観光客の知らない浅草~浅草高校・国語教師の飲み倒れ講座~
「スナックひまわり」で歌う|神林先生の浅草ひとり飲み案内⑤

「スナックひまわり」で歌う|神林先生の浅草ひとり飲み案内⑤

ときには歌い上げたい夜もある。そんなときは、カラオケ上級者が集う「スナックひまわり」へ。「倒れるまで飲む」の意ではなく、「飲むことに人生を懸ける」という“飲み倒れ”の精神を体を張って追求する、東京都立浅草高校国語教師の神林桂一先生。自身が刊行するミニコミ「ひとり飲みの店ランキング2019」の選り抜き25軒より、今晩は浅草観音裏のカラオケスナックへGO!

スナックとは、ママの“お城”である。

今回は、変化球で攻めよう。
1軒目からストレートにスナックを目指すことは少ない。
いわば「大きく曲がるカーブ」。
はしご酒の途中や2次会でついつい吸い込まれてしまう迷宮。

ベルベット地のソファに腰かけると、おしぼりと飲み物、ママ手製が。
ベルベット地のソファに腰かけると、おしぼりと飲み物、ママ手製が。

スナックは飲兵衛の世界でも黒帯クラスだ。
「怖い」「怪しい」と敬遠して行ったことがない人も多いだろう。
しかしそれは食わず嫌いというもの。
浅草キッドの玉袋筋太郎さんは、スナック文化の普及をめざす「全日本スナック連盟」の会長であり、そのためのイベント「スナック玉ちゃん」を催している。さらに自らスナックのマスターとなって経営もしている。
“スナック十段”の玉ちゃんは「スナックは癒しのオアシスであり、人生の学び舎です」と断言する。
そう、スナックはそれぞれのママの“お城”であり、さまざまな人生に触れる場所でもある。

神林先生が職場の都立浅草高校で配布する目的でつくり始めたミニコミ誌。浅草の食文化の深さを伝えるべく、浅草エリアの何千軒もの飲食店より、テーマごとに大好きな店をランキング形式で紹介。今回のテーマは「ひとり飲みの店ランキング2019」。
神林先生が職場の都立浅草高校で配布する目的でつくり始めたミニコミ誌。浅草の食文化の深さを伝えるべく、浅草エリアの何千軒もの飲食店より、テーマごとに大好きな店をランキング形式で紹介。今回のテーマは「ひとり飲みの店ランキング2019」。

首都大学東京教授・谷口功一氏らの「スナック研究会」によると、全国のスナックは約10万軒。居酒屋(約8万軒)・コンビニ(約6万軒)を大きく上回るという。
先の東京オリンピック(1964年)前後、風俗営業によって店側による接待行為は午前0時までと制限されるようになった。そのため、軽食と酒を扱う店、つまり接待行為を伴わない「スナックバー」が深夜飲食営業店として急激に増えた。
カウンター越しの接客が原則なので、テーブル席でもホステスは客の隣には座らない。
セット料金でクラブやキャバクラより安く、家庭的でカラオケがある。
スナックは世界でも稀な日本独特の営業形態なのだ。

「スナックひまわり」の壁には、堂々たる油絵が(画・萬田智子さん)。浅草寺の雷門(風雷神門)。
「スナックひまわり」の壁には、堂々たる油絵が(画・萬田智子さん)。浅草寺の雷門(風雷神門)。
こちらは宝蔵門(仁王門)。店内にいながら浅草らしい雰囲気に浸れます。
こちらは宝蔵門(仁王門)。店内にいながら浅草らしい雰囲気に浸れます。

時には熱唱したい夜もある。

ひとり飲みでは「渋く落ち着いた雰囲気」だけではではなく、時には「さんざめき(心地よいざわめき)」の中に身を置く心地よさを味わいたい。
また、カラオケでストレスを発散したいことも……。

そんな時、僕の足は「スナックひまわり」(24位)へと向かう。
全日本スナック連盟公認の良心的な店で、地元でも評判が良い。いまどき珍しい大箱で優に30人以上は入るが、カウンターはない。

ママの柴田節子さん。おおらかな接客で、ママのファン多し。
ママの柴田節子さん。おおらかな接客で、ママのファン多し。

柴田節子ママは福島県相馬市の出身の76歳。16歳で上京し、カバン屋で住み込みで働いた。結婚後、主婦業と子育てをしながらスナックで働いてきた苦労人。
独立してこの店を開いたのが1989年。店名は、花の名のスナックは多いが当時、夜の店なのに「ひまわり」という名はなかったから選んだ。節子ママのおおらかで明るい性格にピッタリの名前だ。
ほぼ年中無休。予約が入れば昼カラオケもOKという「鉄人ママ」なのだ。手づくりのお通しもお袋の味である。

次々に小鉢が出てきます。この日は、ほうれん草の胡麻あえやきんぴらごぼうなど。そしてイチゴ。必ず季節の果物が添えられます。
次々に小鉢が出てきます。この日は、ほうれん草の胡麻あえやきんぴらごぼうなど。そしてイチゴ。必ず季節の果物が添えられます。
艶っぽい着物姿の恵子さんと『泣きながら夢を見て』をデュエット。桜はすべて本物!28年前より、毎年本物の桜の木を飾っています。
艶っぽい着物姿の恵子さんと『泣きながら夢を見て』をデュエット。桜はすべて本物!28年前より、毎年本物の桜の木を飾っています。

