穴場感満点、自然派ワインを愉しめるカウンターだけの料理店が登場!江戸の“飲み倒れ”の精神を、「飲むことに人生を懸けて」追求する神林先生が、自身のミニコミ「ひとり飲みの店ランキング2019」25軒より、欧風料理店を案内します。
僕だって、おやじ酒場ばかりではなく、たまにはビストロやワインバーにも行くのだ。
このジャンルで一番お世話になっているのは「ペタンク」(8位)なのだが、『ミシュランガイド東京2019』のビブグルマンに選出されたり、レシピ本『小さなビストロ「ペタンク」ワインが旨い絶品つまみ』(世界文化社)を出したり、いろんな雑誌で紹介されたりということで今回の取材は遠慮させていただいた。山田シェフごめんなさい(dancyu 2018年5月号に登場しているのでご覧ください)。
「Comptoir Coin」という店名は、フランス語で「コントワール」はカウンター、「クワン」はコーナー(角)という意味。店名はフランス語だが、ジャンルレスの洋食と自然派ワインが愉しめるカウンターバル。路地裏の角の小さな店は、「ひとり飲み」にピッタリのロケーションだ。
しかも住所は「~島宅1階」。民家の1階を自らリノベーションした文字通りの「隠れ家」なのだ。店は蔵前にあるのだが、近年この辺りにはオシャレな店が増え、浅草から蔵前にかけての一帯が「アサクラ」と呼ばれ注目されていることもあり、取り上げた。
マスターの丸井裕介さんはイケメンだ。しかし、料理のクオリティーをルックスでカバーしている店とは一線を画する魅力的な料理を提供する。
マスターは優男(やさおとこ)ではない。料理への関心を持つまでは実は建築関係の仕事に携わっていた。
東日本大震災を機に「生きる基本としての食・食の安全性」に興味を持ち、料理の道に。イタリアンをはじめ、ビストロ、バーなどさまざまなジャンルで寸暇を惜しんで働いて技術と食の知識・哲学を学び、餃子屋の工場立ち上げを任されたことで経営のノウハウも身に付ける。
そして、2015年にこの店を開店した。
店は6坪。厨房を囲むL字カウンターに7席、壁側3席のカウンターは手造りだ。アートには昔から興味があり、作家ものを揃えた店の装飾や食器類にはセンスが光る。
特に厨房には工夫を凝らし、狭いスペースに2口(しかない)のガス台。それをカバーするスチームコンベクションオーブン、真空低温調理器、下ごしらえに活躍する真空包装機、食器洗浄機、省エネで修理もしやすい家庭用冷蔵庫などを機能的に配備。
客の目の前で魔法のように次々と料理ができ上がる。
メニュー数は、前菜、ピザとパスタ、メイン、デザートでなんと常時30~40種類。
これをたった一人で!この驚きも「コントワールクワン」の大きな魅力につながっている。しかも1,000円台が中心だ。
料理は「自然派ワインに合うもの」を考えている。自然派といわれるワインとはオーガニック農法や自然な生産方法で造られたワインで、健康的で飲みやすい。流通量は少ないが、ラベルなども自由で楽しいものが多く、価格が手頃なのもありがたい。クワンでは、グラス1杯を一律900円で提供している。
前菜の“野菜の盛り合わせ”には手間をかけた7種類ほどの料理が並び、この1皿だけでも彼の実力がわかる。
“クワン製 牛100%ハンバーグ”は手切りの肉々しさがたまらない。
彼は「本格的」とほめられることを好まない。
「~風でいいじゃないですか。~風が大事なんです。」と悪戯っぽく笑う。
それを象徴する料理がピッツァだ。生地の粉の配合や焼き方を工夫し(オーブンで焼いた後に焜炉の網で焼き上げ、バーナーで焦げ目を付ける)、窯はなくとも「ナポリピッツァ風」モチッとした美味しいピッツァに仕上げる。「~風」には彼のアイデアとアレンジ、思想と個性、そして、心意気と自信とが詰まっているのだ。
こう見てくると「コントワールクワン」の料理は、先に「イタリアン系」と書いたが、実はジャンルを超えた「クワン風」の料理なのだ。
路地裏の角にある小さな別世界。
独創的で工夫に満ちた「オンリーワン」の料理と、「オンリーワン」の店づくりがそこにある。しなやかで魅力的な丸井ワールドに、あなたもきっとハマりますよ。
*前回『OGURA is Bar』の「女に言う(メニュー)」の答えは、「当然事=あたりめ」、「骨折=ポッキー」、「野球首領=焼きうどん」でした。正解できましたか?
――明日につづく。
文:神林桂一 写真:大沼ショージ