dancyu1993年12月号「コテコテのお好み焼き」特集に掲載された「旨いお好み焼きをつくる『生地づくり』の極意をナニワの名店でマスター」を紹介します!大阪お好み焼きの名店「きじ」店主の木地崇嚴さんに、ばんばひろふみさんがお好み焼きのつくり方を教わります。
『SACHIKO』などのヒット曲で知られる、ばんばひろふみさんは、本業の音楽活動の傍ら『京都うまいもん案内―ばんばひろふみ&平山みきのおとなの修学旅行』(浪漫新社)を上梓したり、当時関西で放送されていた「名店味ぬすみ」という番組の司会でもおなじみで、食との関わりが深いことで知られていました。
生家は祇園の真ん中で料亭とお茶屋を営んでおり、ばんばさんは幼い頃から美味しいものを食べて育った筋金入りの”京都のボン”だと、当時の誌面では紹介され、子ども時代のお好み焼きにまつわるエピソードを披露しています。
小さい頃にね、近所のほんとに小さい店へ芸妓さんによく連れてってもらった。祇園のお好み焼きは、小さいんです。お好み焼きに限らず何でもそうやけど、舞妓はんや芸妓さんのおちょぼ口でも食べられるサイズにしてあるんです。祇園サイズとでも言いますか。味もどぎつうない、今でいうねぎ焼。ソース味やったと思うけど、細かいところより何か艶っぽい食べ物だったという印象が強いんです。
ばんばさんがつくるお好み焼きはもっぱらの関西派。
うどんや焼きそばなどを入れたモダン焼きを「あんなごっつうて、デリカシーのないものはダメ」と一刀両断。関西伝統のシンプルなものがお好きなようです。
大阪は梅田にあるお好み焼きの名店「きじ」のご主人木地崇嚴さんもうなずきこう語りました。
ケレン味の多い豪華な具で売るのはあきません。古典的な、シンプルなんが一番です。お好み焼きは豚肉、イカ、海老、牛肉。お好み焼きの中でも豚玉は別格。
生地づくりに尽きるというお好み焼きの極意。木地さんはさまざまな方法を試してみたと言います。小麦粉を練るスープは、中華スープ、ブイヨン、鶏のガラスープ、と試しましたがどれもうまくいかず。たどり着いたのが、だし汁、山芋、塩、旨味調味料を少々加えた生地でした。木地さんはこうひと言。
やっぱりシンプルなものだけに、工夫にも限界があるでしょう。味を加えていくだけではいかんのです。今にたどり着くまで、ずいぶん遠回りしました。
「きじ」の味を支えている生地のつくり方から焼き方まで、お好み焼きの極意を教えていただきました。
昆布を水に浸して、ひと晩ふやかしておく。鍋で強火にかけ、沸騰したらかつお粉をひとつまみ加え、汁が色づくまで煮出す。煮出し終えただし汁は、鍋ごと氷水につけて冷ましてから漉す。
薄力粉はボウルの中で泡立て器を使って混ぜ、ダマになっている部分を崩しておく。ふるいにかけてはいけない。繊細にしすぎず、少し手間をかけるぐらいに留めておくのがポイント。
2に1を加えて練り、山芋のすりおろしたものを加えて混ぜる。薄力粉とだし汁の割合は1対1が目安。また薄力粉200gに対して山芋は大さじ1程度がよい。山芋を加えるととろみ加減が少し重くなる。
塩と旨味調味料を少々加えて混ぜ、冷凍庫でねかしておく。しばらくするとグルテンが発生し、粘りが出てきたら生地としてでき上がりだ。
お好み焼きの生地とキャベツ、ねぎ、紅生姜、天かす、玉子をボウルに入れ、ざっくりと混ぜ合わせる。
強火で熱しておいた鉄板の上に広げる。生地の厚さは2~2.5cmくらいが火の通りが良いという。その上に大葉と豚肉をのせていく。火加減に注意しながら、鉄板とお好み焼きの間に度々コテを差し入れ、はがしていく。
コテはふたつ使ってひっくり返す。片方のコテで返しながらもうひとつのコテで受け、挟むようにすると形が崩れない。
味にアクセントをつけるため、お好みで溶き辛子とマヨネーズもつけて、ソースを塗る。青のりを振りかけてでき上がり。
焼き上がったお好み焼きをパクリと食べたばんばさんは「焦げた豚肉の香ばしさが豚玉の魅力ですね。ちょっと甘くて、丸みのあるソースの味が後を引くのがいい。」と満足げに語られていました。
「きじ」本店は1993年に三代目の大将に引き継がれ、その後、2店舗目となる梅田スカイビル店をオープン。令和の時代も変わることなく、大阪お好み焼きのスピリットを広め続けています。
大阪の梅田にあるお好み焼き屋「きじ」の二代目店主。実家が営んでいたスタンドバーの手伝いでお好み焼きを始め、お好み焼き屋に転身した。現在は梅田スカイビル店を仕切っている。
写真:大岩衛