東京・吉祥寺と池尻大橋に店舗をもつ「タコスショップ」は、コーン100%の軽やかなトルティーヤを使い、メキシカンの枠にとらわれないざまざま具材を使ったタコスで人々を魅了している。今回は、祭スペシャルの限定メニューを提供!ぜひ食べてみてください。
2021年4月、池尻大橋と三軒茶屋を結ぶ246通りに誕生した「タコスショップ池尻」は、控えめに言って、この世の楽園だ。バリエーション豊富なタコスとお酒のメニューを揃え、“スタンディングでタコス呑み”の幸せを世に知らしめた「タコスショップ吉祥寺」の2号店。その充実度は本店と変わらず。いや、むしろ増しているようにさえ思える。メニューに載るタコスだけで約20種類。吉祥寺店からのアップデート分も含めると、手持ちのレシピは100種類を超える。
メキシコの国民食であり、代表的なスナックでもあるタコスだが、「実はすごく自由なんです」と、オーナーの近藤輝太郎さん。
「メキシコシティの街角の屋台で、朝帰りのティーンエイジャーや労働者がかぶりつくようなパワー系もあれば、感度高めのレストランで凝った料理として提供されるモード系もある。味つけにも特に決まりがなくて、何でもあり。食べるシーンで変わるグラデーション的な面白さを、一軒で表現できるメニュー構成にしています」
今回、dancyu祭に登場するタコスは、グランドメニューの「カルニータス」を使ったタコスと、イベント用の新作「燻製カジキマグロ&ワカモレ」の2種類。どちらもフレンチとイタリアン出身のシェフ・星穣さんのアイデアと工夫が光る“攻め”のタコスだ。
メキシコ人にとってソウルフードともいえる「カルニータス」は、ブルーコーン100%のトルティーヤにのせて。豚肉をマリネし、大量のラードで揚げ煮にするのが本来のレシピ。「コーラ煮やオレンジ煮みたいなアレンジ版もあるけれど、何も足さないのが当店流」と星さん。「ゼラチン質多め、脂は少なめの肉をじっくり煮込み、現地式よりキレがよく、枚数を食べてももたれない軽めの味に仕上げています」
「燻製カジキマグロ&ワカモレ」は、瞬間スモークをかけた魚の切り身に、ミント風味のキャロットラペ、ジュニパーベリーをきかせた紫キャベツのコールスローを合わせ、アボカドディップをサルサ代わりに。イエローコーンのトルティーヤに緑、オレンジ、紫の色合いがきりっと映え、彩りも美しい。
「タコスショップ池尻」の店舗は、1階のカウンター、2階のイートイン、3階の厨房の三層からなる。ビルの形そのままの三角形のフロア、メキシコの民家を思わせるカラフルな内装、キューブ型の階段など、どこかトリッキーな空間構成が楽しい。正午から深夜までのノンストップ営業中、明るいうちからタコス呑みで寛ぐ人が少なからず。今風に言えば、いくつもの「よき」が重なり、醸し出される心地よさが、とりわけお酒好きを惹きつけてやまないと見た。
まず、トルティーヤのコンパクトなサイズ感。CD盤の小ささは、飲みながらつまむのに具合よく、あれもこれもの欲望にも応えてくれる。香ばしいイエローコーンと、甘味と弾力に富むブルーコーン、2種類から選べる皮のおいしさも感動的だ。注文を受けてから1枚ずつ鉄板で手焼きし、アツアツを提供。「皮はタコスの命ですから。のばしたて、焼きたての皮のおいしさを楽しんでいただきたい」と近藤さん。
さらに、喉が渇いたら、自慢の「ライムサワー」を一杯。キンミヤ焼酎をベースに、キーライムの酸味、ミントの香りをきかせたシンプルな炭酸割り。のはずが、何これ、おいしすぎて、止まらないんですけど!?
「めちゃくちゃ、ちゃんと作ってますから!(笑)。氷、グラス、焼酎、炭酸、全部しっかり、キンキンに冷やして」と近藤さん。店でもトップの人気を誇るドリンクメニューだというが、うなずける。
そして、星さん考案によるタコスメニューの振り幅の広さ。たとえば、メキシコ人にも大人気の「エビ」は、しっかり火を通して海老の歯ごたえを残し、エシャロットで香りづけしたフレンチ風。マイタケをメキシコ産唐辛子とともに煮込み、チョリソーの旨味と食感に近づけた独創的なヴィーガンタコスも。鮎や山菜など、旬の和素材を生かしたシーズナルも頻繁に更新。何度通っても新しい驚きがあり、飽きさせない。
極め付けの“よき”が、オーナー自身が「好きなものだけで揃えた」という、お酒のラインナップだ。dancyu祭でも紹介するライムサワーにはじまるサワー類のほか、メキシコビール、選りすぐりのナチュラルワイン、レアなクラフト焼酎も。カウンターから目を上げれば、メキシコの蒸留酒「メスカル」が、ずらり20種類。これを圧巻と言わずして、何といおう。
「皮なしの具材だけをつまみに、ゆるゆる飲んでいかれる方も多いですよ」
まさに、“抜き”で呑む蕎麦屋酒の世界。タコスは確かファストフードのはずなのに。スタンディングの気安さゆえか、知らないお隣さんとも打ち解け、気づけばすっかり長っ尻なのだ。
※当日は内容や盛り付けが変更になる場合もあります。
文:堀越典子 撮影:伊藤菜々子