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チャーハンづくりの常識が変わります。

チャーハンづくりの常識が変わります。

怒涛の10連休は、家ごはんの献立に頭を悩ませる人も多いはず。家庭の昼ごはんの4番打者であるチャーハンを、簡単においしくつくれるレシピを紹介します。鍋をあおらずふんわりパラパラに仕上がる、フライパンチャーハンの極意を押さえておけば、一生、チャーハンには悩まない! 

なぜ、家でチャーハンをつくるとパサパサになるの?

ごはんはパラパラ香ばしく、口当たりはしっとりふんわり。そんな理想を掲げても、パサパサになったり、ベタベタしたり。ピタリと着地できないのが、チャーハンの難しさだろう。
「失敗するのは火加減が原因。フライパンでつくるなら、弱火でゆっくり炒めるのが一番です」
こう断言するのは、料理科学研究家の水島弘史さんだ。フレンチの料理人でもある水島さんは、その知識と経験をベースにして科学的かつ理論的においしさを解明。家庭のチャーハンは、強火よりも弱火という結論に至ったそうだ。

教える人

水島弘史

水島弘史

フランスで料理を学び、帰国後はレストランで腕を振るう一方、科学的調理理論を構築する。2010年より麻布十番で「水島弘史の料理教室」を開催。予約開始時間ぴったりに申し込んでも、予約ができないこともあるほど人気ぶり。最新刊に『読むだけで腕があがる料理の新法則』(ワニブックスPLUS)がある。

「そもそも『強火で手早く炒めるべし』というのは、プロの常識。中華鍋専用のコンロは火口と鍋の距離が遠く、しかも丸い鍋底が炎を外に逃がすので、強火でも鍋の底はさほど熱くなっていません。対して、家庭のコンロは火口が近く、底が平らなフライパンを強火にかけ続けると、高温になりすぎる特性があるんです」
灼熱のフライパンでチャーハンをつくると、加熱のしすぎでごはんがパサパサに。その点、弱火でゆっくり温度を上げていけば、熱のダメージが少なく水分もキープされるのだとか。

弱火で炒めることで、ごはんが焦げつかず、卵との一体感が生まれやすくなる。
弱火で炒めることで、ごはんが焦げつかず、卵との一体感が生まれやすくなる。

今回、教えてもらった“卵とレタスのチャーハン”は、まさしく理想どおり。ふわふわの卵も印象的だが、これもやはり弱火の効果だという。
「溶き卵の場合、70℃から凝固を始め、73℃で半熟状になるので、フライパンが冷めている状態から弱火にかけ、じわじわと温度を上げていく。73℃を通過するまでの時間が長いほど、水分が保持されてふわっとした食感になるんです」
弱火主体の工程で、唯一、中火が登場するのは最後。胡麻油を加えて強めの火加減で炒めれば、香ばしく仕上がるというわけだ。

フライパン
フライパンは大きさが重要。1人前をつくるなら直径18cm、2人前なら22cmのフッ素樹脂加工のフライパンがベストサイズ。大きすぎると、米が乾いてパサパサになりやすいのだ。大は小を兼ねないのです。

どうしたら、ベタベタチャーハンから卒業できるの?

さらにもうひとつ、欠かせないのがごはんの下ごしらえだ。温かいごはんをザルに移したら、上からかけるのは、なんと水とサラダ油。これこそがベタベタチャーハンの回避策だ。
「ベタベタになるのは、ノリ状になったごはんのでんぷんがほぐれず、水分がとびそこなった状態。水をかけるとごはんの表面のでんぷんが切れ、粘りが抑えられます。サラダ油はごはんのコーティングが目的。ごはん粒同士がくっつかず、パラパラに仕上がるうえ、油がごはんの水分を守るので、よりしっとり感が出せるんです」
こうしたコツをおさえれば、パサパサ・ベタベタ問題は解決。鍋をあおる必要はないから、料理ビギナーや子供だって上手にできるはずだ。

温かいごはん
ほぐしやすくするため、下準備には温かいごはんを使う。冷めたものは電子レンジなどで温める。

もちろん、具材や調味料のアレンジでバリエーションは無限。併せて習ったカレーチャーハンは、じっくり炒めることでごはん一粒一粒にカレー風味が浸透して噛むほどに旨い。豚ロースとほうれん草のチャーハンは、低温で下焼きした豚肉の柔らかさに感激。どの品も冷めてもおいしく、お弁当にも活躍するだろう。

チャーハンは弱火でゆっくり炒めるべし。迷宮から抜け出せる、家庭チャーハンの新常識だ。

――明日("卵とレタスのチャーハン"をパラパラ&ふんわりに仕上げよう!)につづく。


技ありdancyu『チャーハン』
技ありdancyu『チャーハン』
初心者向きのフライパンで炒めるものからプロの新しい味の提案まで全27皿の、詳細なつくり方を紹介。
A4変型 判( 80 頁)
ISBN: 9784833476225
2017年8月29日発売 / 864円(税込)

文:上島寿子 写真:平松唯加子 イラスト:ヒラノトシユキ

上島 寿子

上島 寿子 (文筆家)

東京生まれで、銀座の泰明小学校出身。実家がビフテキ屋だったため、幼少期から食い意地は人一倍。洋酒メーカー、週刊誌の記者を経て、フリーに。dancyuをはじめ雑誌を中心に執筆しています。