着物姿も艶やかな恵子さんは、この店で働き始めて10年以上でママとは名コンビ。
歌の上手さはプロ級で、デュエットしてもらうと自分まで上手くなった気分になってしまう。

客もカラオケ上級者が多く、英語の歌が得意な議員先生、ハモるのが上手な警察署長、和服で踊る他店のマスター……と個性的(ちなみに僕の十八番は上田正樹です)。

この日遊びに来ていた、浅草で店を営むマスターとお友達のみなさん。
この日遊びに来ていた、浅草で店を営むマスターとお友達のみなさん。
踊りが得意なお客さん。おもむろに席を立ち……。
踊りが得意なお客さん。おもむろに席を立ち……。
目を閉じ、舞う!
目を閉じ、舞う!
扇子を開けば“三社祭”の筆文字。そう、ここは浅草!
扇子を開けば“三社祭”の筆文字。そう、ここは浅草!

なんと、テレビ番組『和風総本家』に登場したり、一青窈も歌いに来たりという実力店なのだ。
毎年春先には「桜祭り」と称して店中が桜の大きな生花で埋め尽くされ、店内で花見ができるというゴージャスさ。あなたもこんな“人生酒場”で男を磨いてみてはどうだろう。

「今日もありがとうございました」
「先生、お帰り気をつけてね」
「この看板のひまわりってば、私がモデルなんだって!」
「またね。おやすみなさ~い」
神林先生の「ひとり飲みの店ランキング2019」より。
▼25位「角打ちフタバ」
2013年開業。酒販店「酒のフタバ」内にある角打ち。ビール1本、日本酒3杯の“センベロセット”1,080円!
▼24位「スナックひまわり」
1989年開業。一青窈も来た実力店。テレビ番組『和風総本家』登場。春は店内が本物の桜の花で埋まる。
▼23位「食べ呑み処 あぐまる」
2018年開業。まだ素人っぽい若い女性二人が営む。こんな店を応援するのも愉しい。
▼22位「洒落者」
2016年開業。「dancyu」で紹介された、日本酒の品揃えが素晴らしい立ち飲み。
▼21位「なお太」
2009年開業。深夜に極細打ち蕎麦が食べられる。活気があり、蕎麦以外の一品料理も大充実。
▼20位「しゅこう みやもと」
2004年開業。もっとも通っている店だが、いつも仲間と飲むので今回のランクは控えめ。
▼19位「Gyoza Bar けいすけ」
2016年開業。神戸味噌だれ餃子の店。パクチー餃子など創作餃子も多く、愉しい。
▼18位「食堂うんすけ」
2014年開業。ママが集めた民芸品とカレーと手料理の店。夜は厳選した日本酒も。
▼17位「吉原もん」
2014年開業。吉原大門・見返り柳前にある立石「玄庵」出身の人気蕎麦居酒屋。酒肴も手打ち蕎麦もお手頃。
▼16位「林檎や」
2016年開業。元向島芸者・りんごさんの居酒屋。ランチのカレーも夜の料理も旨い。
(ランキングは、テーマや先生の独断で変動することも多分にあります)

ちなみに「Gyoza Bar けいすけ」(19位)は、ワインと神戸味噌だれ餃子の店で「鋭く切れるスライダー」。
「角打ち フタバ」(25位)は、角打ちなのに飲める酒の品揃えが驚くほど多彩で「意表を突かれるチェンジアップ」。
「田毎(たごと)」(13位)は、釜飯と焼き鳥と元女子プロレスラーの女将によって「三振に打ち取られるフォークボール」といったところか。

――明日につづく。

似顔絵
<本日のお会計>
瓶ビール“アサヒ スーパードライ”、ママの手料理いろいろ(ほうれん草の胡麻あえ、きんぴらごぼう、高野豆腐の煮物、クラゲときゅうりと油揚げの酢の物、白菜漬け)、イチゴ、キープボトルの“眞露”のウーロンハイで、計5,000円也。

店舗情報店舗情報

スナックひまわり
  • 【住所】東京都台東区浅草4‐11‐1
  • 【電話番号】03‐3875‐2291
  • 【営業時間】18:00~翌1:00頃
  • 【定休日】不定休
  • 【アクセス】地下鉄・私鉄「浅草駅」より10分

文:神林桂一 写真:大沼ショージ

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神林 桂一(都立高校国語教師)

教師生活41年。食べ歩き、飲み歩き歴は44年。10年前の都立一橋高校(馬喰町)時代から食のランキング・ミニコミを刊行(おもに職場で配布)。下町エリアを中心に酒場、定食屋、バー、和・洋・中・その他のエスニック料理店と守備範囲は広いが、なかでも“お母さん酒場”には並々ならぬ情熱を持つ。食にまつわる書籍、雑誌、テレビ番組、一般的なランキングサイトなど、リサーチにも余念がなく、自作のデータベースには行った店・約9000軒を含む1万4800軒の店や食の情報が整理されている。毎日早朝6時、デッキや外付けHDD計4台に録りためた番組をチェックすることから1日が始まる。