日本のワイナリーを巡る。
海沿いに佇む、日本では希少な「観光ワイナリー」。
カーブドッチワイナリーの入り口 カーブドッチワイナリーの入り口

海沿いに佇む、日本では希少な「観光ワイナリー」。

新潟県角田浜にある、カーブドッチワイナリー。醸造家の掛川史人さんに、ワイン造りについて伺った。“観光ワイナリー”として、建物にも工夫が凝らされている。

海のワイナリー。

併設の「ガーデンレストラン」の窓からは角田山が望める。
併設の「ガーデンレストラン」の窓からは角田山が望める。

新潟県新潟市・角田浜。日本海からわずか1kmの距離に、カーブドッチワイナリーはある。この土地の特徴は、海沿いであるのと同時に、山の麓であること。ぶどう畑に立つと、そのすぐ後ろには角田山が高くそびえ立つ。晴れた日の夕暮れ時になれば、角田山の稜線に沿って日本海へ向かって沈んでいく太陽を眺めることができる。
カーブドッチワイナリーは、ぶどう畑のすぐ脇に醸造所を構えている。その意義について、醸造家の掛川史人さんはこう語る。

掛川史人さん
カーブドッチワイナリーの掛川史人さん。一般客向けのツアーのガイドもつとめる。

醸造家はぶどうの発酵の進み具合や、樽の中での熟成具合を日々チェックしながら、自分の経験と勘を頼りに、次の製造工程に移るタイミングやリリースする時期を判断する。では、醸造家はなにを基準に判断していくかというと、春から秋にかけてのぶどうの栽培期間について、その年の気温や降雨量をもとにして、どんな環境の中でぶどうが成長してきたかを考えたりするんです。ぶどうと時間を共有してきた人だからこそ見極められることがある。だから、畑と醸造所が並んでいることはとても重要なんです。

スパークリングワインのオリを抜く作業中。
スパークリングワインのオリを抜く作業中。

取材で訪れた日は、スパークリングワイン「ブランド・ブラン」の瓶にたまったオリを除く作業の真っ最中だった。作業場の中央に冷やしたボトルが集められ、順々に栓を抜いては、ポンっと中からオリが飛び出し、再び打栓をしていく。複数のスタッフが手分けして、テンポ良く作業をしていた。

ブランド・ブランは、シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵という製法でつくっています。糖と酵母を入れて瓶のなかで発酵させるので、そのままにしておくとオリという沈殿物が瓶内に大量に発生して液体が濁ってしまう。そのため、熟成を終えた後に、瓶を逆さにして注ぎ口にオリをためて氷結させた後、一度栓を抜いてオリだけを除いて再び栓をしてから、透明で澄んだ液体に仕上げていくんです。

掛川史人さんが丁寧に解説する。ワインに詳しくない人にも伝わる言葉を使い、わかりやすく表現をしていのは、彼が普段から一般の人に向けてワインの醸造過程を説明しているから。カーブドッチワイナリーは、一般客向けのワイナリーツアーを実施しているのだ。

1992年の創業時に掲げたのは、観光ワイナリーをつくることでした。そのため、カーブドッチワイナリーは、おいしいワインをつくることだけではなくて、『人を迎える』ということも大切にしている。僕はもともと人前で話すのが苦手だったのですが、映画を見て会話の間合いを研究したり、コミュニケーション方法を学ぶための本を読んだりしながら、自分なりに人に伝わりやすい話し方を見につけてきたんです。

