湯島聖堂の料理帖~戦後の日本に伝わった“本当の中国料理”~
【ねぎと胡麻油で香ばしく】中国北方のおやき「烙餅」(ラオビン)は、こねる水の温度で外はサクッ、中はもっちりに!

【ねぎと胡麻油で香ばしく】中国北方のおやき「烙餅」(ラオビン)は、こねる水の温度で外はサクッ、中はもっちりに!

外はざっくり、中はもっちり。12回目は、ねぎと胡麻油の相性が抜群の中華式お焼き「烙餅(ラオビン)」です。中国北方の朝ごはんに欠かせない定番で、湯島聖堂の中国料理講習会でもおなじみの一品。身近な材料を使って、中華の粉ものテクニックを学びましょう。※dancyu2026年春号の連載「湯島聖堂の料理帖」にて掲載した「春餅(チュンビン)」レシピの連動企画です。

‟中国のパンケーキ“は、こねる水の温度でグルテンの強さをコントロールする

焼きたてをザクザクと手で割った瞬間、食欲をそそる小麦と胡麻油の香りがふんわりと立ち上る。ひと口頬張れば、ねぎの食感と花椒の風味の奥から、小麦のしっかりとした味わいがやってくる。烙餅は「中国のパンケーキ」ともいわれ、中国北部で日常的に親しまれている粉ものだ。

『美味しんぼ』の読者ならこの名を見て、ピンときたかもしれない。雪山に閉じ込められた主人公の山岡が、ありあわせの材料でつくったのが烙餅だった。そのエピソードからもわかるとおり、特別な材料を必要としない身近な食べものだ。

「現地では、ごはんの代わりにおかずと一緒に食べます。もとは遊牧民の食べもので、練った小麦粉を発酵させずに焼いたもの。その名の通り、素焼きの窯や鉄板であぶり焼きにします」

そう語るのは、湯島聖堂「中国料理研究会」出身の料理人・山本豊さん。豆乳のスープ「豆漿(ドウジャン)」と一緒に朝ごはんとしてよく売られているという。定番のねぎ入りのほかに、何も入っていないプレーンなものから、胡麻や干し海老入りまで、さまざまな種類の烙餅が店でも家庭でも焼かれている。

つくり方のポイントは、小麦粉を練るときの水の温度だ。

「熱湯を加えると、弾力と粘りを生み出すグルテンの生成が抑えられます。反対に水だと、生成が進みます。この原理に従って、熱湯と水の2段階に分けて水分を加えます」

まずは熱湯でグルテンの働きを弱めてから、次にぬるま湯を加えて適度なコシを残す。こうして外はサクッと、中はもちっとした生地に仕上げる。

成形にもひと工夫がある。薄くのばした生地を丸めて、さらに巻いて重ねてのすことで、簡単にパイのような層がつくれる。

最初のうちは難しく感じるかもしれないが、ケーキやパンのように「膨らまない」という失敗もない。いったん慣れてしまえば、アレンジも自在。少ない材料で、いつでも焼き立ての香ばしさが楽しめる。覚えていて損はない一品だ。

烙餅のつくり方

材料材料 (1枚分)

薄力粉180g(ふるっておく)
強力粉60g(ふるっておく)
長ねぎ60g(青い部分、粗みじん)
花椒塩小さじ2/3(※)
ひとつまみ(1g)
大さじ1
胡麻油適量
薄力粉適量(打ち粉用)
花椒塩

※花椒塩のつくり方は第3回を参照してください。
https://dancyu.jp/recipe/2023_00008151.html

【生地をこねる】

1

薄力粉と強力粉、塩ひとつまみをボウルに入れ熱湯100mlを加え、菜箸で混ぜてなじませる。

【生地をこねる】

2

40℃のぬるま湯大さじ2を入れてかき混ぜる。熱湯でグルテンの働きを抑えた後、ぬるま湯を加えて適度なコシを残す。

【生地をこねる】
ボウルの底に粉っぽさがなくなるまで混ぜる。

3

生地全体に水分が行き渡ったら、手でこねてひとまとめにし、濡れ布巾を被せて10分ほどねかせる。

【生地をこねる】
親指の付け根で力を入れて押すようにして練る。
【生地をこねる】
まとまってきたら、閉じ目を下にして丸める。

【生地をのばす】

4

麺台に打ち粉をする。生地を折りたたみ、平らにする。

【生地をのばす】
【生地ののばし方】
①麺棒を生地の中央に置き、奥へのばす。次に中央から手前にのばす(手順A)。





②生地を裏返し、十の字の方向に均一にのばすために90度回転させ、手順Aをやる。




5

閉じ目を下にして置き、生地ののばし方を参照して、縦30cm×横40cmの大きさまでのばす。生地がのびてきたら破れやすくなるので、生地を回転せずに、麺棒を縦に持ち替え、中央から左へ、中央から右へのす。

