辻仁成の“パリ・サラダ”
辻 仁成の"パリ・サラダ"|第一回"サラダ・ランデーズ"

辻 仁成の"パリ・サラダ"|第一回"サラダ・ランデーズ"

辻仁成さんの新連載、パリ・サラダが始まります!作家、ミュージシャン、映画監督など幅広く活躍をしている辻仁成さんは、本誌の連載「キッチンとマルシェのあいだ」でも書いているように、多彩で美味しい料理をつくります。パリに住んで20年の辻さんによる、美味しさと思い出の詰まった"パリ・サラダ"のレシピです。

ランチに食べたい“サラダ・ランデーズ”

自宅周辺には、数軒の馴染みのカフェがあり、そこを順繰りと巡って、ランチを食べるのが、在仏約20年のぼくの愉しみでもあります。

還暦を超えてから、脂っこいものとか、濃厚な肉料理というのには滅多に手も胃袋も出なくなり、ここ最近は、とくに、昼はサラダとパンで済ませることが多くなりました。どのカフェも数十年は続いている老舗ばかりで、店主もだいたい二代目、三代目、味と伝統を受け継ぎ、守ってきている名店ばかりなのです。

カフェのメニューにはだいたい定番サラダの名前が躍っていて、その数は、4、5種類、あります。有名なのはシーザーサラダ、サラダ・ニソワーズ、シェーブルショー(温かいヤギのチーズ)がのったサラダ、アトランティック・サラダ(サーモンのサラダ)、サラダ・イタリエンヌ、そして、今日、ご紹介する、ペリゴール風サラダ、といったところでしょうか。

店によって、呼び方はそれぞれ違っているし、シーザーサラダもチキンカツ入りだったり、チキングリルだったり、店によって、もちろん、様々なアレンジが施されております。それが面白くて、あちこち食べ歩き、シーザーサラダだったらここのが好き、サラダ・二ソワーズならあそこがいいという具合になりまして、食べたいサラダに合わせて、うろうろするのがまた楽しい悩みだったりもするわけです。途中まで行って、あ、やっぱり、ペリゴール風サラダにしようかな、と引き返す時の、ぼくの逸る気持ち、ご想像ください。笑。

で、その伝統的なフレンチ・サラダの中でも、特にぼくがよく頼むのが、サラダ・ランデーズになります。
え?さっき、ペリゴール風サラダって言ってなかった?
はい、言ってました。実はだいたい同じ地域のサラダになります。ランドとペリゴールは、パリから南西、ボルドーの方角にある地域で、フォアグラの名所でもあります。サラダ・ペリゴルディンヌはペリゴール風サラダという意味になり、ジャガイモのソテーがここに加わり、よりボリューミー。時々、砂肝のオイル漬けが入っていたりします。これが、実に、美味いのです。

しかし、海により近いランド地方の、サラダ・ランデーズにはジャガイモが入っていません。風土の問題が関係しているのかもしれないですね。お腹が空いている時には、ジャガイモをソテーして、ランデーズサラダにのっけちゃえば、ペリゴール風サラダに早変わり。確かに、焼いたジャガイモが入ると入らないではなんか、味も満腹度も違うんです。

ちなみに、今から、35年前、26歳だったぼくが、はじめてパリを訪れ、はじめて入ったカフェが、サンジェルマン・デ・プレの「カフェ・ドゥ・マゴ」で、そこではじめて食べたフレンチ・サラダが、このサラダ・ランデーズであった。呼び方は違ったが、まさに、いんげん、フォアグラ、鴨生ハム、いちじくが入っているサラダで、今、思えば、あれこそ、サラダ・ランデーズに間違いなかった。本当に絶品で、ぼくが食に目覚めるきっかけを与えてくれたサラダなのである。
今日はあっさり、しかし高級感たっぷりの、サラダ・ランデーズを一緒に作ってみましょう。

まずは材料になります。全部、欠かせない非常にバランスのよい具材です。

サラダ・ランデーズのつくり方

材料材料 (つくりやすい分量)

ベビーリーフなどの葉物野菜適量
いんげん20本
鴨の生ハム12枚
ミニトマト4個
いちじく小2個(なければ大1個)
フォアグラ適量(ちょっとでいいですがいいポイントになります)
松の実適量
パン(あれば)
★ ドレッシング
・ バルサミコ酢大さじ1
・ ディジョンマスタード小さじ1
・ オリーブオイル大さじ2
・ 塩適量
・ 胡椒適量
材料

1ドレッシングをつくる

ドレッシングは小さな容器に材料すべてを入れ、よく混ぜておきましょう。

2具材の下ごしらえ

いんげんはちょっと歯応えが残るくらいにゆで、冷水で締めて水気をきっておいてください。松の実はフライパンで乾煎りしておいてください。

3盛りつける

まず、お皿に葉物野菜をのせ、具を並べて、ドレッシングをかけ、松の実を散らせば完成となります。フォアグラには、ちょっとフルール・ド・セルと黒胡椒(ともに分量外)を!

完成

うう、たまらない!!!
ボナペティ。

文:辻仁成 撮影・協力:Miki Mauriac