20代から雑誌や広告で活躍してきたカメラマンの伊藤徹也さんは、近年、もう一つの顔を持つようになりました。神出鬼没の中華ユニット、「MIYOSHIYA飯店」料理人として、友人・知人に得意の麻婆豆腐を振る舞うのです。過去のdancyuに登場したレジェンドレシピに衝撃を受けたりしながら、10年以上試行錯誤を重ねて今の味わいに行き着いたという、”俺の麻婆豆腐”の深すぎる極意を教えてもらいました。
dancyu8号「夏のつまみと酒」特集。『あの人の晩酌』コーナーでは、自宅で楽しい晩酌時間を過ごす達人たちのお宅にお邪魔し、独自の楽しみ方を紹介しています。その中に登場したのが、弊誌でも活躍するカメラマンの伊藤徹也さんと、唎酒師でもある娘のひいなさん父娘。
誌面では、撮影現場から帰るとすぐに晩酌でレシピを実践する、伊藤さんの中華おつまみのレシピに合わせ、ひいなさんによる日本酒のマリアージュを紹介したのですが、実はこの宴には、誌面では紹介しきれなかった締めの一品がありました。
それは伊藤さんの大好物、麻婆豆腐。10年もの年月にわたってつくり込んできた一品ですが、3年前のdancyuに掲載されていたレシピに衝撃を受けて、今までのレシピを全て捨て、一から見直して再構築したといいます。コロナ禍中、仲のいい友人らにデリバリーしたり、カメラバッグに材料を詰め込んで現場に向かい、打ち上げなどで振る舞ってきた麻婆豆腐を、今回の取材にも用意してくれました。
もともと参考にしたレシピの枠をはるかに越えて、独自の進化を遂げた逸品です。型破りなつくり方で生み出される、スパイシーで香り高い伊藤式麻婆豆腐は、そのままでもアテとして飲めるし、締めのお米泥棒でもあります!さんざん飲み食いした後にもかかわらず、あっという間に取材陣の胃袋に収まっていました。
数えきれない試作と検証を経て進化し続けてきた麻婆豆腐は、細部に至るまで、伊藤さんの信念がこもっています。豆腐ののど越しを楽しむためには、絹ごし豆腐をチョイスしたい。決して豆腐を崩さないために、中華鍋の傾斜に合わせて自作のヘラをつくるほど。香りと味わいのレイヤーを何層にも重ねていった、のど越しのいい麻婆豆腐は、「一部の人から、“セクシー”とも言われました(笑)」。
今年も迎える暑い夏。食欲が落ちそうな時は、大汗をかきながら麻婆豆腐をかき込んで、活力を養ってみませんか。
★ 絹ごし豆腐 | 1丁(大山阿夫利) |
---|---|
★ 豚挽き肉 | 70g(粗挽き) |
★ 猪のラード | 大さじ2(自家製) |
花椒 | 小さじ1/2 |
にんにく | 1片分(みじん切り) |
長ねぎ | 4~5cm分(みじん切り) |
豆板醤 | 小さじ1 |
甜麺醤 | 小さじ1 |
★ 豆豉の紹興酒漬け | 大さじ1 |
★ ブレンド唐辛子 | ひとつまみ |
紹興酒 | 大さじ1 |
鶏ガラスープ | 120㏄ |
★ にんにく醤油 | 大さじ1 |
★ 紅油 | 大さじ3 |
★ 水溶き片栗粉 | 適量 |
(仕上げ用) | |
★ 松の実 | 少々(好みで) |
ニンニクの芽 | 適量(細切り) |
長ねぎ | 大さじ1(みじん切り) |
粉山椒 | ひとつまみ |
使用する全ての材料を準備し、点検しておく。調味料の入れ忘れが防げる上、途中で中断せずにすむ。
鍋にラード(または油)大さじ2を熱する。焦げないようにしながら中火で花椒を炒める。香りが経ってきたら、にんにく、長ねぎを加えて、さらによい香りが出るまで炒める。
弱火にして豆板醤と甜麺醤各小さじ1、★豆豉の紹興酒漬け大さじ1を加え、豆豉をつぶしながら炒める。
調味料の香りが立ってきたら、豚ひき肉を加え、ほぐすようにしながらよく炒める。ちなみに豚肉を叩くところまではさすがに手が回らないので、「生活クラブ生協」の粗挽きの豚ひき肉を愛用。手で叩いたような食感にかなり近い。
豚肉の色が変わってきたら、★ブレンド唐辛子ひとつまみ(分量は好みで調整)と紹興酒大さじ1を加えてアルコールを飛ばすように炒める。
120㏄のお湯に鶏ガラスープ大さじ1を溶かし、鍋肌からそっと加えて、味がなじむまで鍋を沸かす。辛いものが好きな人は、ここでさらに激辛一味を少量加えてもよい(伊藤さんはAmazonで大量購入して小瓶に分け、耳かき1杯加えている)。
さいの目に切った豆腐を、そ~っと鍋の中に加える。ここから先の工程は、お玉の使用不可!専用ヘラに持ち替えて、とにかく豆腐を傷つけないように慎重に行う。
中火にして豆腐の水分を飛ばすように熱しながら、★にんにく醤油大さじ1を回し掛け、ヘラで優しく馴染ませる。
豆腐に火が入ったら、★紅油大さじ3を、3回ほどに分けて細く垂らすようにしながら加える。
鍋をゆすりながら、★水溶き片栗粉を適量加えてゆき、とろみの加減を見ながら馴染ませる。
最後は、強火にして鍋肌にタレを焼き付けるようにしたら、松の実、にんにくの芽、長ねぎ、粉山椒を振りかけて完成。
1968年東京生まれ、港区白金の団地育ち。日本大学芸術学部写真学科在学中に出版社でアルバイトを始め、卒業後プロの道へ。撮影範囲はポートレートから建築、料理までと幅広く、広告や雑誌媒体で活躍中。三度のご飯とお酒と旅が好き。Hanako.tokyoで、唎酒師で娘のひいなさんと「伊藤家の晩酌」を連載中。
文:千葉泰江 撮影:山崎智世