フードロス、エシカル、フェアトレード――そして、サステナブル。イノベーティブなフランス料理を創造する「Florilège」(フロリレージュ)のオーナーシェフ、川手寛康さんのアクティブの原動力となっているテーマは、食の未来はもちろん、地球の未来に向かっている。そんな川手シェフの第三章が、麻布台ヒルズでスタートする(9月18日よりプレオープン)。その開幕に向けて掲げたコンセプトの一つが、プラントベースフードだ。フランス料理における「botanova」の可能性は、果たして……!? botanova“バター風味”に興味津々の川手シェフを訪ねた。
*プラントベースフード=植物由来の原材料を使ってつくる食品の総称。
フランス料理に、おいしいバターは欠かせない。実際に酪農王国フランスでは、バターの種類はとても多く、シェフたちは料理に合わせて使いこなしている。おいしいバターは油脂であり、調味料であり、食材なのだ。
「とはいえ、フランス料理もヘルシー志向が進んでいて、バターを使う料理人が減ってきています。これはもう全世界的な傾向で、代わりに活躍しているのがフレーバーオイル。うちでもオリーブオイルや胡麻油をベースにつくっていて、6~7種類は常に用意しています」と川手シェフ。Florilègeでは、発酵バターとフレーバーオイルの比重は半々といったところだとか。
このヘルシー志向は油脂に限った話ではなく、フランス料理のソースづくりに欠かせない旨味たっぷりの“肉だし”フォン・ド・ボーも減りつつあるという。「代わりに野菜のだしが多く使われるようになっています。僕の肉料理のソースも、野菜の旨味だけを引き出した“だし”でつくることが増えました」。
さらに「とはいえ!」と続けた川手シェフ。「フランス料理ですから、やはりバター無くしては成立しないところはあります」。川手シェフがプラントベースの油脂botanova“バター風味”へ興味を抱いた理由はここにある。
川手シェフがプラントベースの油脂botanova“バター風味”で披露してくれたのは、ちょうど取材で訪ねた日のコース料理の一品でもある“アンディーブ”。味噌漬けにしたアンディーブをバターでコンフィにし、葉一枚ずつの間に黒トリュフをびっしりと挟み、バターでムニエルにする。手の込んだ美しい料理である。
「これをbotanova“バター風味”でつくったところ、僕の肌感としては……もはやバターでしょ」とにっこり。ただし、「100%バターの代わりに使っていけるかというと、料理によっては工夫が必要な部分があるな、という印象です。料理人としてチャレンジし甲斐がある油脂だと言えます」とのこと。
そして、川手シェフの模索の一つに、パンにつけるバターに代わるものがある。実はFlorilègeでは、パンにバターを添えていない。
川手シェフのFlorilègeは、まもなく麻布台ヒルズで第三章がスタートする。この移転を機に、プラントベースフードを謳う。
「日本ではプラントベースというとベジタリアンなイメージでとらえられがちですが、国際的には“野菜を積極的に摂りましょう”というムーブメントなんです。僕はこの世界基準の考え方に賛同しています。なので、うちでは最後に肉料理も出しますが、肉か野菜かを選べます」
海外でのビジネスがとても多い川手シェフにとって、プラントベースは特別なものではないという。ただし、出会いは衝撃的だった。
「数年前、ロンドンでのイベントの際、準備をしていると突然『今日、ヴィーガンが3人来るからね、大丈夫だよね』と言われたのです。ちょっと待って、聞いていないよ、と返すと、『用意してないの!? ヴィーガンは当たり前でしょ』と。これが時代なんだと痛感させられました」
海外からの客がほぼ半数を占めるFlorilègeでは、おまかせコース11品の中に2~3品は野菜料理を入れるなど、プラントベースを意識してきた。もちろん、ベジタリアンへの対応も抜かりない。
世界で活躍しているからこそ、自然と育まれた国際感覚。ここまでプラントベースに意欲的なトップシェフは、日本ではまだ稀有な存在だろう。そんな川手シェフが関心を寄せるプラントベース油脂、batanovaの可能性と活躍の場は広がるばかりだ。
「僕自身も年齢を重ね、食べる肉の量は減りました。いま、野菜がどんどん楽しくなってきています」と微笑んだ。プラントベースを謳う川手シェフのますますの進化と冴えが、実に楽しみである。
