辻さん流、ポタージュ・ペキノワをご紹介します。作家、ミュージシャン、映画監督など幅広く活躍をしている辻 仁成さんは、本誌の連載「キッチンとマルシェのあいだ」でも書いているように、多彩で美味しい料理をつくります。その辻さんは「パリはスープの宝庫」と言います。パリに住んで18年の辻さんにやさしいご馳走である“パリ・スープ”のレシピです。
フランスで暮らすようになったおよそ20年前、アジア飯を無性に食べたくなり飛び込んだ中華レストランのメニューにPotage pékinois(ポタージュ・ペキノワ)とあり、北京風のポタージュとは何だろうと思って試したのが、このスープとの出会いでした。
小さなボウルに入り、6ユーロ(720円)ほどの安さ。ポタージュ・ペキノワとは、日本でも馴染みの「酸辣湯(サンラータン)」のことだったのです。Pékinoisとはフランス語で「北京風の」という意味ですが、ご存じのようにこの酸辣湯は四川地方のスペシャリテですね。
仲良しの中国人シェフ、マダム・メイライにそのネーミングの謎を訊いてみたところ、「1960年代、フランス人にとって北京がもっとも有名な中国の街だったの。フランスの中華レストランはいろいろな地方の料理を混ぜて出す店が多くて、60年代以降、「酸辣湯」のことをその知名度から「北京風ポタージュ」と呼ぶようになったのよ」ということでした。
なるほど。ピリ辛酸っぱいポタージュ・ペキノワの特徴は、白胡椒の辛さとお酢の酸っぱさにあります。ポタージュ・ペキノワはトロッとしていて、かなり具沢山、卵でとじてあることなどがポイントですが、まさに本連載の基底にある「食べるスープ」そのもの。酸辣湯がフランスに定着する中で、食べるスープを好むフランス人好みにアレンジされていったのでしょう。
世界中の食べ物が集うここパリでは、Potage pékinoisは子供からお年寄りまで大人気のスープです。辻版Potage pékinoisは酸辣湯につきものの臭みをとり、これだけでも十分にごちそうになるよう、栄養価の高い、食べ応えのあるスープに仕上げてあります。夏場の食欲のない時にこそ、威力を発揮するパリ風・ポタージュ・ペキノワ、ぜひ、お試しください。
豚肉 | 150g(ロースなど、脂身の少ない部分または、鶏の胸肉) |
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木綿豆腐 | 250g |
たけのこ | 100g |
キクラゲ | 5、6枚 |
乾燥しいたけ | 2枚(水で戻し水気を絞る) |
卵 | 2個 |
鶏がらスープの素 | 小さじ2 |
醤油 | 大さじ3 |
米酢 | 大さじ2 |
唐辛子ペースト | 大さじ1/2 |
白こしょう | 小さじ1 |
塩 | 適宜 |
片栗粉 | 大さじ2 |
ねぎ、コリアンダー | 適宜 |
ごま油 | 適宜 |
豚肉は、分厚い1枚肉を5mmくらいの薄さにスライスしてから調理する。なければ出来合いの焼豚を使っても良い。
鍋に1Lのお湯を沸かし、沸騰したら塩小さじ1(分量外)と豚肉(または鶏肉)を入れ、20分ほどゆでる。肉を取り出し、ゆでたお湯は捨てずに取っておく。
2の肉と残りの材料を、同じサイズの細切りに切り揃える。
豚肉のゆで汁(アクなどを取り除いた透明の状態)に水を足して1Lにし、火にかけ沸騰したら具材を投入する。*焼豚を使う場合は水で良い。
4に鶏がらスープの素、醤油、酢(大さじ1のみ)、唐辛子ペースト、胡椒を加え、塩で味を調える。辛さが足りなければ胡椒を加えて調整する。
弱火で10分ほど煮込んだら、溶いた片栗粉を加えて強火にしてスープにとろみをつける。
沸騰したスープの中に溶き卵を回し入れ、残りの酢を加えたら完成。
ポタージュを器によそい、胡麻油を数滴たらし、ねぎとコリアンダーをトッピングして、召し上がれ。
文:辻 仁成 写真・協力:Miki Mauriac