湯島聖堂の料理帖~戦後の日本に伝わった“本当の中国料理”~
【真珠のような輝き!】モチッとジューシーな高級点心「もち米肉団子」に蒸しの極意を学ぶ

【真珠のような輝き!】モチッとジューシーな高級点心「もち米肉団子」に蒸しの極意を学ぶ

もち米が白く透き通り、まるで花が咲いたかのように映る「もち米肉団子」は、その輝きから「真珠丸子(チェンジュワンズ)」と名づけられた高級点心です。11回目は、湯島聖堂「中国料理研究部」の貴重なレシピから、中国料理の“蒸し”の技を学べる華やかな一品をチョイス。成功の秘訣は、もち米の扱いと蒸気のコントロールにありました。

美しく仕上げる秘訣は“水分コントロール”にあり!

蒸籠(せいろ)の蓋を開けた瞬間、白く透き通ったもち米がパッと立ち、まるで花が咲いたかのように映る。真珠の輝きを思わせることから「真珠丸子(チェンジュワンズ)」と名づけられた点心だ。本場では、真珠の別名「珍珠」を冠して「珍珠丸子」と呼ばれることが多いが、湯島聖堂のレシピ名はわかりやすく「真珠丸子」と記されている。

「華やかさと気品を兼ね備え、高級料理に位置づけられる一品」で、中国料理研究部の宴席やケータリングにもしばしば登場したという。「食材の選択肢が限られていた当時、身近な食材でできる料理として重宝しました」と山本豊さんは振り返る。

美しく仕上げるコツは、もち米の扱いに集約されている。

まず水に一晩浸け、十分に浸水したのち、表面の水分をしっかりと取り除くこと。次に、肉団子の表面に押しつけず、やさしくまぶすこと。ぎゅっと握りつけると、米が肉の中に沈み込み、火が通りにくくなるからだ。そして蒸すときは、軽く油をなじませたさらしを蒸籠に敷き、もち米がはがれるのを防ぐ。

「蒸し料理は、蒸籠の中の水分をいかにコントロールするかが重要です。点心のように、食材に火を通しながらふっくらと仕上げたい蒸しものは、さらしを敷いて水分を逃してあげるのがポイントです」

ふんわり火が通った肉団子の肉汁と、もち米のモチモチ感が重なり合い、口の中に小さな至福が広がる。ポイントさえ押さえれば、見た目の華やかさとは裏腹につくりやすい一品だ。

ほわほわと蒸籠から立ち上る湯気は、冬のご馳走そのもの。『dancyu』2025年冬号の連載テーマは蒸し料理だ。本誌とあわせて、ぜひ中国料理の“蒸し”の極意を味わってほしい。

dancyu2026年冬号
A4変型判(168頁)
2025年12月5日発売 / 1,500円(税込)

真珠丸子のつくり方

材料材料 (10個)

豚ひき肉200g
もち米1/2カップ
白ねぎ大さじ1(みじん切り)
生姜小さじ1(みじん切り)
1/2個(小)
醤油小さじ1
小さじ1
小さじ1/4
辛子酢適宜(※)
醤油適宜

※辛子酢のつくり方
ボウルに粉辛子10g、酢小さじ1、熱湯1さじを入れ、スプーンでよく練る。辛味が立つように、蓋をして逆さにし、使う直前までねかせる。

辛子酢

1もち米の下ごしらえ

もち米は一晩水につけておく。ザルに上げて水を切り、乾いた布巾で包む。布巾の上から両手で握って、表面の水分をしっかり取り除き、バットに広げる。

もち米の下ごしらえ
もち米の下ごしらえ

2肉餡をつくる

ボウルに挽肉を入れ、醤油、酒、塩、溶いた卵を入れ、よく練る。水分が出ないように最後にねぎ、生姜を加えて混ぜる。

3肉餡を丸める

2を適量手に取り、親指と人差し指の間から絞り出す。くっつかないように水で濡らしたスプーンですくい、ピンポン玉大にきれいに丸め、1のもち米の上に置く。

肉餡を丸める
表面をなめらかにまとめると、仕上がりがきれいになる。
肉餡を丸める

4肉団子にもち米をまぶす

肉団子の表面に、もち米を振りかけ、手の中でやさしく転がしながらまんべんなくまぶす。このときに握ってつけるのはNG。力を加えて押しつけると、肉餡にもち米が沈み込み、芯まで火が通りにくくなる。

肉団子にもち米をまぶす
手の上にそっと転がしながら、もち米を上から振りかける。
肉団子にもち米をまぶす
持つときもふんわりと。ぎゅっと握るのは禁物。

5肉団子を蒸籠に並べる

さらしにサラダ油(分量外)をなじませ、蒸籠に敷く。くっつかないように間隔を空けて団子を並べる。湯を沸かした鍋の上に蒸籠をのせる。

肉団子にもち米をまぶす
肉団子にもち米をまぶす

6肉団子を蒸す

強火で40分間蒸す。途中、蒸し器の湯量を確認し、少なくなっていたら熱湯を足す。蒸しあがったら、蒸籠を鍋から下ろす。すぐに触ると、もち米がはがれるので要注意。一呼吸おいて器に盛る。

肉団子を蒸す
完成
薄味に仕上げ、辛子酢と醤油をお好みで。出来たて熱々を頬張れば、もち米のほのかな甘みと、肉団子の旨味が口の中でほどける。

教える人

山本豊

山本豊

1949年高知県生まれ。68年、中国料理研究部に所属し、中国料理の道に進む。76年より中国料理研究部出身の故小笹六郎さんが開いた「知味斎」に勤務。87年、東京・吉祥寺に「知味 竹廬山房」をオープンし、旬の素材を取り入れた月替りのコース料理で中国料理界に新風を巻き起こした(2019年閉店)。著書『鮮 中国料理味づくりのコツ たまには花椒塩を添えて』、共著『野菜の中国料理』、『乾貨の中国料理』(すべて柴田書店)など携わった本は、中国料理を志す人にとって必携の書になっている。

文:澁川祐子 撮影:今清水隆宏

澁川 祐子

澁川 祐子 (ライター・編集者)

食と工芸を中心に編集、執筆。著書に『味なニッポン戦後史』(インターナショナル新書)、『オムライスの秘密 メロンパンの謎ー人気メニュー誕生ものがたり』(新潮文庫)、編集・構成した書籍に山本教行著『暮らしを手づくりするー鳥取・岩井窯のうつわと日々』(スタンド・ブックス)、山本彩香著『にちにいましーちょっといい明日をつくる琉球料理と沖縄の言葉』(文藝春秋)など。