辻さんがバカンス中に出会った、驚くほど美味しいサラダとは?作家、ミュージシャン、映画監督など幅広く活躍をしている辻仁成さんは、本誌の連載「キッチンとマルシェのあいだ」でも書いているように、多彩で美味しい料理をつくります。パリに住んで20年の辻さんによる、美味しさと思い出の詰まった“パリ・サラダ”のレシピです。
ということで、ぼくは愛犬の三四郎とイタリアは南部にありますシチリア島の南東、古代ギリシャの影響がそのまま残る遺跡の街、シラクーサのさらに突端に在ります、オルティージャ島に一週間ちょっとバカンスで滞在したのでした。途中のローマなどを入れると約半月の気まま旅でした。
オルティージャ島ではとにかく食べるもの味わうものが全部、パリとは異次元で、すげー、やべー、の連続でした。地質学的にも、シチリアは長靴のカタチをしたイタリアのつま先よりも先に位置する、四国と九州の間くらいの大きさの巨大な島で、シチリアだけで十分一つの国と言えるほどの土地なのです。
海を挟んで目の前に北アフリカのチュニジアがありますので、アラブ圏の影響も強く受けていますし、古代ギリシャ、ローマ時代から様々な勢力に支配され、高度な文明を享受してきただけあり、シチリアの奥深いこと……。その南東の都市、シラクーサはこれまた、異文化の歴史の塊、まるで別世界なのでありました。そもそも、イタリアのシチリアなのに、ここに古代ギリシャ文明があった、というのが凄くないですか?ギリシャとどうやってつながったのかは、歴史の書でお勉強ください。ここに現存する欧州最大のギリシャ劇場は春から夏にかけて、いまだに上演されているのですから、凄すぎる、時間よ、止まれ~、なのです。
そのシチリアで食べたものについては本誌9月号のエッセイ「キッチンとマルシェのあいだ」で詳しく記しましたので、譲るとして、今日は、そのシチリアで出会った、めっちゃ感動的だったサラダをご紹介したいと思います。
南国ですからね、オレンジがほんとうに美味しいのです。オレンジとウイキョウとアンチョビで作るわけですが、普通、思いつかないですよ~、こんなコンビネーション!それが、うまいんです。とあるレストランではそこのマダムに気に入られて、炒ったパン粉がかかったオレンジを出されました。
「サラダよ」
えええ、これがサラダ?と驚きながら口にいれて、おおお、と衝撃が走ったのでした。
「うまーい!!食べことなーい!」
今回のサラダ、実はパン粉のかかったオレンジでもよかったのですが、植野編集長に手抜きをしていると思われそうだから、現地のメニューにもきちんと載っていた「シラクーササラダ」にしました。アンチョビとオレンジの組み合わせも、驚きですね。しかし、古代ギリシャからの伝統を感じる、まさにシラクーサの味だったのです。ウイキョウがこの両者をどうやってつなぐのかも、見もの、味もの、でございます。では、さっそく作ってまいりましょう。
オレンジ | 1個 |
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ウイキョウ | 1/4個 |
アンチョビフィレ | 2枚 |
ケッパー | 適量 |
塩 | 適量 |
胡椒 | 適量 |
オリーブオイル | お好みで |
オレンジの皮をむいて、好きな大きさにカットし、お皿に並べる。
ウイキョウの根本の部分を薄く切って、①の皿の上から散らす。
アンチョビとケッパーとウイキョウの葉をのせ、最後にとびきり美味しいオリーブオイルを好きなだけかけ、塩、胡椒をふって召し上がれ。
シンプルなので、美味しい素材を揃えて作って頂きたいです。オリーブオイルはシチリア島、エトナ山付近で採れたものが秀逸でございました。シチリア島で採れるオレンジとウイキョウ、そこにアンチョビの塩味とケッパーの酸味が加わり、オリーブオイルがこれを見事にまとめる。シチリアの太陽を感じる組み合わせをぜひ、ご堪能ください。
文:辻 仁成 写真・協力:Miki Mauriac