dancyu1992年7月号「タイの一流レストラン『ブサラカム』直伝のタイ料理。世界三大スープの一つトムヤムクンは情熱的美味。」から、氏家アマラー昭子さんが披露したトムヤムクンのつくり方を紹介します。
1992年dancyu7月号に登場したのは、タイ料理研究家の先駆け的存在である氏家昭子さん(現在は氏家アマラー昭子さん)。
氏家さんがタイ料理の魅力に目覚めたのは、1967年から2年間、バンコクに住んだことがきっかけでした。
“うわぁ辛い!でもおいしい!”と、すごくショックを受けて。自宅にいたタイ人のお手伝いさんにたくさん料理を教えてもらいましたね。日本に帰ってきてからも味が忘れられなくて、当時東京に数件しかなかったタイレストランに行ってはナムプラー(魚を発酵させてつくる醤油)を分けてもらって、自分でタイ料理をつくっていました。
当時の誌面で、氏家さんは語っています。
氏家さんは、タイの伝統的な宮廷料理の流れを汲むレストラン「ブサラカム」の女性チーフシェフのアチャン・ブンチュー(アチャンとはタイ語で先生という意味)に師事。タイの庶民的な味と宮廷料理の味を熟知したのです。
氏家さんは、タイ料理の魅力をこう説き明かします。
フリック(唐辛子)の辛さ。独特の風味をもつナムプラーの塩味。マナオ(柑橘類の一種)の酸味。そしてパームシュガーやココナッツミルクの甘味――この四つがタイ料理の味の基本なんです。タイ料理はただ辛いだけじゃない。一つの料理の中に、四つの味が複雑に混ざり合っている。何といってもそこが最大の魅力!
そして、もうひとつ。タイ料理を語るときに忘れてはならないのが、ハーブ。
タクライ(レモングラス)、カー、クラチャイ(どちらも植物の根)、バイマックルー(コブミカンの葉)が代表的なもの。逆にこれらのハーブさえあれば本格的なタイ料理がつくれるのです!と、綴られています。
辛・酸・甘・鹹の四味と、ハーブがつくり出す素晴らしい風味と香り。その醍醐味を堪能させてくれる象徴的な存在が、世界三大スープのひとつとして数えられるトムヤムクン。
フレッシュなハーブを贅沢に使った味わいはタイ料理の真骨頂です!
大正海老 | 8尾 |
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鶏ガラ | 1羽分 |
カー | 4枚 |
タクライ | 2本 |
バイマックルー | 4枚 |
ピッキヌー | 4本 |
フクロダケ | 1/2缶(缶詰) |
筍 | 5cm分 |
プチトマト | 8個 |
チリインオイル | 小さじ2 |
ナムプラー | 大さじ1と1/2 |
レモン汁 | 2個分 |
パクチー | 適量 |
鍋に900mlの湯(分量外)を沸かし、水でさっと洗った鶏ガラ1羽分を入れる。大正海老の殻を剥いてぬめりがなくなるまで水で洗い、殻だけを鍋に加える。身は後で加えるので背ワタを取り除いておく。途中でアクを取りながら中火で1時間煮込む。煮込み終わりが800mlになるように水(分量外)を足す。
カーはうす切りする。タクライは5cmの長さに切り、包丁の柄でトントンと叩き潰すと、風味や香りが出やすくなる。バイマックルーは真ん中でふたつに折り、筋を取る。
1のスープを濾して、鶏と海老の殻を取り除く。カー、タクライ、バイマックルー、ピッキヌーをスープに加え中火で熱する。ふつふつと沸いてきたら、チリインオイルを溶かすように混ぜ、縦半分に切ったフクロダケとうす切りにした筍を加え、5分ほど煮る。
スープにナムプラー、レモン汁、海老の身、プチトマトを入れてひと煮立ちさせる。器によそい、刻んだパクチーを上に乗せる。
日本におけるタイ料理研究家の第一人者。タイのバンコクに滞在した際に、“甘、辛、塩、酸”の四つの味のハーモニーとハーブの香りが生み出す立体的で、奥深いタイの味に魅せられる。その後も毎年タイに滞在し、料理教育で有名なスワンドゥシット大学にも通いタイ料理への造詣を深める。日本では手に入りにくかった調味料の輸入を始め、タイ料理教室「アマラーズ・キッチン」を主宰してタイ料理を広める。著書に『簡単なのに本格派!はじめてのタイ料理』(講談社)、『きょうのごはんはタイ料理』(NHK出版)、『だから、食べたいタイ料理』(雄鶏社)がある。
写真:佐藤直也