お世話になったママ友たちへ、辻さんが自ら振る舞った"クレーム・ド・マイス"とは、いったいどんなスープなのでしょうか?作家、ミュージシャン、映画監督など幅広く活躍をしている辻仁成さんは、本誌の連載「キッチンとマルシェのあいだ」でも書いているように、多彩で美味しい料理をつくります。その辻さんは「パリはスープの宝庫」と言います。パリに住んで18年の辻さんによる、やさしいご馳走“パリ・スープ”のレシピです。
息子と二人きりになった時、ぼくらの生活を助けてくれたのは、息子の学校の同級生のお母さんたちでした。ぼくにとっては「ママ友」にあたります。このママ友たち、時に、フランス語の苦手なぼくのかわりに学校の行事を手伝ってくれたり、情報を教えてくれたり、PTA会議での報告を英語で教えてくれたり、時にはワッツアップ(仏版ライン)のチャットで励ましてくれたり、本当に、優しい方々なのです。日本のママ友もいますが、実はそんなには変わりません。ただ日本人の方がちょっと謙虚ですね。むしろ、お節介すぎるくらい、ずけずけとモノを言ってくださるフランスのママ友たちにぼくは本当に支えられてきました。息子も彼女らのサポートのおかげで、のびのびと育つことが出来たのです。その彼も9月から高校二年生。新学期が始まる前に、ママ友たちへの感謝を表すため、お招きをして、フルコースをふるまうことになりました。
フランスも暑い日が続いていますので、前菜のトップバッターにこの“クレーム・ド・マイス”(とうもろこしの冷製スープ)を用意させて頂いたわけです。見た目はシンプルですけど、生とうもろこしを剥いて粒を削いで作るこのスープはとっても手間暇がかかります。でも、それだけに美味しい。気持ちをお返しするのに、やはりそれだけの時間と手間をかけたものの方が、よかったわけです。
料理は、愛情と時間と労力が一番のブイヨンになりますね。コーンを削ぎながら、ありがとう、ありがとう、と心の中で呟き、作らせていただきました。当然ながら、完成した冷製とうもろこしのスープは大好評でしたよ。さあ、フランスのママ友マダムたちを唸らせたぼくの自信作を今日はご紹介させていただきます。題して、冷製と情熱のあいだクレーム・ド・マイス!
生とうもろこし | 4本 |
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たまねぎ | 1/2個(薄切り) |
バター | 15g |
牛乳 | 150ml |
塩 | 適量 |
白胡椒 | 適量 |
オリーブオイル | 適量 |
生クリーム | 150ml |
生パセリ | 少々 |
生とうもろこしの皮をむき、包丁でコーン粒をそぎ落とします。髭が結構からんできますが、この髭の数だけコーンがあるということなので、髭ぼうぼうのとうもろこしは美味しい証拠だと思って、根気よく髭を取ってください。トッピング用に、大さじ2~3程度のコーン粒を予め、別皿に取り分けておきます。
とうもろこしの芯を半分に折って鍋に入れ、水をヒタヒタになるまで注ぎ、15分ほどよく煮立たせブイヨンをつくります。
別の鍋に玉ねぎとバターを入れ3~4分炒める(飴色になるまで炒める必要はありません)。そこにコーン粒を入れ、芯でとった2のブイヨンをヒタヒタの少し手前まで入れて、煮ます。結構時間がかかります。柔らかくなったら、牛乳を加えひと煮立ちさせて火を止め、粗熱を取ってください。
冷めたらハンドブレンダーで撹拌します。丁寧に裏漉しして、とろみのあるスープになったら、味をみて、塩、胡椒、オリーブオイルで味を調え、食べる前まで、じっくり冷蔵庫で冷やします。
食べる少し前に、ボウルに生クリームを入れ、塩と砂糖(分量外)をひとつまみずつ入れ泡だて器で混ぜ、クレーム・シャンティイをつくります。取り分けておいた少量のとうもろこしをフライパンで軽く焦げ目が出るまで弱火で炒めてください。お皿でもいいのですが、断層を見せたいので、今回のプレゼンテーションはワイングラスもしくはシャンパングラスを使います。グラスの三分の一まで、よく冷えたスープを注ぎ、その上にクレーム・シャンティイをまんべんなく敷いて、その上に焼いたとうもろこしを散らし、天辺にパセリを飾ったら、はい、完成。コーンスープのとろみと焼きとうもろこしの食感のあいだのクレーム・シャンティイがなかなか絶妙ですよ。暑い日にぜひ、ボナペティ!
文:辻 仁成 写真・協力:Miki Mauriac