今をときめく料理人たちが、もしも自宅で酒場を開いたらどんなつまみを出してくれるだろう……。そんな妄想から生まれたこの企画。連載のトップバッターは、ポルトガル料理店「クリスチアノ」をはじめ5店舗の飲食店を運営し、食品メーカーの商品開発やレシピ提案など、食の業界で縦横無尽に活躍する、佐藤幸二さん。「俺酒場」というお題を投げかけたところ、間髪を入れず「缶詰酒場でいきたいです!」という返信が届いた。
「ぼく、缶詰が大好きなんですよ。いっときは、本気で缶詰酒場をやろうと思っていたくらいですから」
そのきっかけとなったのが、ポルトガルの首都リスボンにある缶詰バー「SOL e PESCA(ソル・エ・ぺスカ)」の存在。リスボンの台所といわれるリベイラ市場から目と鼻の先に位置し、地元民や観光客で深夜遅くまでにぎわう有名店だ。かつて釣具店だった店内には、壁を埋め尽くすように缶詰が並んでおり、客はその中から好きなものを選び、調理してもらう。
「料理はバーというよりレストランのクオリティ。料理本を出版するほどの実力があって、どの缶詰でもレストランレベルの料理に仕上げてくれます」
10年ほど前までは毎年のようにポルトガルに通っていたという佐藤さん。この店に惚れ込み、幾度となく訪れたという。
「ポルトガルでは缶詰は生鮮食材と同じように、日常的に食べられています。日本ではまだまだ缶詰は保存食であり、非常食という位置づけ。食材としての期待値が低いでしょう?そんな思い込みを『俺酒場』でぶち壊したい。缶詰はポテンシャルの高い食材だってことを、皆さんに知ってほしいんです!」
のっけから熱く語る佐藤さん。
ところで、佐藤さんが一番はじめに好きになった缶詰は何ですか。
「コンビーフですね。ノザキのコンビーフって、今ではパッケージが変わって缶詰じゃなくなったけれど、以前は巻き鍵がついた台形の缶詰だったでしょ。子どもの頃、あのツールでクルクル巻いて缶を開けるのが楽しかったんだよね。よく失敗したけど、それもいい思い出(笑)」
釣りが趣味の父は、お供に必ずコンビーフ缶とマヨネーズを携帯していたそうで、
「コンビーフにちょこっとマヨネーズをぬってそのまま食べるんだけど、これがうまくてね。釣りについて行って、父の横でコンビーフマヨをつまみ食いするのが楽しみだった」
懐かしい話で顔をほころばせた佐藤さんが、少しだけ真剣な表情になり、話を続けた。
「農林水産省が推奨するローリングストックを知っていますか。公式サイトには、『普段の食品を少し多めに買い置きしておき、賞味期限を考えて古いものから消費し、消費した分を買い足すことで、常に一定量の食品が家庭で備蓄されている状態を保つための方法』と書いてあります」
災害の多い日本では各家庭での食材備蓄が欠かせない。調理いらずで食べられる缶詰はその筆頭食材だ。
「ローリングストックの考え方でいえば、缶詰を非常食と捉えず、日常食としてふだんの食事に取り入れることが大事。長期保存できる食材をおいしく食べる習慣が整っていれば、災害時にも慌てることなく食卓を囲むことができます。栄養バランスがよく、しかもおいしい食事は、災害によるストレスを大幅に軽減し、思考も前向きになるといわれています。我が家には小さい子どもが4人いるので、もしものときに困らないよう、缶詰を日常的に食べさせているんです」
今回の缶詰酒場のつまみも、いざというときの大きなヒントになりそうだ。
……というわけで、たいへん長らくお待たせいたしました!
佐藤幸二の「俺酒場」では、店主イチ押しの缶詰つまみ10品をご紹介します。
トップバッターは、トマト水煮缶の使い方が意外すぎるイタリア風のつまみです。
1974年埼玉県生まれ。国内外のレストランを経て独立。ポルトガル料理店「クリスチアノ」をはじめ、「お惣菜と煎餅もんじゃさとう」「ポークビンダルー食べる副大統領」など5店舗の飲食店や、缶詰やレトルト食品などを販売するECサイト「さとう商店」を運営。趣味は家族でキャンプすること。晩酌酒はジムビームのハイボール、または黒霧島のお湯割りの二択!
文:佐々木香織 撮影:伊藤菜々子