「リリエンベルグ」の焼き菓子
23年変わらない味「リリエンベルグのスイートポテト」

23年変わらない味「リリエンベルグのスイートポテト」

「リリエンベルグの焼き菓子」シリーズ番外編。1996年dancyu3月号「スイートポテトの玉の輿」で「リリエンベルグ」の横溝春雄シェフが披露したスイートポテトのレシピを紹介します。

焼きいものおいしさをそのまま封じ込める。

スイートポテトは、甘く香ばしい焼きいもの魅力をそのままに、上品で優雅な味わいに仕上げる日本生まれの洋菓子です。

「リリエンベルグ」の横溝春雄シェフがつくるスイートポテトは、舌先で心地よくとろけ、口いっぱいにさつまいもの滋味が広がり、まさに“衝撃”だと誌面には綴られています。

スイートポテトに欠かせないさつまいも。横溝シェフは、石川県産の“五郎島金時”を使います。

焼きいもにした状態でふっくら、ほっこりしておいしい。時季を通して品質が安定しているのも菓子づくりには魅力です。

横溝春雄シェフ
当時47歳の横溝春雄シェフ。現在も当時と変わらないレシピでスイートポテトをつくり続けている。

さつまいもの風味を引き立てるために、いも自身の持ち味と決して喧嘩しないよう最小限の材料だけしか加えません。香りを大切にしたいので、うちではリキュールもバニラも入れないんです。

素材の香りや季節感を大切にした菓子づくりを心がけている「リリエンベルグ」では、スイートポテトの販売期間は9月~11月。いますぐに味わいたいならば、自分でつくるしかありません。特別な材料や器具、難しい技術は必要としないので、ぜひお試しください。

五郎島金時
石川県にある五郎島は、水と太陽と土壌の理想的な条件が揃っているので、おいしいさつまいもが育つと言われている。旬は9月~翌年5月頃まで。

材料材料 (4~6人分)

・ さつまいも3本
・ 無塩バター50g
・ グラニュー糖100g
・ 生クリーム50ml
・ シナモン1g
・ 卵黄2個
・ 牛乳適宜
・ ハチミツ適宜

下準備

無塩バターは、室温に戻しておく。

1 いもを焼く

さつまいもを洗い、水分を拭かずにアルミホイルを敷いた天板に並べ、霧吹きをする。アルミホイルの四辺を折って、さつまいもを包む。190度に予熱したオーブンに入れ、1時間じっくりと焼く。

いもを焼く
霧吹きをすることで、さつまいもの水分が逃げずにしっとりと焼き上がる。
いもを焼く
さつまいもの糖度はゆっくりと加熱することでいっそう高まる。熱が対流するように、アルミホイルの縁をしっかり折り込む。

2 いもをくりぬく

さつまいもに串を刺して、中心まで柔らかくなっていれば、オーブンから取り出して、縦半分に切る。中身をスプーンでくりぬく。皮は後ほど使うので、破らないように注意する。

いもをくりぬく
じっくりと焼かれたさつまいもは、そのままでも十分おいしい。
いもをくりぬく
焼きいもとしておいしいことが、成功への必要条件。

3 裏漉しする

目の細かい濾し器で2を裏漉しする。冷めてしまうと固くなって裏漉ししにくくなるのので、熱いうちにできるだけ手早く。

裏漉しする
濾し器の網目を正面から見て菱形になるように置けば、余計な力を入れずに漉せる。
裏漉しする
手間はかかるけれど、裏漉しは必須。でき上がりの生地が繊細な口溶けになる。

4 生地をつくる

裏漉ししたさつまいもに予熱が残っているうちに、ボウルの中で無塩バターとグラニュー糖と混ぜる。なめらかなペースト状になったら卵黄1.5個分、生クリーム、シナモンを入れ、混ぜ合わせる。牛乳を少しずつ足して、絞り袋で絞りやすい硬さに調節する。

生地をつくる
卵黄を加えることで、生地がより美しい黄色となる。
生地をつくる
「牛乳を多めに入れて、デレッとするぐらい柔らかいのもおいしいんです」と横溝シェフは語る。

5 生地を絞り出す

10mm径の菊形口金をはめた絞り袋に4を入れ、くりぬいた皮の中へ生地を絞り出す。縁までたっぷり絞り込んだら、パレットナイフで平らにならす。さらに、上から下へ螺旋状に飾り付けの生地を絞り出す。生地が固まるまで、冷蔵庫で冷やす。

生地を絞り出す
楽しくも器用さが求められる作業。中心から外へ楕円を描くように一気に絞り出す。
生地を絞り出す
横溝シェフ曰く「いもの表面に対して45度の角度に口金を当て、息を止めて一気に絞るとうまくいきます」。

6 卵液を塗る

アルミホイルを2枚重ねた上に5を置いて、霧吹きをする。船形にアルミホイルを折り曲げて、皮の部分を覆う。表面に焼き色をつけるため、残りの卵黄に小さじ1/2の水(分量外)を加えてゆるめ、刷毛で塗る。

卵液を塗る
さつまいもが安定しなければ、ナイフで底を少し削って平らにする。
卵液を塗る
冷蔵庫で冷やし固めておくことで、卵液を塗ったときに絞り目が崩れない。

7 オーブンで焼く。

180度に予熱したオーブンで、綺麗な焼き色がつくまで20分~25分焼く。艶出しのためにハチミツを塗ったらでき上がり。

焼き上げる
ハチミツは少し温めて塗ると、塗りやすくなる。

菓子づくりの魅力のひとつは、つくりたてにしかない香りと食感を愉しめることです。難しいことは何もありません。大らかにつくってみましょう。

焼き上げる
皮ごと食べてOK。粗熱が取れて生地がしっとりしたぐらいが食べ頃。

教える人

横溝 春雄

横溝 春雄

ウィーン菓子屋のシンボルでもある「デメル」で、日本人としてはじめて働いた経歴を持つ。帰国後は「中村屋 グロリエッテ」でシェフとして研鑽を積み、1988年に独立。蕎麦好きのあまり、蕎麦打ち教室に通っていたことも。

「リリエンベルグの焼き菓子」は、今回で最終回。
シュトーレン、マドレーヌ、ポルボローネ、フィナンシェ、フロランタン、そしてスイートポテトと、6品すべてが時間をかけてもつくってみる価値のある焼き菓子です。ぜひ、手づくり、つくりたてを味わってみてください。

店舗情報店舗情報

ウィーン菓子工房 リリエンベルグ
  • 【住所】神奈川県川崎市麻生区上麻生 4-18-17
  • 【電話番号】044-966-7511
  • 【営業時間】10:00~18:00
  • 【定休日】火曜日 第1、第3、第5月曜日
  • 【アクセス】小田急線「新百合ヶ丘駅」より15分

写真:石井雄司