青春18きっぷで上野から山形県鶴岡へ。写真家・萬田康文さんは13時間の各駅停車の旅を経て、東京から移住を果たした料理家・マツーラユタカさんに会い、滋味あふれる料理を噛みしめた。それは“縁がつむぐ円”をたどり、マンダラを描くような旅。帰京後、旅の思い出は、山形の在来野菜を使った「温海(あつみ)かぶのパスタ」に姿を変えた。
旅の反芻的なもの。
料理家で物書き、「manoma(マノマ)」店主のマツーラユタカさんが雑誌で連載されている「ソウルフードトラベラー」で、以前、僕のことを取材をしてもらったことがある。
タイトルの後の見出しにはこうある。
“母の味や郷土の味、旅先でのおいしい出会い……
懐かしい記憶から今に連なる味がある。
あの人のソウルに宿る、ひと皿の物語”。
この時、僕は南イタリアの農民料理と個人的な実家の昔の味の共通点について、お話しさせて頂いた。
その取材で「料理を1品つくってほしい」というリクエストがあったので、僕はくたくたに炊いた菜っ葉のパスタをつくった。
イタリアと実家の奈良を僕なりに繋げる料理。貧しいからこそ、目の前にあるものを工夫して美味しく調理する。
そこには国の違いなく家族(広義に)への愛情が存在する。そうした旅での気づきについて話したように思う。
この旅でマツーラさんの料理を食べていて、懐かしさを感じたものがひとつあった。
かぶの葉っぱを豚バラ肉で巻いてグリルしたものだ。
実家では冬には菜っ葉の炊いたものがよく食卓に上がった。
それは油揚げや、肉の切り落としと醤油でシンプルに味付けされたものだ。
ご飯によく合う、そのおかずとマツーラさんのかぶの葉肉巻きグリルが味蕾を通して脳内で繋がる。
「ああ、これでパスタつくったらきっと旨いだろうなあ」
料理はつくり手から食べ手へのリレーでもあると思う。
料理をする人は、誰かがつくった料理を食べて、美味しいと刺激を受けた時にいろんなアイデアが湧いてくる。
もちろん、そのまま再現するも良し、自分の引き出しを開いてアレンジするも良し。
それが料理をすることの楽しみのひとつでもあると考える。
旅から東京の自宅に戻って、昼飯でもつくろうかと台所に立つ。
取材で頂いた温海(あつみ)かぶが葉付きである。
しゃぶしゃぶの残りの豚バラ肉も冷凍庫でコールドスリープしている。
これはもうあれを実行するしかない。まだ鉄が熱いうちに。
そう、温海かぶと豚バラ肉のパスタだ。
麺は極太スパゲットーニ(2.4mm)、しっかりアルデンテでいこう。
温海かぶ | 1~2個(葉っぱ付き。他のかぶでも可) |
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豚バラ肉 | 50g(スライス) |
ニンニク | 1片(スライス) |
スパゲットーニ | 100g |
オリーブ油 | 適量 |
パルミジャーノ レッジャーノ | 適量 |
塩 | 適量 |
パプリカパウダー | 適量 |
①鍋に湯を沸かし1Lにつき10gの塩を入れる。
②かぶを1cm角に、葉も1cmの長さに切る。
③豚バラ肉はひと口大に切り、軽く塩をしておく。
④スパゲットーニをゆで始める。表示時間より2分ほど短めにタイマーを設定しておく。
⑤フライパンにオリーブ油とニンニクを入れて中火にかけ、ニンニクに色がついたら取り出す。
⑥豚バラ肉とかぶをフライパンに入れ、濃いめの焼き色が付くまでしっかりと炒める。(ここ重要)
⑦ゆで汁お玉1杯分、取り出しておいたニンニク、パプリカパウダーを加えて蓋をし、かぶがぐずぐずにになるまで蒸し煮にする。
(途中、水分が足りなくなったらゆで汁を足す)
⑧パルミジャーノ レッジャーノを下ろし入れ、乳化させる。
⑨ゆで上がったパスタをフライパンに入れ、オリーブ油、ゆで汁も適量加えて、強火でしっかりソースの旨味を吸わせる。
パスタに軽く芯が残るくらいまで火を入れ、ソースの水分がなくなったら完成。
⑩器に盛り付けて、仕上げにオリーブ油、パプリカパウダー、パルミジャーノレッジャーノをかける。
しっかりと火を通した温海かぶの甘味と旨味のおかげで、それはそれは美味しかった。
健全な野菜の力は豚バラ肉の脂にも負けないほどだ。
マツーラさんからもらったヒントは今回の旅の宝のひとつなのだ。
大げさに言うと、天竺にお経を取りに行く三蔵玄奘の旅みたいなものだったのかもしれない。
豊かに生きるための術という意味では、経も食も等しく尊いのだから。
文・写真:萬田康文