・「botanova」4種はすべてNPO法人ベジプロジェクトジャパンのヴィーガン認証を取得。※同じ製造設備で動物性原料を含む製品も製造しています。
・「botanova」はRSPO(マスバランス)認証製品です。RSPO(マスバランス)認証製品は、持続可能なパーム油の生産に貢献しています。
botanova 植物のおいしさ バター風味 | 100g(コンフィ用) |
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botanova 植物のおいしさ バター風味 | 10~15g(ムニエル用) |
アンディーブ | 3本 |
マリネペースト | |
・ 白味噌 | 200g |
・ 酒 | 30g |
・ グラニュー糖 | 20g |
黒トリュフ | 適量(スライスする) |
強力粉 | 少々 |
豆乳クリーム | 約大さじ6(※つくり方は下記参照) |
岩塩 | 少々(粗挽き) |
レモンバーベナの新芽 | 少々 |
マリネペーストの材料はなめらかになるまで混ぜ合わせる。アンディーブは縦半分に切り、一切れずつガーゼでくるむ。
ガーゼの上からマリネペーストを塗りつけ、冷蔵庫に入れて一晩置く。
真空パック用の袋にガーゼを外した1のアンディーブ、コンフィ用のbotanova“バター風味”を入れ、真空パック機にかける。
それを95℃のスチーマーに入れ、45分間加熱する。室温に取り出し、少し冷ます。
粗熱が取れたアンディーブをパックから取り出し、水気を軽く絞る。葉と葉の間に黒トリュフを数枚、びっしりと挟んでいく。
3の表面全体に強力粉を刷毛などで薄くはたきつける。フライパンにbotanova“バター風味”を入れて火にかけ、溶けてきたらアンディーブを入れて香ばしく焼く。両面に焼き色がついたら取り出す。
4のアンディーブは縦半分に切り、断面の美しさが見えるように整えて器に盛る。脇に豆乳クリーム大さじ1(1人分の目安)を添える。アンディーブに岩塩をふり、レモンバーベナの新芽を全体に散らす。
★ 豆乳クリーム | |
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botanova 植物のおいしさ バター風味 | 60g |
汲み上げ湯葉 | 300g |
アーモンドミルク | 適量 |
塩 | 少々 |
和三盆 | 少々 |
オリーブオイル | 少々 |
botanova“バター風味”は電子レンジなどで軽く温め、ポマード状にする。
ミキサーに湯葉とアーモンドミルク(湯葉のしっとり具合により量を加減する)を入れ、攪拌してピューレ状にする。1を加えてさらに攪拌し、塩、和三盆、オリーブオイルで調味する。
冷蔵庫に入れて軽く冷やし、とろみをつける。
自然がつくり出すアンディーブという野菜の美しさを、センスよく引き出した一品。その味わいは「アンディーブの味以上にアンディーブなんだよ」と川手シェフはにやり。
botanova“バター風味”と黒トリュフがアンディーブの繊細な滋味を濃厚に引き立て、未体験の味わいに誘う。
1978年、東京生まれ。東京・西麻布「ル・ブルギニオン」などで腕を磨いた後、渡仏。星付きの有名店で修業を重ねる。帰国後、現在は東京・品川にある「カンテサンス」でスーシェフを務め、2009年に独立。南青山で「フロリレージュ」を開店する。15年には神宮前に移転し、魅惑的なガストロノミースタイルのカウンターで第二章をスタートさせた。そして、第三章は、世界が注目を寄せる麻布台ヒルズで開幕。23年11月24日の“街の開業”に向け、9月18日よりプレオープン。川手劇場のさらなる進化も楽しみだ。ソムリエの資格を有し、ワインについても造詣が深い。
Florilège
https://www.aoyama-florilege.jp/
【住所】東京都港区虎ノ門5-10-7 麻布台ヒルズガーデンプラザD 2階
【営業時間】Lunch:12:00〜12:30(L.O.) 15:00close、Dinner:18:00〜18:30(L.O.) 22:00close
【定休日】月曜、火曜のLunch、日曜のDinner ※不定休あり
文:斉藤由利子 写真:森本真哉