アルザス・ワイン街道の探訪記。最終回は中世の風情を呈した街で味わうワインと料理を綴ります。乾燥した風が吹く雄大な山麓では、永らく変わることのない質実で透明感のある味わいが愛されていました。
中世の佇まいがそのまま残る小さな街、リクヴィールはアルザス・ワイン街道の真ん中あたりに位置する。老舗ワイナリーの「ヒューゲル」は日本でも馴染みが深い。リクヴィールに25haを超えるぶどう畑を所有するが、その半分が平均樹齢30年を超えるグラン・クリュの樹で、化学肥料を使用しない。
街角にある直営のワイン販売店で試飲をした。ワインの等級が上がるほど、香りが立ち、透明感を保ちながら深みを増していった。
透明感のあるアルザスワインは、繊細であっさりとした日本料理との相性が抜群だ。
食前酒にはデリケートで香り高いミュスカ、刺身や野菜には食材にそっと寄り添うような味わいのピノブランやシルバネール、寿司や天ぷらとは柑橘系とミネラルの硬質感が備わったリースリング、すき焼きなどの肉料理にも味の濃いピノグリはバランスが取れる。
日本ではなじみの薄いゲベルツトラミネールは甘口と辛口がある。甘口はデザートワインに適しており、辛口はスパイシーな芳香にほのかな甘みが加わり上品な味わいだ。
リクヴィールの南西にあり、中世の古城が残る街、カイザスベルグでアルザス料理のレストランに入った。コロンバージュ様式の店内は、観光客や地元の人でほぼ満席。
ソーセージや牛肉、豚肉、ジビエの鹿や猪といった多様な肉料理やジャガイモ、シュークルートがアルザス料理の定番だ。日本人の感覚ではたっぷり2、3人前のボリュームがある。
地元産の赤ワイン、ピノノワールと相性が良い。料理はクリーミーで繊細なフランス料理と違い、質実なドイツ料理の部類に入る。旧ドイツ語圏でもあるので当然だろう。地名も、ドイツ語源の綴りが圧倒的に多い。
支配する人種がめまぐるしく替わってきたアルザス・ワイン街道だが、テロワールが醸してきた味わいは不変だ。これからも多くの人を魅了し続けていくことだろう。
本場と同様のアルザス料理を味わえる店が、東京にもある。浅草橋駅近くの「ジョンティ」だ。店の名前は、単一品種で醸造するヒューゲル社が、5種類のブドウ品種をブレンドして醸造したワイン名に由来する。日本で見かけるアルザス料理の店は珍しく、ランチ、ディナーとも賑わっている。豚肉、ベーコン、ソーセージにシュークルートとジャガイモを付け合わせたプレートは、盛り合わせ方も味わいも本場に匹敵する。
(了)
文:香西聡平 イラスト:ミヤザキオサム