暑さがやわらぐ季節、ほっと和める舌触りの料理が食べたくなってくる。そこで今回は、きのこや、チーズを贅沢に取り入れたクリーミーな卵がゆと、意外な調味料使いが光る鶏ささみと九条ねぎの和え物のレシピをご紹介します。EU食材×和食、両者のおいしさを見事に融合させた“パーフェクトマッチ”を、ぜひお試しください。
チーズやワイン、オリーブオイルをはじめ、今や私たちの食生活に欠かせないEU食材は数多い。ほかにも肉やシャルキュトリー、果物、調味料、穀物、スパイス、製菓材料など実に幅広く、とりわけ日本で手に入るものは世界でもっとも厳しいといわれるEUの基準をクリアしたものばかり。
自然環境や動物福祉に配慮した飼育方法、殺虫剤、除草剤、抗生物質、その他の化学的方法の使用にも規制があり、トレーサビリティなど消費者への情報開示にも積極的だ。その裏には、人の口に入るものはおいしさだけではなく、安全かつサステナブルでなければならないという生産者の矜持と、品質へのゆるぎない自信がうかがえる。
「EU食材に共通するのは、本質的な美味しさを備えていること。余計な味つけが不要で、シンプルな調理法で輝いてくれること。日本人の味覚に対する価値観や感性とよく似ています。そこで真っ先に思いついたのは、だしや発酵調味料との組み合わせでした」と、発酵研究・料理家の真藤舞衣子さん。
味わってみれば、だしのもつふくよかな“旨味”はEU食材の整った美味しさと見事に調和し、日本の発酵調味料によって豊かに表情を変えるEU食材のポテンシャルの高さに驚かされた。真藤さんの感性を大いに刺激した今回のコラボレーションレシピ。心躍るような新しい味覚の発見は、EU食材が無限の可能性を秘めていることを教えてくれる。
ヨーロッパの豊かな針葉樹の森で育つ天然ポルチーニ。なかでも主産地として名高いポーランド産は味わいが濃厚で、ナッツのような香りを持つ逸品だ。乾燥ポルチーニは風味をギュッと閉じ込めたような独特の香ばしさがあり、長期保存ができるので使い勝手の良さも魅力。パスタやピッツァ、リゾット、スープなどさまざまな料理に贅沢な香りと深みを与えてくれる。
フランス東部にあるフランシュ・コンテ地方の協同組合によって、13世紀からつくられている伝統チーズ。しっかりとしたコクとほのかな甘み、後引く余韻は、料理に極上の彩りを添える。夏にできるチーズは色味が強くフルーティーで、冬はクルミの風味があり軽やか。季節による色や風味の変化もありのままを楽しむなど、自然に寄り添う生産者の姿勢も感じられる。
世界屈指のオリーブ生産地、アンダルシアが誇るオヒブランカ種100%のEVオリーブオイル。ハーブやアーモンド、りんごを感じる芳醇な香りとサラリとした口あたりが持ち味で、収穫後24時間以内にコールドプレス(低温圧搾)製法で抽出するため、フレッシュな風味がそのまま生きている。仕上げに一振りするだけで、料理を格段にグレードアップしてくれる。
2000年以上にわたるワイン醸造の歴史を持ち、最近では世界的な注目を集める高品質なワインが次々と生まれているスロバキア。グリューナー、リースリングなど個性的な土着品種が多く、熟練されたブレンド技術で幅広い銘柄を取りそろえている。とりわけ白ワインはミネラルが豊富でのびやかな酸があり、どんな日本料理とも相性がいい。ワイン初心者から愛好家まで、幅広く満足させる独特の魅力を備えている。
シチリア島の真下に位置するマルタ島。たっぷりの太陽を浴びて育った甘味の濃いトマトを1本に7~8個分贅沢に使用している。収穫から24時間以内にチューブに詰めているため旨味と香りが鮮烈。シンプルながら完成された味わいは、そのままパンにつけたり、和え物の調味料として、またパスタやスープに加えると味に奥行きが生まれる。
優しい味の卵がゆが、ポルチーニの深く複雑な味わいとコンテの豊かなコクをまとい、さらに仕上げに一振りしたオリーブオイルが華やかな香りをプラスする。この上なく贅沢な一皿に添えたのは、新潟県産の発酵調味料“かんずり”だ。
