今年もあと少し、もういくつ寝ると、なんてカウントダウンに入ってきました。今年がいい年だったという人は最後まで気を抜かず、あんまりだったという人はラストスパート。みなさんにとって、2018年がいい年で終わりますように。
12月22日11時30分、打ち合わせが始まる。
なんだけれど、あぁ、もう、どうにも、うわの空。外苑前駅の改札を抜け、地上へと続く通路を歩き出して、はたと気づいて、えっ、うぅ、はぁ。
と、そんな凹んだ状態を引きずったままの打ち合わせだったんですね。
12時10分、打ち合わせ終了。小雨の降る中を、僕はずんずん歩き出す。
この日は、全国大学ラグビーフットボール選手権大会準々決勝。秩父宮ラグビー場では慶應義塾大学対早稲田大学が12時5分にキックオフ。
なんとまぁ、そんなことも知らなかったのかよ、俺。午前中に外苑前に来てるのにさ。仕事にかまけて、ラグビーのことをちっとも気にもかけてなかったんだなぁ。あぁ、情けない。駅からずっとそんことを考えているから、気分はどよん。
僕の父はラグビーが好きだった。観る専門。その影響で、僕も子供の頃から観る専門のラグビー好き。
1月2日の午後。父は毎年、テレビの前にいた。ラグビーの大学選手権準決勝2試合をNHKが放送するからね。小学生のとき、正月特有のめでたい番組が観たくても、2日の午後だけは叶わない。だって、父がテレビの前から動かない。自然、僕もラグビーを観るしかない。当時は、1月15日に社会人と大学の日本一が戦う日本選手権が行われていた。2日と15日の間には大学選手権決勝があって、年明けの3試合、父と一緒にテレビの前のルーティン。
10年ぐらい続いたかな、父とのラグビー観戦は。高校を卒業と同時に僕が故郷を離れて、恒例行事は終わった。
東京で暮らすようになってからは、ラグビーの試合中に実家に電話をすると、必ず母が出る。受話器の向こうからはわーわー歓声が聴こえたりして、父が変わらずラグビーに熱狂していることを嬉しく思ったりもした。
東京に来て、僕の観る専門は、テレビと競技場の二刀流に進化した。スタンドで観戦していると、背中を少し丸めて、テレビの前に座っている父の姿を想い出して、ここに連れて来たいなと思ったりもする。
一度、国立競技場で早明戦を一緒に観たことがある。父は嬉しそうではあったけれど、帰り際、テレビの方がよく観えるなぁなんて言うから、ずっこけた。
僕にラグビーを教えてくれたのは、父だ。
それなのにいま、すっかりラグビーのことが頭から抜け落ちていた。なんだか、父のことをないがしろにしているような気がして、後ろめたかった。
前半の途中からだったけれど、秩父宮ラグビー場に駆け込んだ。
当たり前だけれど、そこには変わらず、ラグビーがあった。これがまた白熱した試合でね。興奮、興奮。食べていた焼きそばを、あやうく落としそうになったもん。ノーサイドの瞬間、世の中に絶対はないんだなと、改めて思い知る。
けどね、思った。もしもこの世に絶対があるならば、それは2019年の1月2日、父がテレビの前でラグビーを観ることだ。それだけは、絶対だな。
dancyu web編集長 江部拓弥
写真:金子山