角田浜の土地にぴったりのぶどうを探す。

ワイン蔵の様子
陽の光りと影の出方を想定して、細部に至るまで気遣いがされている。

「ワインの産地をつくる」ために着手したのが、土地や気候に合ったぶどう探しだった。角田浜は、海沿いに位置するので土壌は砂質。たとえばイタリアなどの火山の麓で育つぶどうは、粘土質の土壌特有の、厚みがあって果実味たっぷりのワインになる。一方、栄養素の少ない砂地でつくるぶどうは、味わいが軽やかでシンプルになる代わりに、繊細な香りや風味が引き立つワインになる。
さらに、気候もワインの味わいや香りを形成する要素のひとつ。角田浜は、昼は海から、夜は陸からの風が抜けていくため、空気がからっとしていて、湿度が低いのが特徴だ。さらに、冬でも積雪は少なく、昼夜の寒暖差は少ない。そのため、ぶどうの酸が穏やかになる。

シャルドネやメルローなど、定番の品種をつくるのも、それはそれでいい。だけど、角田浜でつくるからこそ、ほかのどの土地よりもおいしくなるぶどう品種を見つけて、唯一無二のワインをつくりたい。それが、私たちにとっての『ワインの産地をつくる』という意味でした。

17年近くの歳月をかけ、40種以上のぶどうを試して、最近やっと出会ったのがスペイン原産の白ワイン用のぶどう品種「アルバリーニョ」だった。ワインになると、花のように繊細な香りと、カドのない爽やかな酸が軽やかな喉越しを生み出す。

もしもアルバリーニョを長野のように昼夜の寒暖の差が激しい土地で育てたら、酸が出過ぎてすっぱいワインになってしまうでしょう。角田浜で作るからこそ、酸がまろやかで飲み心地のいいワインになるんです。

まるで、ヨーロッパに旅行に来たよう。

外国人の夫婦
このワイナリーにいると、新潟にいることを忘れてしまうような光景をあちらこちらで目にする。

観光地となることを前提に創業したため、建物の内装にもこだわった。ステンレスタンクが並ぶ部屋は照明を明るくして清潔感を保ち、樽熟成庫は、扉を開けた瞬間にずらりと美しく並んだワイン樽が目に飛び込んでくるように作られ、観光客がちょっと興奮できる演出が随所に施されているのである。「こんなところにまで」と驚かされるのが、樽熟成庫からセラーへ向かう途中の廊下だ。部屋の脇にはドイツ製の鉄格子が並び、窓から日光が差し込むと、床に鉄格子のおしゃれな影が映し出されるのだ。ほんの一瞬、ヨーロッパに小旅行に来たような感覚を味わえる。

全部、観光客に楽しんでもらうために建築家に細かく設計を依頼したそうです。先代にあたる、このワイナリーの創業者が、人に楽しんでもらう施設をつくるプロだったんです。

手本としたのは、カリフォルニアのナパ・バレーだった。ぶどう畑と醸造所と同じ敷地の中には、ワインとのマリアージュが堪能できるフレンチレストランや、クラフトビールが飲めるカジュアルレストランのほか、日帰り温泉や宿泊施設などを併設。新潟駅から約20kmの場所に位置するため、専用のシャトルバスも走らせている。施設内を見渡すと、平日の昼間に子連れでカフェに来る主婦から、宿泊する外国人観光客まで様々な目的をもった人が訪れていることがわかる。


次は、ちょっとした小旅行で訪れたくなるワイナリーだ。

たくさんのワイン樽
数多のワインが、飲まれるその時を樽の中で待っていた。
ワインセラー
迷路のような地下室には広大なワインセラー。
地下熟成棟
カーブドッチの創業は1992年。その5年後に地下熟成棟が完成した。
醸造家の掛川さんにお話しいただいたその他の内容やカーブドッチワイナリーを代表する白ワインのひとつ『SABLE』とそれに合うおつまみのレシピなど、自宅でのカーブドッチの愉しみ方を「シャーウッドclub」でも紹介している。詳しくは以下のリンクから。

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記事で紹介したワイナリー

カーブドッチワイナリー

〒953−0011 新潟県新潟市西蒲区角田浜1661

ワイナリーに関してのお問い合わせ TEL.0256-77-2288
日帰り温泉・宿泊に関してのお問い合わせ TEL.0256-77-2226

文:吉田彩乃 写真:三木匡宏