
dancyu1991年12月号「華麗なるシチュー」から、レストラン「キハチ」シェフの熊谷喜八さん直伝クリームシチューに漫画家でイラストレーターのわたせせいぞうさんが挑戦する様子を紹介します。

1946年、東京生まれ。映画「翼よ!あれがパリの灯だ」で映し出されるパリの街並みに憧れ、料理人を目指す。銀座「東急ホテル」を皮切りに、セネガル、モロッコ日本大使館料理長を務めた後、渡仏。パリ市内のレストランで研鑽を積み、当時ジョエル・ロブション氏が率いていた「ホテル・コンコルド・ラファイエット」でセクションシェフを務める。帰国後、葉山「ラ・マーレ・ド・茶屋」総料理長などを経て、1987年に「KIHACHI」を北青山にオープン。
著書に、『KIHACHI 四季のレシピ集』春夏秋冬編 全4巻(NHK出版)、『キハチのさかな』(ポプラ社)など。現在はレストランとともに、カフェとパティスリーを含めた21店舗を経営している。
dancyu1991年12月号には、漫画『ハートカクテル』(講談社)やTUBEのアルバムジャケットのイラストなどで知られる、漫画家でイラストレーターのわたせせいぞうさんが登場しました。
わたせさんと「キハチ」シェフの熊谷喜八さんは共同で、わたせせいぞう作品の世界をシチューで具現化すべく「ハート・クリームシチュー」のレシピをプロデュース。記事はわたせさんが脚本された男女のストーリーから始まります。
男29歳、女25歳。3年越しの恋。ほんの些細な言葉の行き違い……。喧嘩別れ。
連絡もないままに、2ヶ月が過ぎた。ある午後突然、彼女からの電話。
「遅い昼食でもどうかしら」
途中、リカーショップに寄り、ワインを手に彼女の家へ。
テーブルには野菜がたっぷり入った、手作りのホワイトクリームシチューが湯気を立てていた。少しすました笑顔も揺れていた。男はその一皿に母の味を見つける。
「僕たち結婚しないか」
若い男女の決心が家庭料理の象徴であるクリームシチューを通して繊細に描かれました。
わたせさんは自身のクリームシチューへの印象を「ホワイトクリームシチューは女性を彷彿とさせる」と語っています。

20代前半にはずいぶんと凝った料理をつくっていたというわたせさん。食べることへの関心は高く、おいしいと評判の食材は地方からも取り寄せていたそうです。
シチューのイメージを求められ、リクエストしたのは「彩の美しい野菜がコロコロとたくさん入っていて、何か冬らしい季節の素材と、大好きなパスタが加わったような、そんなシチュー」。
| 鶏ガラ | 2羽分 |
|---|---|
| セロリ(茎) | 1/2本分 |
| 玉ねぎ | 1/3個 |
| にんじん | 1本 |
| 黒胡椒 | 20粒 |
| パセリ(茎) | 2本 |
| ローリエ | 1枚 |
| タイム | 少々 |

鶏ガラは流水にさらして臭みを抜く。ブロイラーの場合は脂っぽいので一度ゆでこぼしてから水洗いすると良い。臭みが伴う内臓や筋など、ガラの汚れを除く。背骨の裏側にある血の塊も、濁りの原因になるので取り去る。

鍋に鶏ガラと水2.5ℓ(分量外)を加えて強火にかけ、沸騰したら弱火にする。浮いてきたアクや汚れなどを綺麗にすくう。

粗く刻んだセロリ、玉ねぎ、にんじんと香辛料を一度に入れる。アクを取りながら70分煮出す。2.5ℓの煮汁が2ℓに煮詰まれば、ブイヨンのでき上がり。

| バター | 40g |
|---|---|
| 薄力粉 | 40g |
| 牛乳 | 400ml |
鍋を弱火にかけ、バターを溶かし薄力粉を加える。粉気がなくなり、滑らかなペースト状になるまで木べらで炒める。

1がぷつぷつと泡立ってきたら、牛乳をレードル一杯分ずつ加えて、その都度、ペースト状になるまで練り上げる。

牛乳をすべて加えたら、木べらにつかなくなるまで弱火で煮る。でき上がったら、余熱を避けてボウルに移す。

| にんじん | 1本 |
|---|---|
| じゃがいも | 3個 |
| ペコロス | 15個 |
| ブロッコリー | 1株 |
| マッシュルーム | 15個 |
| 鶏ひき肉 | 500g |
| マカロニ | 100g |
| 芽キャベツ | 15個 |
| にんにく | 1片 |
| 卵 | 1個 |
| 塩 | 適量 |
| 白胡椒 | 適量 |
| バター | 適量 |
| 生クリーム | 適量 |
| ブイヨン | 2ℓ |
| ベシャメルソース | 500g |
にんじんの皮を剥き4cm長さに切り揃え、同じ大きさになるように太さに応じて4つ割りから2つ割りする。煮崩れないように面取りをして、中央がふっくらと丸いシャトー型に切り整える。皮を剥いたじゃがいもを4cmの長さに切り、にんじん同様に面取りをする。



ペコロスは皮を剥きやすくするためにぬるま湯に漬けて、根のほうから包丁で皮を剥く。ブロッコリーは小房にわけ、軸の突起をナイフで取り除く。マッシュルームは軸を取り水洗いする。



鶏ひき肉は塩と白胡椒をふり、卵を加えて両手で練り合わせる。肉に粘り気が出るまで、ぐるぐると思い切りよくかき混ぜる。ブイヨンを1/2カップ加える。こうすると煮込んでも鶏肉がばさばさにならない。ブイヨンと鶏肉が混ざり合うまでよく混ぜる。

沸騰した湯でマカロニを8分ゆでる。同じ湯で芽キャベツとブロッコリーを2分ほどゆでる。緑色の野菜は、色が鮮やかになるので氷水に取る。


中火にかけた鍋にバターを溶かし、包丁の腹で潰したにんにくを加える。香りが出てきたら、にんじんとペコロスを加える。野菜から水分が出てきたら、マッシュルームも炒め合わせる。水分がなくなったらブイヨンをすべて注ぎ入れる。

鍋が煮立ったら、じゃがいもを加え、20分ほど弱火で煮込む。最後に塩、胡椒で味付けをする。

3を手でつかみ、親指と人差し指でつくった円から押し出しながら、煮汁で湿らせたスプーンですくい取って鍋へ加える。ミートボールの表面がしっかりと煮固まったら、芽キャベツとマカロニを静かに加える。


ベシャメルソースにシチューの煮汁をレードル一杯分加えて泡立て器で溶きのばす。泡立て器だとダマになりにくい。目の細かい漉し器に通しながら、鍋にゆるめたソースを加える。漉し器に残ったソースはゴムべらで漉し落とす。鍋を揺すってソースを全体に溶かし込む。

ブロッコリーを鍋に加え、最後に生クリームを注いで、ひと煮立ちしたらでき上がり!

ついに完成!待ちに待った味見である。不安な面持ちだったわたせさんが、にっこりと微笑む。会心の出来だ。

完成したクリームシチューに興奮を隠せないわたせさん。味の感想とともにこう締めくくっています。
出来上がって、取りあえず一口味見をしたときのおいしさ。はからずも感動してしまった。母のシチューの味とは違うけれど、熊谷さんの人柄通りのあたたかい味だった。
もう少し年を取ったら、じっくり料理をつくってみようと思う。そのとき僕のシチューも熊谷さんと同じように「あたたかい味」がするのだろうか。
写真:佐藤直也