「ピリッとした柑橘の香りと酸味、スパイシーさが全体の味を引き締め、メリハリのある味わいに変化します。ワインのおつまみとしてもぴったりです」と真藤さん。スロバキア産の辛口白ワインは香り高く、力強さもありながらエレガントな仕上がり。料理に寄り添い、最高のマリアージュが実現する。
生米 | 1/2合 |
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ポーランド産乾燥ポルチーニ | 10g |
卵 | 1個 |
フランス産コンテチーズ | 適量 |
スペイン産オリーブオイル | 適量 |
かんずり | 適量 |
生米は研いでザルに上げておく。ボウルに水900ml、ポルチーニを入れて30~60分ほど置く。ザルに上げてポルチーニの水気を切り、細かく刻む。戻し汁はとっておく。
鍋に1の米、戻し汁を入れて中火にかける。沸騰したら刻んだポルチーニを加え混ぜる。少しだけすき間を開けて蓋をし、弱火で約30分炊く。途中で水分が足りなくなったら、少量の水を加えながら煮る。
水分がなくなり、米がアルデンテの状態まで煮えたら蓋をあけ、溶き卵を回しかける。
器に盛り、コンテチーズをたっぷりすりおろす。オリーブオイルを回しかけ、かんずりを添える。
和食の“和え衣”としてクンセルバを用いるアイディアが新鮮。「ほかのトマトペーストにはない凝縮した甘みと旨味、そしてほのかな酸味があります。味のバランスが完璧なので、どんな素材も生かすことができ、余計な味つけが要らないのが便利ですね」と真藤さんも太鼓判。淡泊な鶏ささみと繊細な香りの京都の九条ねぎ。互いの持ち味を引き立てながら、しっかりとした味の輪郭を与えてくれる。
鶏ささみ肉 | 3本 |
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九条ねぎ | 2本 |
マルタ産クンセルバチューブ | 大さじ1 |
酒 | 大さじ1 |
塩胡椒 | 適量 |
オリーブオイル | 大さじ1 |
鶏ささみ肉は筋取りをし、九条ねぎは5cm幅に切る。
鍋に水500ml、塩小さじ1、酒を入れて沸騰させる。1の九条ねぎを入れて30秒ほどゆでてザルに上げる。ゆで湯はとっておく。
2の鍋に1の鶏ささみ肉を入れて中火で熱する。沸騰したら火を止め、余熱で中まで火を通す。粗熱が取れたら、手で食べやすい大きさにほぐす(ゆで汁はだしが美味しいので、スープや煮物に使える)。
ボウルに2、3を入れてクンセルバとオリーブオイルで和え、塩胡椒で味をととのえる。
次回は、アイスランド産グラスフェッドビーフのステーキと発酵わさびバターとオランダ産ゴーダチーズ入り里芋饅頭の揚げ浸しに、チェコのウェルけるビール合わせます!
東京生まれ。会社勤務を経て、1年間京都の大徳寺内塔頭(たっちゅう)にて生活。その後、フランスのリッツエスコフィエに留学し、ディプロマ取得。東京に戻り発酵研究、料理家の活動を開始。現在では、雑誌や書籍、料理教室や食育活動、講演会やレシピ・商品開発などを行っている。やまなし大使でもあり、移住などの支援も行っている。著書に『和えもの』(主婦と生活社)『発酵美人になりませう。』(宝島社)『はじめてのサワードゥブレッド』(文化出版局)、『真藤舞衣子のまいにちおいしい! 豆腐と油揚げ』(高橋書店)などがある。
原産地呼称保護(PDO)、および地理的表示保護(PGI)は、特定の地域で生産され、特定の伝統的な生産工程を経た製品の名称を保護するものです。ただし、この2つには違いがあり、主に原材料のどれだけがその地域で生産されているか、あるいは生産工程のどれだけが特定の地域で行われているかに関連しています。ヨーロッパの食品と飲料は、欧州大陸の文化的多様性と豊かな土地を反映しています。
3つ目の、EUオーガニック認証「グリーンリーフ」は、有機農産物に関するEUの厳格なガイドラインを遵守していると認められた製品に付けられます。各工程の95%以上がEU規制当局により「オーガニック」と認められた製品にのみ「グリーンリーフ」ラベル が表示されています。
文:鈴木美和 撮影:神林環