シュークリームやプリンといった親しみのある“おやつ”感覚の洋菓子を、極旨に変身させる一方で、世の中をあっと言わせるような画期的な味わいを生み出したり……。「Equal」(イコール)のパティシエ・後藤裕一氏は、動向がつぶさに気になるパティシエである。スイーツの中でも伝統的なレシピが脈々と引き継がれているフランス菓子だが、食料事情や環境の変化などさまざまな困難を抱えている現代にあっては、今を生きる自分たちだからこそ創り出せるオリジナリティーの必要性も感じているという。プラントベースフードもその一つだ。そこで、スイーツ界のイノベーターである後藤さんに、「botanova」の実力を大いに楽しんでもらった。
*プラントベースフード=植物由来の原材料を使ってつくる食品の総称。
ベーシックなフランス菓子に「カトルカール」がある。バター、砂糖、卵、小麦粉を同量ずつ混ぜ合わせることから、Quatre-quarts(Quatre=4 quarts=4分の1)、4分の1が四つ集まったことを意味する。いわゆるパウンドケーキで、この配合なら失敗も少なく、おいしく焼き上がると言われている。いわば“基本のき”にして、最高のレシピなのだ。
「とにかくバター、砂糖、卵、小麦粉はフランス菓子にとって絶対的な材料です。そして、それは普遍であり、クラシックであり、ルールでもあります。僕たちはそれを学んでパティシエになりましたが、近代のレシピって実はちょっと進化しているんです。普遍を考え出した先人たちは尊敬していますが、進化のターニングポイントに立てる人にはすごく憧れます」と言うのは後藤さんである。
後藤さんが楽しんでいる挑戦は、スイーツのデザインであり、設計だ。たとえば、ショートケーキ。サンドするフルーツを替える楽しみよりも、ショートケーキのような構成自体の新しい枠組みをつくりたいのだという。
「そのためには奇をてらわず、ルールに近いところでものを考えるべきだと思っていますし、新しい枠組みは新しい定番になるように育てていきたい。それが、いつか、教科書の一部になってくれたらいいな」と笑う。
そんなことを切に思うようになったきっかけの一つが、Tangentes Inc.でのコンサルティングの仕事である。自身の菓子づくりとは異なる次元の相談が舞い込む。気づきも多いのだとか。「バターは乳製品ですし、卵、小麦粉、いずれもアレルゲンとなりうるんですよね」。
スイーツも機能性を謳う時代なのかもしれない。グルテンフリー、卵不使用などなど、アレルギーだからと食べる我慢を強いられる風潮は消えつつある。
「アレルギー対応だけじゃないんです。地球温暖化、社会的背景などにより食料の調達が難しくなり、食材費の高騰が止まりません。スイーツの材料も選択肢を広げる時代になりつつあることを肌で感じています。新しい食材を探すだけでなく、それらを使いこなせるようになる必要性も出てきました」と語る後藤さん。代替食材と真摯に向き合おうとする中、とても興味深い油脂、botanova“バター風味”と出会ったのである。
「小麦粉は米粉や大豆粉など代替の選択肢が多いので、比較的対応しやすいのですが、バターや卵は味わいだけでなく、それらを使うことで得られる物性も求める必要があります。とくにバター。あれほど風味豊かなバターに代わるものを見つけるのは、なかなか難しいんです」。たとえばショートニングはバターに代わる油脂として知られるが、無味無臭で、食材の持ち味を引き立てることを得意とする。バターの、うっとりするような風味やコクは期待できない。
試作に試作を重ねて、後藤さんが披露してくれたスイーツは「型を使わないフルーツタルト」である。「PATH」のレシピ動画で人気が高かった“型を使わない……”をアレンジ。「でも、単にバターをbotanova“バター風味”に置き換えるだけのレシピにはしたくなかったので、徹底的にプラントベースでつくってみました」と後藤さんがいうように、卵も乳製品も不使用だ。
その代わり、いくつかポイントがある。「タルト生地とフィリングの間にはアーモンドクリームを敷きたいんです。おいしさが増すのはもちろん、フルーツの果汁を受け止める役割も果たしてくれるから。でも、アーモンドクリームは使えないので、カシスピューレからつくったカシスジャムにしました。カシスにした理由は、フルーツとの相性です。ベリー系や桃やさくらんぼ、マンゴーなどのストーンフルーツ類、ほとんどのフルーツが合います」。
また、タルトに香ばしい焼き色をつけるために、表面に卵液を塗ったり、ちぎったバターを散らしたりするが、これまたNG。「botanova“バター風味”を溶かしてバニラビーンズで風味をつけたものを塗りました。バニラの甘い香りが加わって、心をくすぐる香りに焼き上がりますよ」。
そして仕上げはクランブル。これもbotanova“バター風味”でつくる。「いろいろなトッピングに使えます。冷凍保存できるので、まとめてつくっておくといいかもしれません」
このフルーツタルト、botanovaが業務用商品ということから、後藤さんはカフェなどで使えるお手軽レシピとして紹介してくれた。そのため、タルト生地は、熱湯を使ってこねるアメリカンパイのテクニックを採用。冷蔵庫で冷やす必要があるが、簡単かつ失敗がないそうだ。
