福井県福井市「一乗谷レストラント」で行われた、東京・門前仲町「パッソ・ア・パッソ」有馬邦明シェフのジビエセミナーから1ヶ月後。参加者の一人が、ジビエ料理を始めたという。「野生の肉にさわったことすらない」という料理人が人生で初めて取り組んだジビエとは?
有馬シェフのジビエセミナーから約1ヶ月。参加した料理人、福井市「ピッコロ ターヴォロ」の籔内滉平さんがジビエの提供を始めたという。さっそく店へと向かった。
「熊の脂をデザートにしてしまうなんて、既成概念が崩されました。猪のモツも鹿のパテもおいしくて!なんの臭みもないのに驚きました。実はジビエには前から興味はあって、本はいろいろ買って読んではいたんです。その中の一冊が偶然にも有馬シェフのものでした」
「頭で難しく考えるよりまずはやってみよう、という意欲がわきました。自分自身もお客様も取っ付きやすい鴨から始めてみようと、肉屋に問い合わせてみました。新潟産の真鴨の扱いがあることがわかり、取り寄せて試作をしたんです」
試作は上々。
「食欲をそそるように、断面が美しくなるように火入れには気を配ります。フルボディのワインにも合う味わいに仕上げたくって、赤ワインと玉ねぎ、ハチミツ、バルサミコ酢のソースにしました。塊肉をここに漬け込むことで、味わいに一層深みを与えます」
初めての提供は宴会料理のコースに入れることにした。客は「食べやすい」「おいしかった」と好反応。その後もジビエのシーズン中は10件ほど注文が続いたという。「地元のお客様は受け入れてくれるだろうか」と不安を抱えながら一歩踏み出した籔内さんにとって、それは自信となった。だが、こうも言う。
「野鳥はまだそれほど抵抗ないと思うのですが、鹿や猪など個体が大きくなると、抵抗感を持つお客様もいます。それをどう崩してメニューに入れていくか。僕自身も、おいしく料理できるよう勉強しなくてはいけません」
いま、店の一番人気はふわふわのメレンゲを乗せたカルボナーラである。続いてはワッフル。今年の秋冬のジビエシーズンには、このカルボナーラやワッフルと並ぶほどに真鴨を使った料理が出るかもしれない。そのためには料理法の研究のみならず、食べ手にも新しい食材になじんでもらう必要がある。まだ幕は開いたばかりのジビエ元年。広まっていく種はまだまかれたばかりだ。
文:沼由美子 撮影:出地瑠以