dancyu1991年6月号「『カツ丼』のバカ旨」特集に掲載された「三遊亭金馬師匠が初公開。肉を叩きに叩き、薄く延ばしてカリッと揚げる“ペチャかつ丼”」を紹介します!
四代目三遊亭金馬師匠が1991年の誌面で披露したのは、“ペチャかつ丼”。肉が大きく見えるように、薄く伸ばして揚げたかつ丼です。金馬師匠は若い頃、とんかつと言えば、衣を食べるものと思っていたほど肉が薄かったそうです。
タレの甘しょっぱさと、卵のまろやかな味わいがおつまみにもぴったりで、「ペチャかつの卵とじで酒を飲むことも多い」と語っています。
早稲田大学の興津要先生が言い出しっぺで“ペチャかつの会”なんて会があるんだけれど、もう5年くらい続いているかしら。小さん、円歌、私、つばめ、志ん馬、内海桂子・好美、小沢昭一などが、年に3回くらい集まっては、“ソースはとんかつソースじゃなくて、やっぱりウスター。それも有名メーカーのものじゃなくて、一升瓶に入ったのがいい”なんて言いながら、ペチャかつを食うんです。子供の頃の哀愁なんでしょうな。
実家が食堂の金馬師匠は、料理好き。
家では、能書きがうるさいと嫌がられてしまうそうなので、コック長の女将さんがいないところを見計らっては、ちょこちょこと料理をしていると綴られています。
たとえば“明太ソーメン”。“たらこスパゲティー”のそーめん版なんだけれど、スパゲッティよりはゆでる時間が短いし、口にやさしくて、これがイケるんだよね。それから“冷や麦の煮込み”。皆、冷や麦は冷やして食わなきゃいけないと思っているから大間違い。煮込みもうまい。
ペチャかつを家でも食べたいがために、金馬師匠が編み出したレシピを、自宅の台所で披露します。
材料表には、食材の名前しか書かれておりませんでしたが、それもまたご愛嬌!
短い時間で、お手軽につくれるアイディアがたくさん盛り込まれています。
豚肩ロース | |
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玉ねぎ | |
卵 | |
グリンピース | |
三つ葉 | |
海苔 | |
パン粉 | |
小麦粉 | |
塩 | |
胡椒 | |
ガーリックパウダー | |
サラダ油 | |
めんつゆ | (ストレートタイプ) |
味醂 | |
きざみ海苔 | |
(1991年の記事には食材表記だけで分量の記載はありませんでした) |
肉の筋を切ってからたたき、2mmほどの薄さにしたら、表面に塩、胡椒、ガーリックパウダーをする。
肉の両面に小麦粉をつけ、余分な粉をはたき落とし、溶き卵にくぐらせる(A)。衣を厚くするために、(A)をもう一度。その後に、パン粉をまぶす。
約180度に熱したサラダ油に1を入れる。沸き立つ泡が小さくなって、衣の表面に揚げ色がついたら、裏返して1分ほど待ち、油から引き上げる。かつを1.5cm幅に切る。
平鍋にめんつゆと味醂を入れ、スライスした玉ねぎを中火で煮る。ひと煮立ちしたら玉ねぎの上にかつを乗せて、約1分煮る。
グリンピースを加えたら、溶き卵を鍋全体に流し込む。卵が半熟になったら、1/3の大きさに切った三つ葉を散らし、蓋をして火を消す。
丼ぶりに盛ったごはんの上に、大きめのヘラでかつをすくって乗せたら、きざみ海苔を中央にこんもりと!
ただ、かつを食うだけじゃ面白くない。いろいろ楽しまなくっちゃね。
1929年、東京都生まれ。幼少期に柳家金語楼のレコードを聴いたことで落語に興味を持つ。小学校を卒業後、なんと12歳で三代目三遊亭金馬に師事。山遊亭金時として初高座。二つ目昇進を機に、三遊亭小金歯に改名する。1953年に真打昇進。1967年、四代目・三遊亭小金馬を襲名する。趣味はプラモデル製作。1959年にはフジテレビで放送されたプラモデルを紹介するテレビ番組『陸と海と空』で司会を担当した。著書に『金馬にいななき』(朝日新聞社)、『落語東京名所図絵』(講談社)、『金馬のお惣菜噺』(文化出版)など。落語協会常任理事、日本演芸家連合会長を経て、現在は落語協会の顧問を務める。
写真:佐藤直也