すだちとどぶ酢を使って香りと味の両方から酸味を感じる一皿です。渋谷・松濤の人気居酒屋「爛缶(らんぷ)」に、爽やかで軽やかな酸味が効いた絶品つまみを教わりました。
令和2年5月。渋谷に一軒の酒場がオープンした。人気居酒屋「高太郎」で研鑽を積んだノブさんこと、柿木信浩さんの店、「爛缶」だ。外出自粛ムードで暗かった街に光を灯す“新星”には、すでに酒とつまみを愛する大人たちが通い詰めていた。
「カッチリとメニューを決めるのではなく、お客さんが食べたいものを、空腹具合に合わせてさりげなく提供できる店にしたいんです。理想は、漫画の『深夜食堂』」とノブさん。酸っぱいつまみも、暑さ極まる季節に多くの客が欲する味。相方の白石貴之さんと試作を重ね、さまざまな「酸っぱい」を形にした。その中から、異なる酸味を楽しめる4品を教えてもらう。
“真鯛のすだちカルパッチョ”は、酢と柑橘をダブル使いし、いいとこ取りをした一品。酢で旨味ときりっとした酸味を、すだちで爽やかな香りとやわらかな酸味を刺身にまとわせるのがポイントだ。「店では、旨味が豊富な岩手県遠野市の“どぶ酢”を使っていますが、一般的な米酢でもかまいません」。
“塩レモントマト”は、ひと頃流行した“塩レモン”(レモンを塩漬けにして発酵させた調味料)でトマトの甘味を引き出す。店で使う塩レモンは1ヶ月以上熟成させたもの。フレッシュなレモンとは異なる、穏やかで丸みのある酸味が後をひく。
一方、“ズッキーニとタコの梅肉和え”は梅干しの酸が味の要。単に梅肉で和えるのではなく、塩漬けと蜂蜜漬けの2種の梅干しを混ぜ、酸味と塩気を調整する。ゆでたズッキーニは煎り酒(梅干しと酒でつくる調味料)で下味を。梅の酸味が何層にも重なって料理の味に深みが増すのだ。
ラスト1品は“しみしみ大根”。酢もレモンも使わないのに、酸っぱいのは乳酸発酵のおかげ。「ふつうの漬物ではつまらない。ワインにも合うように、とスパイスを加えたら、何とも不思議な味になりました(笑)」。
酢や柑橘類はもちろん、梅干しに発酵のチカラまで。好みの酸味を味方につけて、この夏を爽やかに乗り切ろう。
すだちの香りが鼻に抜け、真鯛とどぶ酢の旨味、酸味が舌に広がる。ガラスの器に盛り、さらなる涼感を演出。
真鯛 | 100g(刺身用のサク) |
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白瓜 | 1本 |
すだち | 1個 |
みょうが | 1個(せん切り) |
塩 | 適量 |
どぶ酢 | 小さじ2(米酢でも可) |
オリーブオイル | 適量 |
鯛は塩少々をまぶして1時間ほど置き、水気を拭いて薄いそぎ切りにする。
白瓜は皮をむいて縦割りにし、小口から薄切りにする。塩少々をふって軽くもみ、水気を拭く。すだちは薄い輪切りにする。
ボウルに①と②を入れて混ぜ、酢を加えてさっと和える。器に盛ってみょうがをのせ、オリーブオイルを垂らす。
柿木さんは鹿児島県出身の40歳。渋谷「高太郎」で9年ほどの修業を経て独立。相棒の白石さん(41歳)は原宿「eatrip」の元シェフ。主に柿木さんがサービス、白石さんが料理を担当。
この記事はdancyu2020年9月号に掲載したものです。
文:佐々木香織 写真:本野克佳