「リリエンベルグ」の横溝春雄シェフに教わる4個目の焼き菓子は、“フィナンシェ”。発酵バターとアーモンドがふわりと香り、焼き上がりの生地が美しい流線形に仕上がるレシピです。外側はカリッ、内側がしっとりとした食感をぜひ味わってください。
“フィナンシェ”は、パリの金融街で生まれたお菓子と言われています。“ヴィジタンディーヌ”というフランスはアルザス=ロレーヌ地方の丸い形の郷土菓子を、忙しいパリの金融家が食べやすいようにと、縦長の型で焼いたのが始まりなのだそうです。
色や形が金の延べ棒に似ていたことから、フランス語で「金持ち」や「財界人」を意味するフィナンシェという名前がつけられたんですね。
フィナンシェの生地に使う卵は卵白だけなので、ピチッと外側が締まって中がもっちりした食感に仕上がります。
バターは熱して、中に含まれるタンパク質を焦がしてから混ぜ込みます。フランスではブールノワゼット(茶色いバター)と呼ばれるほどしっかりと焦がすので、香ばしいフィナンシェが多いですね。リリエンベルグでは、中火でバターに軽く色がつく程度にしか熱しないので、発酵バターの優しい甘さとふくよかな香りが残る生地に焼き上がります。
焼きたてのフィナンシェは食感や香りが魅力的ですが、時間をおいて全体がしっとりとした生地は、柔らかな食感となって違った味わいを愉しめます。
・ 発酵バター | 192g |
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・ 卵白 | 240g |
・ 薄力粉 | 72g |
・ グラニュー糖 | 192g |
・ 皮なしアーモンドプードル | 96g |
・ バニラオイル | 少々 |
薄力粉、グラニュー糖、アーモンドプードルを合わせてふるいにかける。焦がしバターを鍋ごと冷ますための水が入った大きめのボウルと、卵白を湯煎するための約50度の湯を入れた鍋を用意する。
鍋にバターを入れ、中火にかける。溶けて泡が出てきたら、焦げないようにホイッパーで混ぜる。バターが茶色く色付いてきたら、鍋ごと水につけて冷ます。
卵白を湯煎しながら、コシがなくなるまでホイッパーで溶きほぐす。卵白の温度は32度~35度になるように湯煎で調整する。
卵白の温度が低いと、生地を焼いたときに真ん中がぽこんと盛り上がった形になってしまいます。
卵白のボウルにふるいにかけて合わせた薄力粉、グラニュー糖、アーモンドプードルを加えて、とろみがつくまでホイッパーで混ぜ合わせる。
焦がしバターを濾し器で漉しながら3に少しずつ加える。焦がしバターが熱く、生地にダマができやすいので、バターを加えている間は絶えずホイッパーで混ぜ合わせる。
このときの生地の温度は、27度~30度がベストです。冷めていたら、湯煎で温めても大丈夫です。
口金をはめた絞り袋に口元を指でつまみながら生地を移す。型に生地を絞るときは、型いっぱいにではなく、8割程度にとどめる。180度に予熱したオーブンに生地を絞った型を入れ、15分焼いたら、200度に温度を上げて12分焼く。
生地を絞るときは、絞り袋の口元をつまんだ指で、出す量を調節します。
オーブンから型を取り出したら、温かいうちに型から外す。生地の膨張を抑えるために15cmほどの高さから型ごと落として衝撃を与える。ぜひ、焼きたてを食べてみてください!
ウィーン菓子屋のシンボルでもある「デメル」で、日本人としてはじめて働いた経歴を持つ。帰国後は「中村屋 グロリエッテ」でシェフとして研鑽を積み、1988年に独立。蕎麦好きのあまり、蕎麦打ち教室に通っていたことも。
文:河野大治朗 写真:吉澤健太