フランスで大人気のディップのレシピです。作家、ミュージシャン、映画監督など幅広く活躍をしている辻仁成さんは、本誌の連載「キッチンとマルシェのあいだ」でも書いているように、多彩で美味しい料理をつくります。パリに住んで20年の辻さんによる、美味しさと思い出の詰まった“パリ・サラダ”のレシピです。
フランスのスーパーには、いわゆる「ディップ」ばかりを集めたコーナーが必ずある。フランスはアペロ大国なので、夕食時ともなると、まずは、軽く食前酒とつまむものが必要になる。そのつまむものの代表格のひとつが、「ディップ」だ。
とはいえ、様々なディップがあるので、ディップと一言で申しても、実に奥が深い。
日本でディップと言えば、バーニャカウダなどの名前があがるが、そういうディップではなく、丸い透明の容器に入った冷たいディップたち、たとえば、ギリシャおよびトルコのタラモサラタ、ザジキとか、メキシコのワカモーレ、フランスだったらタプナードかなぁ。
ともかく、その中でもダントツ人気なのが、今日ご紹介する「ババガヌーシュ」なのだけど、日本人にはなじみがない。
ひよこ豆をディップにした「フムス」をご存じの人は多いだろう。このフムスとババガヌーシュは、レバノンとか中東のディップなのだが、フランスのスーパーで、まず間違いなく、一番売れているのがこの二つなのである。
個人的には、ひよこ豆のフムスが一番好きなのだけど、ファラフェル・サラダの時に、ひよこ豆は使わせて頂いたので今日は、人気を二分するババガヌーシュ、つまり茄子のディップの方を一緒に作ってみたい。
ここで、ちょっと専門的な話になるが、同じようなディップでも、フランスで作られる「茄子のキャビア」というのがある。これ、ババガヌーシュと実によく似ている。キャビアというけれど、チョウザメの卵のキャビアのことではない。茄子の中の種がチョウザメのキャビアっぽく見えることから、皮肉屋の多いフランスでは「貧乏人のキャビア」と呼ばれており、庶民に愛されている。これも作り方はババガヌーシュと似ているが、茄子のキャビアの方がやや茄子感が残っているかなぁ(個人差、あり)。ババガヌーシュはソース風ディップだから、それだけを見ると、原形がまったく想像できない。
さて、ババガヌーシュはピュレ状になっているので、より繊細な食感である。さらに茄子のキャビアとの相違点は、ババガヌーシュにはタヒニ・ペースト(炒ってない胡麻のペースト)が入っていることであろう。つまり、これが決め手なのだ。話題のタヒニ!
辻家の冷蔵庫、開けると、必ず、ババガヌーシュかフムスのどちらかが入っている。焼いたバゲットの先につけ、ガブッと齧る。冷えたワインで、胃に流し込む、くー、たまらないねー。のんべえのぼくにはなくてはならない一品なのであった。
はい、では、早速、今日も、一緒に作ってみましょう。
茄子 | 3本(フランスの茄子は大きいので1本) |
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タヒニ | 大さじ1 |
レモン | 1/2個 |
クミンパウダー | ひとふり |
にんにく | 1片 |
塩 | 小さじ1/2 |
オリーブオイル | 適量 |
コリアンダー | お好みで(飾り用) |
松の実 | お好みで(飾り用) |
茄子は縦半分に切り、身側に格子状に切り目を入れ、皮面を上にして、190度に予熱したオーブンで30分焼く。
茄子が焼けたら皮をむいてボウルに身だけを取り出し、潰したにんにく、タヒニ、レモンの搾り汁を入れて、ハンドブレンダーでピュレ状にする。
クミンを加え、塩で味を調える。お皿に盛り、刻んだコリアンダーや松の実などをお好みでちらし、オリーブオイルを垂らしたら完成。
野菜をバトン状に切り、ディップをつけていただきます。
おお、最高!ボナペティ!
文:辻 仁成 写真・協力:Miki Mauriac