「味わいの要であるフルーツフィリングがよりおいしくなるように、引き算したレシピです。簡単につくりたいでしょ。botanovaと出会ったことで、プラントベーススイーツの可能性が広がりました。もっと研究を重ねたい」
スイーツ界のイノベーター、後藤さんの選択肢にbotanovaが加わった。次の一手が楽しみである。
・「botanova」4種はすべてNPO法人ベジプロジェクトジャパンのヴィーガン認証を取得。※同じ製造設備で動物性原料を含む製品も製造しています。
・「botanova」はRSPO(マスバランス)認証製品です。RSPO認証商品は、持続可能なパーム油の生産に貢献しています。
★ タルト生地(直径18~20cm/2台分) | |
---|---|
・ botanova 植物のおいしさ バター風味 | 100g(室温に置いておく) |
・ 岩塩 | 2g |
・ 熱湯 | 40g |
・ 強力粉 | 75g |
・ 薄力粉 | 75g |
・ 全粒粉 | 15g |
★ 生地に絞るジャム(2台分) | |
・ カシスジャム | 50g |
・ アーモンドパウダー | 5g(ジャムの1割) |
★ 黒いちじくフィリング(1台分) | |
・ 黒いちじく | 5個(正味約250g) |
・ 薄力粉 | 5g |
・ 甜菜糖 | 10g |
・ レモン果汁 | 5g |
★ りんごフィリング(1台分) | |
・ りんご | 1個(正味約200g) |
・ 薄力粉 | 5g |
・ 甜菜糖 | 10g |
・ レモン果汁 | 5g |
・ シナモンパウダー | 0.5g |
★ 塗り用botanova(つくりやすい分量) | |
・ botanova 植物のおいしさ バター風味 | 50g(室温に置いておく) |
・ バニラビーンズ | 1/2本 |
★ クランブル(つくりやすい分量) | |
・ botanova 植物のおいしさ バター風味 | 20g(室温に置いておく) |
・ カソナード(ブラウンシュガー) | 20g |
・ アーモンドパウダー | 20g |
・ 薄力粉 | 20g |
ボウルにbotanova“バター風味”と岩塩を入れ、熱湯を注いでよく溶かす。そこにふるって混ぜ合わせた粉(強力粉、薄力粉、全粒粉)を入れ、スケッパーで切るように混ぜる。水分が行き渡ってまとまってきたら、手でよくこねる。
生地を2等分にしてラップに包み、一晩冷蔵庫でねかせる。
ボウルにbotanova“バター風味”とカソナードを入れ、すり混ぜる。アーモンドパウダーと薄力粉を加え、切るように混ぜる。そぼろ状になったらOK。
小鍋にbotanova“バター風味”、さやから出したバニラビーンズ、さやを入れ、火にかける。botanovaが溶けて香りが立ってきたら、さやを取り除く。
カシスジャムとアーモンドパウダーを混ぜ合わせ、絞り出し袋に入れておく。
黒いちじくはヘタを落として食べやすく切る。ボウルに入れ、薄力粉、甜菜糖、レモン果汁を加え、全体にまぶすように手でさっくり混ぜる。
りんごは芯をくりぬいて、縦に四~六つ割りにし、5mm幅に切る。別のボウルに入れ、薄力粉、甜菜糖、レモン果汁を加えて全体にまぶし、シナモンパウダーもふってひと混ぜする。
冷蔵庫から1の生地を取り出し、打ち粉をした上に置いて室温に戻す。柔らかくなってきたら丸め、麺棒で一枚を直径25cmくらいにのばす。オーブンシートの上に広げておく。
生地の真ん中に3のジャムをくるくると渦巻き状に絞り出し、フィリングをたっぷりのせる。生地の縁に水(分量外)をつけ、端をつまんで折り返していく。写真は六角形だが、八角形でも五角形でもよい。
塗り用botanovaをハケでたっぷり塗り、クランブルをトッピングする。
180℃に予熱しておいたオーブンで、35~40分焼く。
※後藤さんはコンベクションオーブンを使用
1980年、東京都生まれ。大学卒業後、「オテル・ドゥ・ミクニ」でレストラン・パティシエとしてのキャリアをスタートさせる。その後、「キュイジーヌ[s]ミッシェル・トロワグロ」を経て、30歳でフランスの「トロワグロ」本店へ。4年間、シェフパティシエを務める。帰国後の2015年、東京・渋谷「Bistro Rojiura」の原太一シェフとともにレストラン「PATH」を、19年にはテイクアウト専門パティスリー「Equal」をオープン。また、パティシエの可能性を広げることをコンセプトに、東京・上野「Think」のパティシエ、仲村和浩さんとともにコンサルティングチームTangentes Inc.を設立するなど、活躍の幅を広げている。
Equal
https://www.instagram.com/equal_pastryshop/
【住所】東京都渋谷区西原2‐26‐16
【電話番号】03‐6407‐0885
【営業時間】10:00~17:00 ※売り切れ次第終了
【定休日】月曜、火曜、水曜
文:斉藤由利子 写真:森本真哉