美と健康をテーマにした広東料理を、野菜だけのコースで提供する。2012年、そんな画期的なメニューを東京ステーションホテルのダイニングで打ち出し、話題をさらったのが、現在「Ino Cantonese 日本橋たかせ」オーナーシェフの高瀬健一氏だ。当時、プラントベースフードなどは広範な食の世界のほんの一部に過ぎなかったが、時代が流れて食の多様化が進み、日本においても特別ではなくなり、当たり前にある食のジャンルとなりつつある。中国料理における「botanova」の可能性を探るべく、新商品の「botanova」“鶏油(チーユ)風味”を高瀬シェフに使いこなしてもらった。
*プラントベースフード=植物由来の原材料を使ってつくる食品の総称。
食は広州にあり。「京都の懐石料理が日本料理の最高峰であるように、広東料理は中国料理の最高峰です」ときっぱり語る高瀬健一シェフ。特に香港の広東料理は食材を惜しむことなく贅を尽くし、世界中の美食家たちを唸らせている。高瀬シェフはそんな香港へ26歳から通い、常に最先端を体感し、学び、追求し、そしてオマージュし続けている。日本における広東料理の第一人者といわれる所以である。
「中国は宗教的なこともあり、人口の5~10%はベジタリアンといわれています。特に台湾は10%の方がベジタリアンとも。ですから、大豆加工食品も多彩ですし、プラントベースの調味料などもたくさんあります」と高瀬シェフ。とはいえ、高瀬シェフが世間の話題をさらったのは野菜のみの広東料理だ。「僕が野菜料理のコースでベジタリアンを謳わなかったのは、ベジタリアン向けというと精進料理的な疑似食材をイメージされる向きもあるからで、どうしても野菜を全面に押し出したかったのです」
野菜料理のコースでは、ベジタリアンも多い外国人客を意識していたが、当時は一日に1~2組を想定していた。ところが、ほどなくして7~8組から予約が入るようになったという。「ちょっと今日はヘルシーでいこうか、体の調子を整えたい、など、ベジタリアンではない方々からの支持も年々増えていきました」。
とはいえ、肉や魚介類を使った料理のおいしさを知る人々を満足させる野菜料理でないといけない。高瀬シェフは味のベースとなるスープを何種類も仕込み、旨味やコクを出すために油脂も複数用意したのだという。
「中国料理は油脂をプラスしておいしさを構築する料理です。なので、油脂は炒めるための調味料であり、風味づけの調味料でもあります。生姜やにんにくなど香味野菜の風味を引き出した香油や鶏油は仕上げの調味料として欠かせません」と高瀬シェフ。なかでも鶏油はスープや麺料理など汁気の多い料理の仕上げにマストな存在だという。
五葷とは、宗教的な観点で禁じているにんにくなど5種の、ネギ属の野菜を指す。5種の定義は思想により異なるが、プラントベースの油脂botanova“鶏油風味”の特長の一つに、五葷――ねぎ、らっきょう、にんにく、玉ねぎ、にらを使用していないことがある。
そこで、高瀬シェフがbotanova“鶏油風味”を使って披露してくれたのは、“さまざまなきのこと豆腐干(とうふかん)の鶏油風味スープ煮”である。旬真っ盛りのきのこの旨味の饗宴を楽しむ、煮込み料理だ。
「botanova“鶏油風味”で炒めてから軽く煮ます。あっさりしているきのこの旨味に深みが出ますよ」。心まで浄化されるようなおいしさだ。「もっと早く出会いたかったな」。高瀬シェフのつぶやきは、最高の賛辞だろう。
57歳で独立。自ら語るように、「料理人としても、私の料理も、まだ最終形と呼ぶには早い」と思っての決断だった。高瀬シェフの代名詞といわれる料理の代表格は“伊勢海老のマンゴーマヨネーズソース”だ。マンダリンオリエンタル時代に考案した料理で、この一皿を慕って通うお客は多い。というのも、考案者としてもともとのレシピを常にグレードアップしているからだ。いつ訪ねても、シェフの自己最高を味わえるのである。
「香港広東料理は海鮮が魅力です。このおいしさに欠かせないのが油脂。たとえば食材として十分に魅力的な伊勢海老ですが、マヨネーズソースと出会っておいしさの高みを極められるのです」
