今回のスープは、辻仁成さんがつくるスープのなかでも定番中の定番だという。作家、ミュージシャン、映画監督など幅広く活躍をしている辻仁成さんは、本誌の連載「キッチンとマルシェのあいだ」でも書いているように、多彩で美味しい料理をつくります。その辻さんは「パリはスープの宝庫」と言います。パリに住んで18年の辻さんによる、やさしいご馳走“パリ・スープ”のレシピです。
さて、今回はぼくの得意料理の中でも定番中の定番で、これは本当に皆さんに作っていただきたい一品のスープ版でございます。実はぼくの母方の従妹にウイーン在住の今村輪(MeguriImamura)という料理の先生がおりまして、元々はオペラ歌手で若くしてウイーンに渡ったのですが、ゲラルドさんという素敵な殿方と出会い結婚、今は、地元ウイーンの人々にオーストリア料理や和食を教えています。輪の料理は家庭料理ながら実に深みがあり美味いのです。今から10年ほど前にウイーンで再会し、御馳走になったグーラッシュという煮込み料理が本当に美味しくて、レシピを習ってパリに持ち帰り、ぼくはそれを和風にアレンジして寒くなると仲間たちにふるまってきました。植野編集長にも作ってさしあげたことがあります。笑。
一昨年、息子とハンガリーのブダペストを旅した時、レストランでグヤーシュというスープを発見、グーラッシュと何が違うのだろうと思って頼んでみたら、グーラッシュを薄めたような、と言うと悪いイメージが浮かびますが、サラっと汁っぽくした鍋料理がグヤーシュだったのです。
それもそのはず、グーラッシュはハンガリーが発祥の地らしく、ハンガリーではグヤーシュと呼ばれ、スープとして愛されています。それがドイツやオーストリアではシチュー料理になるのです。面白いですね。ハンガリーでの正式名称はグヤーシュレヴェシュ。グヤーシュは「牛飼い」を意味し、レヴェシュは「汁」のこと。ハヤシライスはここを語源に持つという説もあり、なるほど、確かに。フランスのブッフ・ブルギニヨンも、もしかしたら、グヤーシュの影響を受けているのかもしれません。
今回、特別に輪先生によるウイーン風グーラッシュ・スープのオリジナルレシピを、ほんの少し改良させて頂き、皆さまにお届けしたいと思います。料理というのは作り手と時間とその場所によって若干進化・変化するもので、これが日本に渡ればその土地の肉や水や空気でまたちょっと変化してもいいのだと思います。
さて、日本人にもきっと愛される「食べるスープ」の真骨頂、今村輪のグーラッシュズッペ、ぜひ、やってみてください。これは、本当に美味いです。選ぶ肉などでずいぶんと味も変わるので、地元の肉屋さんと相談をして、この煮込み料理にあう牛肉を探されるといいかもしれません。レシピは入り口です。皆さんのセンスと経験と知恵でさらに美味しいスープを作ってみてください。
牛肉 | 250g |
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玉ねぎ | 200g(みじん切り) |
パプリカパウダー | 20g(甘口) |
牛肉スープ | 1250ml |
トマトペースト | 小さじ1 |
にんじん | みじん切り |
★ 香辛料 | |
・ セロリの葉 | 適量 |
・ 潰したニンニク | 2片 |
・ マジョラム | 小さじ1/2(乾燥でよい) |
サラダ油 | 大さじ3 |
お酢 | 大さじ1~1と1/2 |
塩 | 適量 |
牛肉を1cm程に角切又は細切れにします。
鍋にサラダ油を入れ熱したら玉ねぎを炒め、透き通ったら1も加え炒めます。
パプリカパウダーを加え直ぐにお酢を加え少し蒸らし、パプリカパウダーの粉っぽさを取ります。
3に牛肉スープとトマトペーストも加え、混ぜ合わせます。そこへ香辛料とにんじん、塩を加え、1時間ほど牛肉が柔らかくなるまで蓋をして弱火で煮込みます。
ここまで出来たら、一晩寝かせてください。これがとっても重要です。すぐに食べると、肉の触感に角が残っていますが、一晩寝かせてあげることで、まろやかさ、深みが驚くほどにかわります。(夏は冷蔵庫で)翌日、もう30分ほど煮込んで完成となります。ボナペティ!
文:辻 仁成 写真・協力:Miki Mauriac