荻野恭子さんの手づくり調味料レシピ
深い旨味と新鮮な辛味の"自家製豆板醤"

深い旨味と新鮮な辛味の"自家製豆板醤"

豆板醤の原料は、そら豆と唐辛子、塩。そら豆の発酵と乾燥さえうまくいけば、簡単に仕込むことができるんです。料理研究家の荻野恭子さんから、日々役立つ調味料を習いました。

昔から家庭でつくっているのだから、難しいことはないのよ

料理研究家・荻野恭子さん
料理研究家・荻野恭子さん

いつも料理に使っている調味料や漬物、麺やパンなどの生地。わが家の食卓に上がるものの多くは、自分で一からつくっています。手づくり調味料はハードルが高すぎて!なんて思っている人も多いけれど、やってみると案外、簡単にできるのよ。

コツは、一度にたくさん仕込まないこと。これなら使いきれる、という量なら楽な気持ちでチャレンジできるし、保存も場所をとらず面倒をみやすいでしょう。一度つくって手づくりのおいしさを知れば、続けてやってみよう、という意欲も湧くもの。
今日はまず、初夏に出回るそら豆を使って豆板醤をつくりましょうか。「豆板」って、そら豆のことなのよ。薄皮を外して中の豆をふたつに剥がすと、板みたいに平らになっているでしょう?中国四川省の郫県(ピーシェン)が本場で、日本では豆板醤と呼ぶけれど、唐辛子が入るから豆板辣醤(トウバンラージャン)が本来の名称。

初夏に採れたそら豆を蒸して薄皮をむき、小麦粉をまぶして発酵乾燥させ、秋に唐辛子が完熟したら塩と一緒に混ぜて発酵熟成させるのが現地のやり方だけど、私はもっと短期間で仕込んでいるの。そら豆の薄皮ももったいないので、入れてしまいます。発酵乾燥はちょっと難しいかもしれないけれど、少量だし、失敗したらもう一度やってみて。一度やれば勘がつかめます。
だんだんと塩のカドが取れて、発酵と熟成が進んで。段階を楽しめるのが手づくりならでは。自家製豆板醤と手打ち麺で「汁なし担々麺」なんて最高でしょ?レシピもご紹介するので、ぜひつくってみて。

もう一つ、完熟トマトを使ったトマトクリュは、説明の必要がないほど簡単!刻んだトマトに塩と砂糖を混ぜて冷蔵保存しておくだけでいろいろな料理に応用できて、夏の食事づくりがぐっと楽になるの。気楽につくれるピザ生地もご紹介しますね。
温度や時間といったことに神経質にならなくても、手でやっていれば自然とできる。それが手づくり、家庭料理のいいところ。気負わず、まずはやってみましょう。

“豆板醤”のつくり方

使いながら発酵と熟成を促すことで、長期間にわたって変化していくのも楽しい。自家製は味も香りもとびきり!料理にひとさじ加えるだけで、単に辛さだけではない旨味が広がって、もう市販品には戻れなくなりますよ。

材料材料 (つくりやすい分量)

そら豆100g(ゆでたもの、薄皮ごと(*))
小麦粉大さじ1
赤唐辛子50g(鷹の爪など)
50g
200ml

*そら豆はそのまま食べられる程度の固さにゆでておく。

1薄皮を外す

そら豆は薄皮を外し、中の豆の重なった部分をふたつに剥がす。

薄皮を外す

2薄皮をちぎる

薄皮は手で細かくちぎっておく。

薄皮をちぎる

3小麦粉をまぶす

①、② に小麦粉をまんべんなくまぶす。この粉でそら豆の発酵を促す。

小麦粉をまぶす

4盆ザルに広げる

③を盆ザルに広げてラップをふんわりとかける。

盆ザルに広げる

5乾燥させる

ボウルの上などに盆ザルをのせると、底面の通気がよくなる。このまま日の当たる場所に1日置くと、少しずつ発酵臭が出て、粘ったような感触に。

乾燥させる

6発酵させる

2日目以降はラップとボウルを外し、盆ザルをもう1枚、蓋としてかぶせ、毎日全体を混ぜながらさらに3日ほど置く。発酵が進む前に乾燥してしまった場合は、手水を少量ふりかけて発酵を促すとよい。

発酵させる

7発酵乾燥そら豆の完成

重量は40gほどに減っている。

発酵乾燥そら豆の完成

8唐辛子を粉砕する

唐辛子を種ごとフードプロセッサーにかけ、粗めに粉砕する。

唐辛子を粉砕する

9塩と水を加える

ボウルに⑦、⑧、塩を入れ、水を加えてよく混ぜる。

塩と水を加える

10水気を吸うまで置いておく

はじめは水っぽくシャバシャバしているので、ふんわりとラップをかけ、そら豆と唐辛子が水気を吸い込むまで半日~1日ほどそのまま置いておく。

水気を吸うまで置いておく

11完成

水気を吸ったら、よく混ぜて保存瓶に詰める。軽く蓋をして、毎日かき混ぜながら室温に1週間から10日ほど置き、その後は冷蔵庫へ。すぐに使えるが、はじめは塩味が立っている。使うたびによく混ぜると熟成が進んでおいしくなり、1年は楽しめる。

完成

教える人

料理研究家 荻野恭子

料理研究家 荻野恭子

料理研究家。世界中を旅しながら現地の家庭やレストランで料理を習い、食文化を研究するのがライフワーク。これまでに訪れた国は65カ国以上。特に“塩”は長年追いかけ続けているテーマの一つで、近著に『塩ひとつまみ それだけでおいしく』(女子栄養大学出版部)がある。ほかに『手づくり調味料のある暮らし』(暮しの手帖社)など著書多数。自宅で料理教室「サロン・ド・キュイジーヌ」を主宰。

※この記事の内容は、『四季dancyu 2022夏』に掲載したものです。

四季dancyu 2022夏
四季dancyu 2022夏
A4変型判(120頁)
2022年6月8日発売/1,100円(税込み)

文:鹿野真砂美 撮影:伊藤徹也

鹿野 真砂美

鹿野 真砂美 (ライター)

1969年東京下町生まれ。酒と食を中心に執筆するフリーライター。かつて「dancyu」本誌の編集部にも6年ほど在籍。現在は雑誌のほか、シェフや料理研究家のレシピ本の編集、執筆に携わる。料理は食べることと同じくらい、つくるのも好き。江戸前の海苔漁師だった祖父と料理上手な祖母、小料理屋を営んでいた両親のもと大きく育てられ、今は肉シェフと呼ばれるオットに肥育されながら、まだまだすくすく成長中。