵
<本日のお会計>
前菜盛り合わせ1,200円、グラスワイン900円を2杯、“クワン製 牛100%ハンバーグ”1,900円。計円4,900円也。

店舗情報店舗情報

コントワールクワン
  • 【住所】東京都台東区蔵前4‐8‐9 島宅1階
  • 【電話番号】なし(予約はメールcomptoir.coin@gmail.com、Instagram「comptoir.coin」、facebook「comptoir coin」で受け付け)
  • 【営業時間】19:00~23:00(予約のみ17:00~)
  • 【定休日】不定休
  • 【アクセス】都営線「蔵前駅」より1分

文:神林桂一 写真:大沼ショージ

kanbayashi_-teacher.jpg

神林 桂一(都立高校国語教師)

教師生活41年。食べ歩き、飲み歩き歴は44年。10年前の都立一橋高校(馬喰町)時代から食のランキング・ミニコミを刊行(おもに職場で配布)。下町エリアを中心に酒場、定食屋、バー、和・洋・中・その他のエスニック料理店と守備範囲は広いが、なかでも“お母さん酒場”には並々ならぬ情熱を持つ。食にまつわる書籍、雑誌、テレビ番組、一般的なランキングサイトなど、リサーチにも余念がなく、自作のデータベースには行った店・約9000軒を含む1万4800軒の店や食の情報が整理されている。毎日早朝6時、デッキや外付けHDD計4台に録りためた番組をチェックすることから1日が始まる。