辻 仁成の“パリ・スープ”
辻 仁成の"パリ・スープ"|第九回 ナポリの漁師料理"アクアパッツァ"

辻 仁成の"パリ・スープ"|第九回 ナポリの漁師料理"アクアパッツァ"

イタリア・ナポリの代表的な食べるスープ“アクアパッツァ”。いろいろな場所で食べてきた辻仁成さんがたどり着いたレシピをご紹介します。作家、ミュージシャン、映画監督など幅広く活躍をしている辻仁成さんは、本誌の連載「キッチンとマルシェのあいだ」でも書いているように、多彩で美味しい料理をつくります。その辻さんは「パリはスープの宝庫」と言います。パリに住んで18年の辻さんによる、やさしいご馳走“パリ・スープ”のレシピです。

イタリアの暴れる海水「アクアパッツァ」

アクアパッツァのアクアは「水」、パッツァは「奇妙な・狂った・暴れる」という意味を持つイタリア語なのです。実は、油に水を入れると跳ねたところから、この名前がつけられたと言われています。今では、アクアパッツァとは、魚介のスープのことを指すようになったのです。

もともとはナポリの漁師料理で、それこそ大昔は海水と白ワインで煮込まれていたというのですから、実にダイナミックじゃないですか?南イタリアを旅した時に、ぼくは一度、本場のアクアパッツァを頂くチャンスがありました。あまりに美味しかったので、厨房を覗き(とっても小さな家族経営のお店)、「シニョール、めっちゃ美味かったです。いったいどうやって作るの」とシェフに訊いたのです。「本物のアクアパッツァはブイヨンなど一切使わず、魚と貝の出汁のみで作るんだよ」と教えてくれました。なるほど、だから、あの食後の後味の爽やかさに繋がるのだ、と合点がいきました。それから、ぼくは長い年月をかけて、味わう魚介のスープ料理の研究に勤しむことになるのです。

今日、ご紹介するアクアパッツァはブイヨンやダシなど一切使わない、南イタリアのこだわり魚介汁になります。個人的には、鯛を使うことが多いですが、カサゴやスズキ、カレイなど、魚の種類は特に決まっていません。そういえば、沖縄で食べたグルクンのアクアパッツァは本当に美味しかった。そして、南イタリアも沖縄も海で繋がっているんだ、と思えば、ああ、合点がいく。魚が豊富な日本でアクアパッツアが流行る理由も頷けますね。なので、レシピにはあまり囚われることなく、魚の風味を取り込むことだけに集中して、創作してみてください。

アクアパッツァのつくり方

材料材料 (4人分)

1尾
あさり20個
プチトマト15個
ズッキーニ1/2本
白ワイン200ml
200ml
にんにく2片
オリーブオイル50ml
適量
胡椒適量
イタリアンパセリ少々

1魚の下ごしらえ

鯛は鱗と内臓を取り除き、塩をする。あさりは砂抜きをする。新鮮な魚介で作ることがとっても大事!魚が汗を掻いてきたら、出てきた水分を丁寧に拭き取る。

魚の下ごしらえ

2フライパンで火を通す

フライパンにオリーブオイルを入れ、潰して粗みじんにしたにんにくを加え、弱火で香りを出し、香りが出たら一度取り出す。そのフライパンで鯛を焼き、両面香ばしそうな焼き色がついたら、あさり、プチトマト、食べやすい大きさにカットしたズッキーニを加えます。(開かないあさりは死んでいるので取り除きましょう)
また、ズッキーニは、なければ加える必要がありません。今回は、パリがお盆の時期で八百屋がどこもお休み。どんなに頑張ってもパセリが手に入らなかったので、緑を添えたくて入れたのですが、これがなかなかに美味しかったです。でも、イタリアンパセリは必要ですよ!

3白ワインで煮る

見た目も味わいも美味そうな状態になったら、白ワインを加えてアルコールをとばす。香りに深みが増すのはこのときです。アルコールがとんだら水を加え、蓋をして10分ほど蒸し焼きにします。鯛によく火が通るよう、ときどき蓋をあけて、スープをかけましょう。

白ワインで煮る

4仕上げる

魚とあさりの出汁がしっかり出たら塩、胡椒で味を調え、最後にオリーブオイル(分量外)を回しかけ、完成となります。シンプルですけど、実に深みのあるアクアパッツァとなります。最後に、イタリアンパセリをたっぷりかけてお召し上がりください。ボナペティート!

仕上げる

文:辻 仁成 写真・協力:Miki Mauriac