「EST!」のカクテルブック
"モッキンバード"は若草萌える季節に|「EST!」のカクテルブック5杯目

"モッキンバード"は若草萌える季節に|「EST!」のカクテルブック5杯目

北アメリカ南部の森に生息する鳥の名前を冠した、目の覚めるようなエメラルドグリーンのカクテル。通年提供されているスタンダードカクテルながら、すっかり春めいて若芽が芽吹く季節にこそ映える一杯である。ほの暗いバーのカウンターに差し出されたなら、その鮮やかさはなおのこと。

それは、グラスに森をたたえたようなテキーラのカクテル。

ペパーミントリキュールの鮮やかなグリーンが、ひときわ印象的なカクテルである。ベースはテキーラ。
カクテル名「モッキンバード」は、メキシコなど北アメリカ大陸に生息するスズメ目マネシツグミのことで、テキーラがメキシコを代表するスピリッツなのにちなんでこの名が付けられた。
通称「ものまね鳥」のモッキンバードは、ほかの鳥の鳴き声はもちろん、機械音や人間の声もそっくりにまねるという。「Mock」は「疑似」の意味があり、ノンアルコールカクテルが「Mocktail」と呼ばれているのと同じ意味がある。

本物のモッキンバードという鳥は青味がかったグレーで、尾は長く、全長20~30cmほど。決してこのカクテルのような色鮮やかな羽色ではないが、不思議と緑萌える森を舞うエメラルドグリーンの小鳥をイメージしてしまう。

使うのは、ブルーアガヴェ100%のプレミアムテキーラ、ペパーミントリキュール、ライム果汁。世界的なスタンダードカクテルのひとつである。
使うのは、ブルーアガヴェ100%のプレミアムテキーラ、ペパーミントリキュール、ライム果汁。世界的なスタンダードカクテルのひとつである。
搾りたてのフレッシュなライム果汁60ml、深い緑色で甘味のあるミントリキュール“ペパーミント GET27”を20ml注ぐ。
搾りたてのフレッシュなライム果汁20ml、深い緑色で甘味のあるミントリキュール“ペパーミント GET27”を20ml注ぐ。
続いて、アメリカンホワイトオークの新樽で45日のみ熟成させたシルバーテキーラ“エラドゥーラ プラタ”を60ml注ぐ。アガヴェのピュアな香り、滑らかな口当たりでストレートでも楽しめるテキーラだ。
続いて、アメリカンホワイトオークの新樽で45日のみ熟成させたシルバーテキーラ“エラドゥーラ プラタ”を60ml注ぐ。アガヴェのピュアな香り、滑らかな口当たりでストレートでも楽しめるテキーラだ。
やさしくシェイクして全体を混ぜる。シェイカーが冷たくなるまで、が目安。
やさしくシェイクして全体を混ぜる。シェイカーが冷たくなるまで、が目安。
シェイカーからグラスに注ぎ、冷たいうちにすみやかに客に差し出す。
シェイカーからグラスに注ぎ、冷たいうちにすみやかに客に差し出す。

「はい、どうぞ」。そう言ってマスターの渡辺昭男さんが差し出したカクテルは、深い茶色のカウンターがにわかに華やぐほどに美しい色味をしている。シェイクしたてのため、表面はうっすらと泡立っていて、ライム果汁が入ることでペパーミントリキュールの色味が淡くなっている。その色合いの印象のとおり、ライムの酸味がきいた爽快な味わいと香りが広がる。

シェイカーから注がれた鮮やかで清涼感のある液体に、カウンターの客たちの視線が集まる。
シェイカーから注がれた鮮やかで清涼感のある液体に、カウンターの客たちの視線が集まる。

「一杯出ると、不思議と注文が続くんです」

「テキーラのカクテルといえば、マルガリータが圧倒的に有名です。マルガリータはカクテル名で注文される方が多いのですが、モッキンバードを注文される方はなかなかいらっしゃらない。世界的にスタンダードなカクテルなんですけどね。だから、『テキーラベースのものを』と注文を受けたときには、僕は『ちょっと変わったものはいかがですか?』と言ってこのカクテルをお薦めしてみるんです。飲みやすくて清涼感がありますので、お食事をされた後のちょっとお腹が一杯なんていう時にもいいんですよ。
グリーンの色がきれいなカクテルでしょ。バーの暗い明かりの中では目立つんですよ。だから、誰かが頼むと、別のお客様が『あれ、なんていうカクテル?』と聞かれて、試しに飲んでみようかとなる。一杯出ると、ご注文が続くのもモッキンバードの特徴ですね」

「バーのボトルは輝いていなければならない」というマスターの考えを表すように、ボトルは煌びやかに輝いている。毎日、開店前に念入りに磨かれる。
「バーのボトルは輝いていなければならない」というマスターの考えを表すように、ボトルは煌びやかに輝いている。毎日、開店前に念入りに磨かれる。

カクテルを照らす光のもとへ目をやるとダウンライトの半分にだけ、カバーがかかっている。
マスターの渡辺昭男さんに尋ねてみたら「お客様がまぶしいといけないと思いまして」という答えが返ってきた。
光が強すぎてもいけない。ただカクテルは美しく照らしてほしい。そして、バックバーに並ぶボトルも輝いていなくてはいけない。そのため、半分だけカバーをかけることを思いついたという。

出来立てのカクテルを美しく照らすダウンライト。半分だけカバーがかけられているのは創業時からのこと。
出来立てのカクテルを美しく照らすダウンライト。半分だけカバーがかけられているのは創業時からのこと。

「だからカウンターの内側に立つ僕たちは、結構まぶしいんですよ」
そう笑って言うが、いたるところにもてなしの気配りがある。カウンターの向こうとこちらではまるで違う世界が広がっているのだ。

壁には、渡辺マスターをモデルにした切り絵が飾られる。宇都宮のバー「夢酒OGAWA パイプのけむり」マスターの小川信行さんから贈られたものだ。
壁には、渡辺マスターをモデルにした切り絵が飾られる。宇都宮のバー「夢酒OGAWA パイプのけむり」マスターの小川信行さんから贈られたものだ。

――つづく。

店舗情報店舗情報

EST!
  • 【住所】東京都文京区湯島345-3 小林ビル1階
  • 【電話番号】03-3831-0403
  • 【営業時間】18:00~24:00
  • 【定休日】日曜
  • 【アクセス】東京メトロ「湯島駅」より1分

文:沼由美子 写真:渡部健五

yumiko_numa.jpg

沼 由美子(ライター・編集者)

横浜生まれ。バー巡りがライフワーク。とくに日本のバー文化の黎明期を支えてきた“おじいさんバーテンダー”にシビれる。醸造酒、蒸留酒も共に愛しており、フルーツブランデーに関しては東欧、フランス・アルザスの蒸留所を訪ねるほど惹かれている。最近は、まわれどまわれどその魅力が尽きることのない懐深き街、浅草を探訪する日々。