レストランには出てこない料理、忙しいお母さんが毎日台所に立ってつくる料理には、たとえ食材や味つけが違っても、どの国の人でも共感できるポイントがあるはず。今回は北京出身のウー・ウェンさんに、北京の家庭料理を習いました。
「家庭料理は家族の健康をつくるもの。医食同源とか、薬膳といった言葉をわざわざ使わなくても、中国人の食生活には自然とそういう意識が根づいていますよ。難しいことではなくて、旬の食材を使い、愛情を込めた料理をつくって食べることが、それにつながるの」と、ウー・ウェンさん。
平成2年に来日以来、故郷、北京の気どらない家庭料理の味を、たくさん紹介してきました。たとえ現地と同じ調味料が揃わなくても、その考え方はネイティブそのもの。料理教室の生徒さんを北京へ案内しても、先生の料理と同じ!と言われるそう。
一般的な中国の家庭の食卓は、大皿に盛った料理を家族みんなで取り分けるスタイルです。献立は、肉や魚などタンパク質の食材を使ったメインのおかずに、野菜を使った副菜と、汁物が基本。時間や食材に余裕があれば副菜をもう1品増やす程度とか。暑い時季には白和えのような火を使わない料理を食べることもありますが、基本的には一年を通して冷たいものや生ものはほとんど食べず、煮炊きした料理が中心といいます。
「煮物に蒸し物、炒め物。どんな季節でも、調理法は変わらないの。でも、その季節の旬の食材を使うだけで、すごくバリエーションが増えますよ」
猛暑がようやく終わり、徐々に秋が深くなっていくこれからの時季は、体に疲れもたまっています。旬のきのこや秋なすなど、体の中を掃除したり毒素を排出してくれる食材でリセットさせ、免疫力を高める長いもなど、根菜を食べて元気を養う。旬の食材を食べることは、おいしいだけではなく、その時々に陥りやすい体の不調を整えてくれる、大事な役目もあるのです。
今回は、秋らしい食材を使った献立の見本例とともに、レシピを見ればすぐにでも実践できる煮物、蒸し物、炒め物を教わりました。ここから数品を組み合わせて、汁物を添えれば大満足な食卓の出来上がり。
ウー・ウェンさんの料理はどれも本当にシンプルですが、そのシンプルさは手間を省いたり楽をするという意味とはちょっと違います。煮物にはだしを入れず、蒸し物や炒め物にも、必要最小限の調味料しか使わないのも、旬の食材のパワーやおいしさをストレートに体に取り込み、そのものを味わいたいからこそ。「家族の健康を台所で預かる」という、お母さんの愛情とプライドが、こうした料理を毎日欠かさずにつくり続けることへのモチベーションになっているのだと感じます。
日本に暮らし始めて30年近くになるウー・ウェンさんですが、近頃、憂えているのは、毎日の食事づくりを面倒だと思っている人が、どんどん増えていること。「生きていくために一番必要なのは“食べること”。それをなおざりにしてはだめなの。一食食べたら、その分その人の人生の一食が減っていくんだもの。一回一回の食事を、もっと大事にしないとね」
鶏挽き肉 | 300g |
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A | |
・ 酒 | 大さじ1 |
・ 胡椒 | 少々 |
・ 粗塩 | 小さじ1/4 |
・ 溶き卵 | 1/2個分 |
・ パン粉 | 20g |
・ 長ねぎ | 10cm分(みじん切り) |
・ 胡麻油 | 大さじ1/2(焙煎タイプ) |
水 | 1と1/2カップ |
えのき茸 | 1パック |
しめじ | 1パック |
舞茸 | 1パック |
醤油 | 大さじ1と1/2 |
黒酢 | 大さじ1 |
胡椒 | 少々 |
ボウルに鶏挽き肉を入れ、Aを上から順に入れてつど混ぜる。混ざったら、4等分にして丸める。
鍋に水を入れて火にかけ、沸騰したら1を入れる。強火にして肉団子の表面が固まったら弱火にし、蓋をして7~8分煮る。
えのき、しめじは石突きを取って大きくほぐし、舞茸は一口大にほぐす。
2の鍋に3を入れ、蓋をしてさらに7~8分煮たら、仕上げに醤油、黒酢、胡椒で味をととのえる。
北京生まれ。1990年に来日。料理研究家としてクッキングサロンを主宰しながら、シンプルで体にやさしい中国家庭料理のレシピを雑誌や書籍、テレビなどで幅広く発信している。家庭では二人の子供をもつ母。
文:鹿野真砂美 写真:宗田育子
※この記事の内容はdancyuムック 「四季dancyu秋の台所」に掲載したものです。