東京の下町にある「根津松本」には、高級料亭が仕入れる魚以上の魚が並ぶ。今回は、日本一の魚屋と呼ばれる店の店主・松本秀樹さんに煮魚のつくり方を教わりました。このサバ味噌は、甘めの白味噌がしっかりからんで、炊きたての白飯を呼ぶおいしさですよ!
たとえば紅鮭は、一切れ1800円。東京の下町・根津にひっそりと暖簾を掲げる「根津松本」には、銀座の鮨屋や高級料亭が仕入れるような魚、いやそれ以上の品が並ぶ。築地でも目利きとして一目置かれている店主の松本秀樹さんは、選り抜いた「最高ランク」の品だけを扱い、人は彼を「日本一の魚屋」と呼ぶ。
今回、松本さんに「煮魚のつくり方」を教わったのには、理由がある。いい魚をただ売るのではなく、その味を100%以上引き出すために、通常の魚屋ではやらないような「調理前の仕事」を施しているからだ。それも「日本一」たる所以。煮魚は下ごしらえが命、と松本さんは言う。
「どんな魚でも、手をかけてあげなければ台無しです。ウロコや血を掃除する、霜降りにするなど、煮る前の手間を惜しまないこと。そうすれば、いつもの煮魚の味が変わりますよ」
魚のウロコをしっかり落として、目からもウロコを落としていただきたい。
皮目の飾り包丁は細かく入れるのが松本流。霜降りにすることで、臭みのない煮上がりに。
マサバ | 大1尾(三枚おろし・約800g) |
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水 | 300~400ml |
酒 | 300~400ml |
中ざら糖 | 大さじ2 |
醤油 | 大さじ2 |
生姜 | 4枚(薄切り) |
A | |
白粒味噌 | 200g(広島の甘口タイプ) |
味醂 | 大さじ1 |
三枚おろしにしたサバは、先に胸ビレを除き、腹骨をそぎ取って、骨抜きで小骨を抜いておく。皮目に3~4mm幅の飾り包丁を斜めに入れ、半身をそれぞれ2等分する。
鍋に熱湯を沸かし、火を止める。そこへ、サバの切り身をサッとくぐらせて霜降りにし、すぐにザルで湯をきる。青魚特有の臭みを取り除くひと手間だ。
余熱で火が通らないように、すぐ氷水に取り、キッチンペーパーで水気を拭き取る。「ここまでやったら冷蔵庫に置いておき、食べる直前に煮てもOK」と、松本さん。
鍋に水と酒を1:1の割合で合わせる(魚がひたひたになる量)。中ざら糖を加えて強火にかける。砂糖は好みのものを使ってよいが、中ざら糖ならコクのある味に。
煮汁が沸いたら、皮目を上にしてサバを入れる。「煮立つとアクが浮いてきますが、多くは臭みや雑味のもとになる血。浮いたらすぐに取り除くこと」と、松本さん。
アクを取り切ったら、醤油と生姜を加えて、煮汁をサバに回しかける。魚を入れてからここまでにかかる時間は、4~5分と見ておこう。アクは根気よく取り続けて。
鍋から煮汁をすくってAに加え、味噌の濃度をゆるめる。鍋の中で味噌を溶くと魚の身が崩れやすいだけでなく、加熱時間も長くなって風味がとんでしまうので注意!
煮汁で溶きのばしたAを鍋に入れたら、煮汁を味見!「このときに煮汁の味のバランスが好みになるよう、ピタッと決めることが大切です」と松本さんのアドバイス。
アルミホイルで落とし蓋をし、弱火で5~6分煮る。時々落とし蓋を外し、皮目に煮汁をかけて味を含ませよう。「魚を入れてから12~13分」が煮る時間の目安!
器に盛りつけ、好みで白髪ねぎを飾る。繊細な飾り包丁のおかげで、皮と身が一緒にほぐれ、こっくりした煮汁がからんで最高!
さらに旨い煮魚のために、捌き方のポイントも伝授。まず包丁の刃を立ててウロコを取ったら、肛門からエラブタにかけて浅めに包丁を入れ①、内臓を傷つけないように取り除く。そして流水に当てながら、中骨についた血や汚れを歯ブラシでかき出す②。これで雑味のないすっきりとした味になる。三枚におろしたら③、腹骨をそぎ、小骨も丁寧に取り除こう④。
1971年、北海道旭川市生まれ。両親も鮮魚店を営む。百貨店の高級鮮魚店を経て35歳で独立、「根津松本」を開業。
文:大沼聡子 写真:泉 健太
※この記事の内容はdancyu2018年1月号に掲載したものです。