教えてくれたのが、鶏油使いだ。「広東料理では海老や蟹と鶏油はとても合うと認識されています。たとえば、炭火で焼く料理だと、鶏油を塗りながら焼きます。鍋で炒りつけるときも鶏油ですね。鶏油のコクのある香りをまとった海老や蟹は最強になるのです(笑)」。
点心で人気の“海老蒸し餃子”もまた、油脂でおいしくなっているという。「海老のすり身に豚の脂身を細かく刻んで加えます。いわゆるラードです。今度、点心の具にbotanova“ラード風味”を練り込んでみようかな。点心のパイ生地にもラードが必須なのですが、パイ生地にも折り込んでみたいですね」。
高瀬シェフの店は少数精鋭となり、現在は野菜料理コースなどベジタリアン対応はしていない。しかし、botanovaとの出会いにより、新たな扉が開いたようである。
・「botanova」4種はすべてNPO法人ベジプロジェクトジャパンのヴィーガン認証を取得。※同じ製造設備で動物性原料を含む製品も製造しています。
・「botanova」はRSPO(マスバランス)認証製品です。RSPO認証商品は、持続可能なパーム油の生産に貢献しています。
botanova 植物のおいしさ 鶏油風味 | 大さじ2 |
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★ きのこ | 計100g |
・ ときいろ平茸 | |
・ 白舞茸 | |
・ 椎茸 | |
・ 干しあんず茸 | (水で戻す) |
・ 干しさなぎ茸 | (水で戻す) |
豆腐干 | 10~20g |
生湯葉 | 10~20g |
きのこのスープベース | 約100ml |
薄口醤油 | 適量 |
貝割れ菜 | 少々(好みで) |
★ きのこのスープベース | (約1000ml分) |
・ 干し椎茸 | 15g |
・ 干しふくろ茸 | 10g |
・ 干しやなぎ松茸 | 10g |
・ 椎茸パウダー | 少々 |
・ 舞茸パウダー | 少々 |
・ 生姜 | 10g |
・ 塩 | 5g |
・ 昆布 | 5g |
・ 水 | 1200ml |
きのこのスープベースの材料をすべて耐熱容器に入れ、3時間蒸す。
※高瀬シェフはスチームコンベクションオーブンを使用。
水で戻した干しあんず茸、干しさなぎ茸の水気を絞り、すべてのきのこを食べやすい大きさに切る。
中華鍋にbotanova“鶏油風味”大さじ1を入れて中火にかけ、豆腐干を並べ入れる。両面を香ばしく焼きつけ、いったん取り出す。
続けて生のきのこを入れ、botanova“鶏油風味”大さじ1を足す。あまり動かさず、焼きつけるようにして2分ほどかけて香ばしく炒め、取り出す。
③の鍋にスープベースを注いで中火にかけ、水で戻したきのこを入れる。煮立ったら取り出しておいた豆腐干ときのこを戻し、1~2分中火で煮て、薄口醤油で味を調える。
※きのこに対してスープはひたひたがベストなので、スープの量は加減すること。
器に温めておいた生湯葉を入れ、その上に④のきのこと熱々のスープを注ぐ。貝割れ菜をトッピングする。
1965年、宮城県仙台市生まれ。仙台のホテルで中国料理の道に入り、東京へ。1988年より、シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテル「翠泉宮」で香港人シェフに調理の基礎を学ぶ。26歳で出かけた香港で本場の料理に感動し、香港へ足繁く通いながら、広東料理を極める。2005年、マンダリンオリエンタル東京「広東料理SENSE」の初代料理長に就任し、広東料理人としてグローバルに活躍。2012年より、東京ステーションホテル「カントニーズ燕KEN TAKASE」の料理長。22年に独立し、「Ino Cantonese 日本橋たかせ」をオープンする。
Ino Cantonese 日本橋たかせ
https://ino-cantonese-kt.jp
【住所】東京都中央区日本橋堀留町1‐8‐11 人形町スクエア1階
【電話番号】03‐6810‐8883
【営業時間】17:30~20:30入店 土日祝のみランチ営業あり12:00~13:00入店
【定休日】月曜、火曜 ※料理はコース仕立てのため、前日までに予約を!
文:斉藤由利子 写真:森本真哉