お菓子づくりの定番といえば、クッキー。隣のあの子よりもおいしく&きれいに焼きたい!そんなあなたに贈る森崎繭香さんのレシピです。目指せ、クッキーマスター!
子どもの頃、お母さんが焼いてくれたクッキー。
お姉ちゃんの隣で見よう見まねでつくったクッキー。
好きな男の子のためにこっそり焼いたクッキー(きっと家族にはバレているだろうけど)。
「初めてのおやつづくりはクッキーでした」という方、すごく多いのではないでしょうか?
手づくりのクッキーの数だけ、想い出に残る失敗もあるのでは?
「実はわりと最近、私のアトリエでもクッキーを大量に失敗したことがあって……」と頬を赤らめるのは、お菓子・料理研究家の森崎繭香さん。
お菓子づくりのプロでもクッキーづくりで失敗することがあるなんて!
そのお話、ぜひ詳しく聞かせてください。
「トラックがカバになっちゃったんです!!!」
オーダーメイドのお菓子を大量につくることもある森崎さん。クライアントからの発注は“トラック”と“バス”の型抜きクッキー。
「焼いている間にトラックの荷台の部分が丸く膨らんでしまったみたいで。その姿はまさしくカバ! 型抜き直後はちゃんとトラックだったようなのですが……(笑)」
森崎さんが不在時に勃発したという“トラック・カバ事件”。アシスタントのふたり(と言っても、この道に入って5年以上のベテラン)は「私たち、クッキーも焼けないんだ……」とものすごく落ち込んだそうです。
「そもそも、私のレシピにも問題があったんです」
アシスタントの名誉のためにも、これだけは言わせてくださいと森崎さん。
「クッキーって意外と、いえ、相当失敗することがあると思うんです。シンプルな材料構成だからこそ、配合が命。特に型抜きクッキーは“形を保ったまま焼き上げる”というミッションも付いてきます」
形が崩れてしまった最大の原因は、生地の段階でバターが溶けかけていたことにあったそうです。
「お菓子づくりでは、よく“生地がダレる”という表現をします。クッキー生地のバターが溶け出してしまうと柔らかくなって、焼いている最中に角ばった形、複雑な形、繊細な形を保てなくなってしまうんです」
クッキーのサクサク食感を生み出すには、生地の混ぜ方もカギになる。
「薄力粉に含まれる“グルテニン”と“グリアジン”というタンパク質に水と圧力が加わると、結びついてゴムのような弾力を持つ“グルテン”という成分が発生します。必要以上に生地をこねくりまわすことで、グルテンが大量に発生してカチカチのクッキーになってしまうんです」
クッキーのレシピによく“切るように混ぜる”と書いてあるのは、グルテンを出さないため?
「ズバリ、その通りです。私は“まとめて切り崩す”と表現していますが、なるべく少ない手数で力を加えず、練らないように混ぜることが大切です」
よーし、気をつけるべきポイントはふたつ。
生地の冷却時間を惜しまないことと、薄力粉を加えたら練らないということだ!
クッキーマスターの道へ、いざ行かん!
薄力粉 | 120g |
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バター | 60g(食塩不使用) |
粉砂糖 | 30g |
卵黄 | 卵1個分 |
塩 | ひとつまみ |
バニラオイル | 少々 |
バターと卵は室温に戻しておく。薄力粉はふるっておく。
ボウルにバターを入れて形がなくなるまでゴムベラで練る。粉砂糖を加えて粉っぽさがなくなるまで混ぜる。
バターを練るときの柔らかさを“ポマード状”と表現することもありますが、特に女性はポマードを見たことがある方が少ないのでは(笑)?強いていえば、ハードヘアワックスの硬さかしら?
卵黄を加え、黄色い筋が見えなくなるまで混ぜる合わせる。バニラオイルと塩を加えて混ぜる。
バターと卵はクリーム状になればOK。混ぜすぎは禁物!生地がベトベトしてきたら、バターが溶けかけている合図です。
薄力粉の半分を加えて混ぜる合わせる。粉っぽさがなくなったら、残りの薄力粉を加えて、同じように混ぜる。
薄力粉が入ってからは、混ぜるたびにグルテンが出てきます!ボウルの側面に生地を貼り付けるようにしながら、手早く混ぜ合わせましょう。
ラップを広げて、3をぴったりと包む。四角い形に整えて、冷蔵庫で1時間以上休ませる。
生地を冷やして休ませると、バターが溶けにくくなるのと、グルテンを少なくする効果もあります。せっかちな方でも焦りは禁物ですよ!
40cmほどの大きさに切ったラップを2枚用意する。冷蔵庫から取り出した生地をラップの間に生挟んで、めん棒で3mmの厚さに伸ばす。
生地は冷えて硬くなっています。上からめん棒を押し付けて生地を広げるように伸ばし始めましょう。徐々に伸ばしやすい柔らかさになってきます。
生地にラップをしたまま、再び冷蔵庫で30分以上休ませる。
ここでもしっかり冷やすことが、この後の型抜き作業をグッと楽にしてくれます。
天板にクッキングシートを敷き、焼き始めたい時間に合わせてオーブンを180度に予熱する。冷蔵庫から生地を取り出して、型で抜きながら天板に並べていく。
生地を挟んでいる上のラップをはずし、クッキー型を生地の真上から押し当てます。型に付いてくる生地が、すぐに外れるくらいがベストな状態です。焼いているときにくっつかないよう、天板にのせる生地は一定の間隔を空けましょう。
180度に予熱しておいたオーブンに生地を入れて12分ほど焼き、網などに移して粗熱が取れればでき上がり!
オーブンにはそれぞれクセがあります。焼き色が強いところ、弱いところがわかったら、途中で天板の前後左右を入れ替えると、まんべんなく焼き色がつくでしょう。
最後に、と森崎さんは付け加えます。
「砂糖の種類によって、クッキーの食感は変わってきます。粒子が細かくて、サラサラしているものほど、サクサクのクッキーに仕上がります」
なるほど!今回のクッキーで使った粉砂糖だけでなく、きび砂糖やグラニュー糖、上白糖をブレンドして、自分好みの食感や甘味を探してみるのも楽しいかもしれませんね!
1976年、横浜生まれの八王子育ち。お菓子・料理研究家/フードコーディネーター。料理教室講師、パティシエを経て、フレンチ、イタリアンの厨房で経験を積み、独立。書籍、雑誌やWEBへのレシピ提供、ラジオ・テレビ出演など幅広く活動中。身近な材料を使った自宅でもつくりやすいレシピを心がけている。2019年には、人と犬が一緒に食べられる無添加おやつとごはんのオンラインショップ「one's daily」をオープン。著書に『型がなくても作れるデコレーションケーキ』(グラフィック社)、『小麦粉なしでつくる たっぷりクリームの魅惑のおやつ』(日東書院本社)、『米粉で作る うれしい和のおやつ』(立東舎)。最新刊は『はじめてでもおいしくできる! おうちおやつ』(文化出版局)。
――つづく。
文:長嶺李砂 写真:公文美和