トルコの家庭料理
ヨーグルトときゅうりの飲むサラダ"ジャジュック"

ヨーグルトときゅうりの飲むサラダ"ジャジュック"

軽やかな酸味が心地よい飲むサラダです。爽やかな食べ心地は前菜にうってつけです。驚くほど多彩な味わいを持っているトルコ料理をユーラシア大陸の料理の研究をライフワークとする荻野恭子さんに教えて貰いました。

トルコの家庭料理

アジアとヨーロッパ、二つの土地にまたがる広大な国土を持つトルコ。かつて、中央アジアから東のアナトリア半島へと移動、定住したトルコ民族の遊牧民としての食文化と、その後、隆盛を誇ったオスマン帝国が支配した周辺地域の文化。長い歴史のなかでさまざまな要素が積み重なり、育まれたトルコ料理は、フランス料理、中国料理とともに世界三大料理のひとつとも言われています。
トルコ国民のほとんどがイスラム教徒。ロシアをはじめ、ユーラシア大陸の食文化を長らく探求している荻野恭子さんがトルコ料理に興味を持ったのは、イスラム教の断食月であるラマダンの期間中は、日没後にイフタールというご馳走を食べることを知り、楽しそうだな、と思ったことがきっかけでした。

「ご馳走って、宗教のお祭りと密接に関わっていると思うの。日本だって、お盆にはご馳走を食べるでしょう? ラマダンもそう。イスラム圏は男性社会だから女性の姿が見えにくいけれど、トルコはほかのイスラムの国よりもそのへんは少しゆるやか。家庭でどんなものを食べているか知りたくて、日本で知り合ったトルコ人留学生を頼り、彼の実家にホームステイさせてもらったんです」

滞在した家のお母さんは、料理コンテストで優勝するほどの腕前。ここを拠点に地方を巡りながら、さまざまな料理を教わったそう。
トルコは三方を海に囲まれ、広大なアナトリア高原を有し、地域により気候も大きく変わるため、ほとんどの食糧を自国でまかなうことが可能なほど、土壌が豊か。ワイン造りの歴史も古く、イスラムの国では珍しく、飲酒にも比較的寛容です。
遊牧民時代からの食文化で、食事の始まりはチョルバ(スープ)から。疲れた体をやさしいスープで癒やしたら、次はメゼ(前菜)を楽しみます。野菜をたっぷりのオリーブオイルで煮炊きしたものに、豆やヨーグルト、チーズをふんだんに使ったディップなど、目にも楽しい料理がたくさん。主菜は、海沿いの地域では魚介類も食べますが、肉食が中心。イスラム教徒なので豚肉はご法度です。料理にコクを出すための酒を使うことができないので、野菜料理には砂糖をひとつまみ、煮込みやピラフの玉ねぎはしっかりと炒めたり、サルチャというトマトを煮詰めて発酵させた旨味のあるペーストがよく使われます。
また、小麦粉の原産地でもあるので、エキメキと呼ばれるパンや、麺やラビオリ状のマントゥなど粉料理も豊富。シルクロードを通じて伝わった、ピラフなどの米料理も親しまれています。本当になんでもあり!
さらに興味深いのは、オスマン帝国時代の宮廷料理が一般家庭まで浸透しているところ。美食家だったスルタン(君主)が宮廷料理人たちを競わせて腕を磨かせ、やがて時代の終焉とともに故郷へ帰った料理人が、各地で料理を伝えたからだと言われています。

「あちらでは素朴で簡単なことが“おいしい”の定義。でも、滞在先のお母さんが『やっぱり料理は手の込んだものほどおいしいし、人を幸せにするのよ』と話していたのが忘れられないの」
気どらぬ遊牧民の料理と宮廷料理が同じ食卓に並ぶことの豊かさに加え、家族を想って日々、丁寧に食事を調えることの大切さ、愛情深さを感じずにはいられない言葉です。

“ジャジュック”のつくり方

遊牧民は水を確保することが難しかったため、連れている家畜の乳を搾って飲んだり、ヨーグルトにして水分補給をしていました。ヨーグルトの軽やかな酸味と、きゅうりのコリコリとした食感の組み合わせがなんとも爽やか。

材料材料 (4人分)

プレーンヨーグルト250g
100ml
きゅうり1本
にんにく1片分(すりおろす)
小さじ1/2
ディル適量(みじん切り)
ドライミント適量
チリペッパー少々
オリーブオイル大さじ2

1きゅうりに塩をする

きゅうりは粗めのみじん切りにしてボウルに入れ、塩をからめて5分ほど置く。

2混ぜる

1にヨーグルトと水、にんにくを加えてよく混ぜたら器に盛り、ディル、ミント、チリペッパーを散らし、オリーブオイルを回しかける。

完成

教える人

荻野恭子

荻野恭子

おぎの・きょうこ●料理研究家。栄養士。世界65カ国以上を訪れて家庭料理を学び、食文化を研究している。料理教室「サロン・ド・キュイジーヌ」主宰。『家庭で作れるトルコ料理』(河出書房新社)、『塩ひとつまみ それだけでおいしく』(女子栄養大学出版部)など著書多数。

※この記事の内容は、四季dancyu「春のレシピ」に掲載したものです。

四季dancyu 春のレシピ
四季dancyu 春のレシピ
A4変型 判(120頁)
2022年3月15日発売/1,100円(税込)

文:鹿野真砂美 撮影:宗田育子

鹿野 真砂美

鹿野 真砂美 (ライター)

1969年東京下町生まれ。酒と食を中心に執筆するフリーライター。かつて「dancyu」本誌の編集部にも6年ほど在籍。現在は雑誌のほか、シェフや料理研究家のレシピ本の編集、執筆に携わる。料理は食べることと同じくらい、つくるのも好き。江戸前の海苔漁師だった祖父と料理上手な祖母、小料理屋を営んでいた両親のもと大きく育てられ、今は肉シェフと呼ばれるオットに肥育されながら、まだまだすくすく成長中。