ポルトガルの家庭料理
旨味の詰まった"豚とあさりのアレンテージョ風"

旨味の詰まった"豚とあさりのアレンテージョ風"

ポルトガル料理と聞くと、魚料理のイメージが強いかもしれませんが、肉料理もたくさんあるんです!絶賛発売中のdancyuムック・四季dancyu「秋のレシピ」より、ポルトガルの家庭料理をご紹介!

ポルトガルの家庭料理

馬田草織さん
馬田草織(ばだ・さおり)●東京生まれ。出版社勤務の後、ライター、編集者として活動しつつ、ポルトガル料理研究家として自宅で料理教室「ポルトガル食堂」を主宰。著書に『ようこそポルトガル食堂へ』『ムイト・ボン!ポルトガルを食べる旅』など。

「Tシャツとジーパン。ポルトガル料理を一言で表すなら、そんな感じ。気どらない、普段着の料理ばかりなんです」と、馬田草織さん。かの地を初めて訪れたのは学生時代。当時は、その魅力にあまり気づかなかったそうですが、それから10年ほど経ち、縁あって再び旅をしたのがきっかけで、素朴だけれど奥深いポルトガルの食文化にすっかりはまりました。現在は文筆業の傍ら、現地に通いフィールドワークを重ねながら、著書などで情報発信。料理教室も主宰しています。

ポルトガルでの日々の食事は、朝はコーヒーとパンなど軽いもの。昼と夜にしっかりと食べるほか、合間にランシュと呼ばれる間食をとる文化があります。食事の際、他のヨーロッパの国では、一人分ずつ前菜、主菜と順番に食べるスタイルが多いのですが、ポルトガルではさまざまな料理が大皿で並び、仲間や家族でシェアして楽しむのが一般的。日本の食卓にも、ちょっと似ていますね。

レストランへ行くと、席に着いてまず登場するのが、パテや揚げ物、チーズなどが並んだコウヴェールという前菜盛り合わせ。食べたくなければパスしてもよい皿ですが、おいしいワインの産地としても知られるポルトガル。頼んだ料理を待つ間、飲みながらついついつまんでしまいたくなります。メニューは肉料理、魚介料理、野菜料理、米料理というカテゴリーに分けられていて、食べたいものを好きなようにオーダー。

「お店の料理も家庭料理からきているので、妻がシェフ、夫がサービスを務めている店も、けっこうあるんですよ。共働き家庭も多いので、家でのご飯づくりで無理はしません。時間のあるときに数日楽しめる料理をたくさんつくっておいて、早く帰ってきたほうが支度をしたり。外食もよくします。魚介や肉の炭火焼き専門店などが人気です」

今回は、肉と魚、野菜、米料理に分けて、それぞれ現地の家庭やレストランで親しまれている料理を教えてもらいました。イベリア半島の豊かな土地で育まれる豚や鶏、野菜を使った料理に、大西洋で獲れる海の幸。特に魚介は、一人あたりの年間摂取量が日本より多いのだとか。たこや鰯、まぐろなどの料理のほか、たらを塩漬けにして干したバカリャウは必需品。大航海時代に保存食として生まれた食材が、現在まで受け継がれています。そして、ヨーロッパには珍しく、炊き込みご飯など米料理のバリエーションが豊富なことも、日本人には親しみやすいところ。

実際にレシピを教わってみると、馬田さんが“Tシャツとジーパン”と表現したのも納得。どの料理もカッコつけたところがなくて、とにかく素朴なのです。
「炭火で焼いただけの鰯なんて、シンプルの極み。現地の人に聞いても、結局、何もしないのがいちばん旨いよね、という話になります。ここから日本へと伝わった料理も数多く、調べれば調べるほど、興味が湧く国です」

かつて、カステラなどの南蛮菓子や天ぷらなどがポルトガルから日本へ伝わり、それがこの地でしっかりと根づいたのも、もしかしたら、このシンプルでわかりやすいおいしさ故なのかもしれません。初めてなのに、どこか懐かしさを感じる味ばかりでした。

ポルトガルの肉料理“豚とアサリのアレンテージョ風”

材料材料 (4人分)

豚肩ロース肉300g(塊)
あさり200g(砂抜きしたもの)
じゃがいも2個
赤パプリカ1/2個分(すりおろし(またはパプリカパウダー大さじ1+白ワイン50ml ))
にんにく1~2片分(すりおろし)
コリアンダー適量(またはイタリアンパセリ)
ラード大さじ2
適量
レモン適量
マッサ・デ・ピメンタオン
本来は生ではなく、マッサ・デ・ピメンタオンという、塩漬けのパプリカをビネガーなどで味つけしたペーストを使用。ポルトガルでは市販品が一般的で日本でも入手はできるが希少なため、今回は生のパプリカを使用。パプリカパウダー大さじ1と白ワイン50mlを混ぜたものでもよい。

1下ごしらえ

豚肉を大きめの一口大に切り、ボウルに入れる。ここへにんにく、パプリカ、塩適量を加えてしっかりとからめ、ポリ袋に入れて冷蔵庫で1時間以上、できれば一晩おいて下味をつける。

2じゃがいもを揚げ焼きする

じゃがいもは皮付きのまま一口大に切る。フライパンにラードを入れて中火にかけ、溶けたらじゃがいもを入れる。いい色になるまで5~6分ほど揚げ焼きして取り出す。

3すべての具材を焼く

フライパンにラードが残っているところへ1の豚肉を入れ、中火で焼く。肉の表面に焼き色がついたら、あさりを加えて蓋をして火を通す。

4仕上げる

あさりの口が開いたら、2のじゃがいもを加えてざっと混ぜ、粗く刻んだコリアンダーを散らす。器に盛り、カットしたレモンを添える。

完成
南部のアレンテージョ地方で親しまれる、海と山の恵みを一緒に味わうひと皿。パプリカの風味をしみ込ませた豚肉とあさりのおいしさもさることながら、二つの旨味をしっかりと受け止めた揚げじゃがいもが陰の主役。

教える人

馬田草織

馬田草織

東京生まれ。出版社勤務の後、ライター、編集者として活動しつつ、ポルトガル料理研究家として自宅で料理教室「ポルトガル食堂」を主宰。著書に『ようこそポルトガル食堂へ』『ムイト・ボン!ポルトガルを食べる旅』など。

四季dancyu「秋のレシピ」
四季dancyu「秋のレシピ」
A4変型判(120頁)
2021年9月13日発売/1100円(税込み)

文:鹿野真砂美 撮影:宗田育子

鹿野 真砂美

鹿野 真砂美 (ライター)

1969年東京下町生まれ。酒と食を中心に執筆するフリーライター。かつて「dancyu」本誌の編集部にも6年ほど在籍。現在は雑誌のほか、シェフや料理研究家のレシピ本の編集、執筆に携わる。料理は食べることと同じくらい、つくるのも好き。江戸前の海苔漁師だった祖父と料理上手な祖母、小料理屋を営んでいた両親のもと大きく育てられ、今は肉シェフと呼ばれるオットに肥育されながら、まだまだすくすく成長中。