風が冷たくなってきたこの季節。燗酒がおいしくなってきますよね。今回は燗酒にぴったりな「魚の肴」を和食の名店「銀座 小十」の店主、奥田透さんに習いました。
冷たい風が頬にしみる季節。冷え込みそうな夜は早く家に帰って、ゆったり晩酌するに限る。好きな器で、好きな酒を飲み、気の利いたつまみがあれば最高だ。こんなとき、たまには魚を肴にして、燗酒なんかをちびちびやるのもいいな、なんて思ったりする。和食屋や居酒屋で、味噌や醤油に漬けた魚の焼き物を食べると、本当にしみじみ、旨いなあと唸りたくなる。そんな肴を、自分でもつくってみたい。酒飲みたるもの、晩酌の充実のためなら、少々の手間は惜しまないのである。
そこで教えを請うたのが、星付きの名店、「銀座 小十」の主人、奥田透さん。魚の味噌漬け、醤油漬けといったら、和食の基本のき。店でも、夏場の鮎や鰻、鱧などが終わり、秋冬から春にかけては、漬け込んだ魚が活躍するという。といっても、魚を一からおろす必要はない。身近な魚の切り身にひと手間かけるだけで、おいしい酒肴がつくれるのだ。せっかくならば、一流の味を教わって、わが物にしたいではないか。
まずは醤油漬けから。醤油とみりん、酒を合わせたたれに、魚の切り身を漬け込んでから焼いた、要は照り焼き、幽庵焼きと呼ばれるものである。下処理をした切り身をたれに漬け込むのは、30~40分だが、漬け上がった切り身は、美しいべっこう色に染まっている。さらに、それを焼く際は、「刷毛でたれを塗っては焼く作業を数回繰り返すことで、徐々に味をのせ、香ばしさを重ねていくんです」と奥田さん。金串と炭火で焼き上げる店と違い、家庭用の両面焼きグリルだと、頻繁に開け閉めをし、切り身の表面にたれを塗らなくてはならないが、このひと手間を惜しまずやれば、なんとも言えない艶やかな焼き上がりとなり、酒肴としての味わいにも深みが増すのだ。
一方、味噌漬けは西京味噌を使えば西京漬けになる。味噌床をつくり、切り身を漬けてから、食べ頃までに2~3日を要する。
「味噌漬けにする場合は、漬ける前に切り身に薄く塩をします。あらかじめ余分な水分を抜いておくことで、味噌の味が入りやすくなります。塩をしないで漬け込んでもいいのですが、その分、漬け込み期間が長くなる。味噌床にはみりんがたっぷり入っているので、長く漬け込むと身が硬くなってしまうんです」
ちょっとしたことが、仕上がりを左右する。さすがプロの仕事には学ぶことが多いなあ。今回は、基本に加えて、アレンジも3品教えてもらった。いずれも醤油漬けに使ったたれをベースに、味噌や実山椒、黒七味を効かせることで、酒肴度もさらにアップ。うれしい。これじゃあ、いくら酒があっても足りないではないか。これからは会社帰りにスーパーで、魚屋で、切り身を品定めするのが習慣になりそうだ。
みりん | 300mL |
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酒 | 100mL |
醤油 | 150mL |
ブリの切り身 | 2切れ~(サワラ、金目鯛でもよい) |
作業をする前に、キッチンペーパーでしっかりと水気を拭き取っておく。
ブリは皮が硬いので、1cm間隔くらいで切り込みを入れると、皮が縮まず、程よく脂も出る。サワラは皮を剥ぎ、金目鯛は皮目に細かく包丁を入れる。醤油漬けの場合は、塩をふったりしなくてもよい。
鍋にみりんと酒を入れて火にかけて沸かし、アルコール分をとばす(煮きる)。
3を氷水に当てて冷ます。時間があるときは自然に冷ましてもよい。
冷めた4に醤油を加えて混ぜ、たれの完成。多めにできるので冷蔵庫に保存し、切り身の数に合わせて、必要な量を使う。
魚2切れに対して、たれ150mLを注ぐ。好みで柚子のスライス2枚をのせると風味がアップする。上からキッチンペーパーをかぶせて30~40分漬け込む。
家庭用の両面焼きグリルで焼く。グリルをよく温めてから魚を入れて、焦がさないよう、火加減に気をつけながら焼く。ほぼ火が通ったら、表側に刷毛で残りのたれを塗って乾かすようにして焼く(写真は1回目)。この作業を3~4回繰り返しながら徐々に味をのせ、香ばしさを重ねていく。
たれを塗っては焼く、を数回繰り返すことで、味がしっかりとのり、照りと香ばしさが増す。柚子のほのかな風味もアクセントに。口中でほろりと崩れ、上品なブリの脂が溶け出してくる。
お酒好きでもある奥田さん。一番飲むのはビールやシャンパンなどの泡ものだとか。「今回ご紹介した料理の中で、個人的には味噌幽庵焼きが一番好きです。手に入れば、ノドグロやマナガツオも絶品。泣ける旨さです」。
文:鹿野真砂美 写真:名取和久
※この記事の内容はdancyu2013年1月号に掲載したものです。