【生地をのばす】
【生地をのばす】
生地が大きくなってきたら生地は動かさずに麺棒の向きを変えて、十の字の方向に均等にのばしていく。

6

生地の余分な粉をはらい、刷毛で胡麻油を薄く生地全体に塗る。

【生地をのばす】

7

花椒塩を満遍なく生地にふりかける。

【生地をのばす】

8

粗みじんにしたねぎを、生地の端1cmくらいを残して、全体に均一にのせる。

【生地をのばす】

9

手前から、生地が破れないようにゆったりめに巻いていく。

【生地をのばす】
生地が薄いので、きつく巻くと破れやすい。ねぎを包むようにふんわりと巻く。
【生地をのばす】
長くなってきたら、左端から右端へと少しずつ手をずらしながら巻く。

10

巻き終わりを下にして、右端から3分の2の長さ、左端から3分の1の長さをそれぞれ渦巻き状に巻く。左の小さな渦巻きを持ち上げ、大きな渦巻きの上に重ねる。上下がくっつくように、上から手のひらで押して平らにする(片方の手を生地の中心に置き、もう片方の手で上から押す)。

【生地をのばす】
【生地をのばす】
【生地をのばす】
【生地をのばす】
【生地をのばす】

11

生地ののばし方を参照して、直径20cm、厚さ1.5cmくらいになるまでのばす。

【生地をのばす】
生地が破れてねぎがはみ出さないように、やさしくのす。
【生地をのばす】

【生地を焼く】

12

熱したフライパンに油を入れてなじませ、生地を両手で持って置き、蓋をする。中が生焼けにならないように、ごく弱火で8分ほどじっくり焼く。焼き具合をみて、やや強めの弱火にして、蓋をしてさらにきつね色になるまで様子をみながら16分焼く。

【生地を焼く】
生地が破れないように、両手で持ってフライパンの上にそっと置く。
【生地を焼く】
生地が厚いので、火が強すぎると表面だけ焼けて中が生焼けになる。蓋をして弱火で、生地の中心までじっくりと火を通す。

13

底面がきつね色になったら返して、蓋をせずに10分ほど焼く。

【生地を焼く】

【盛りつける】

14

13の生地を6等分に切る。1片を半分に割りくずして、皿にうずたかく盛りつける。

【盛りつける】
【盛りつける】
冷めると硬くなるので、熱々のうちに割りくずすと食べやすい。
完成
胡麻油とねぎ、花椒の組み合わせは、間違いのない美味しさ。できたて熱々のザクッとした食感とともに、小麦の味わいを堪能してほしい。

教える人

山本豊

山本豊

1949年高知県生まれ。68年、中国料理研究部に所属し、中国料理の道に進む。76年より中国料理研究部出身の故小笹六郎さんが開いた「知味斎」に勤務。87年、東京・吉祥寺に「知味 竹廬山房」をオープンし、旬の素材を取り入れた月替りのコース料理で中国料理界に新風を巻き起こした(2019年閉店)。著書『鮮 中国料理味づくりのコツ たまには花椒塩を添えて』、共著『野菜の中国料理』、『乾貨の中国料理』(すべて柴田書店)など携わった本は、中国料理を志す人にとって必携の書になっている。

26年春号「ニューたまごパラダイス」
26年春号「ニューたまごパラダイス」
たまごライフがスペシャルに変わる、クリエイティブ&エンターテイメントな79レシピを取り揃えました。読むだけで料理の腕が上がりますよ!

dancyu2026年春号
A4変型判(160頁)
2026年3月6日発売/1,500円(税込)

文:澁川祐子 撮影:今清水隆宏 調理協力:藤本諭志(「シルクバレル」店主)

澁川 祐子

澁川 祐子 (ライター・編集者)

食と工芸を中心に編集、執筆。著書に『味なニッポン戦後史』(インターナショナル新書)、『オムライスの秘密 メロンパンの謎ー人気メニュー誕生ものがたり』(新潮文庫)、編集・構成した書籍に山本教行著『暮らしを手づくりするー鳥取・岩井窯のうつわと日々』(スタンド・ブックス)、山本彩香著『にちにいましーちょっといい明日をつくる琉球料理と沖縄の言葉』(文藝春秋)など。