dancyuタイムカプセル
立川談四楼師匠のヘトヘトカレー

立川談四楼師匠のヘトヘトカレー

dancyu1991年2月号「俺のカレー、私のカレー」特集に掲載された「なんと玉ねぎ30個!刻んで、炒めて、煮込みます。涙、涙の『ヘトヘトカレー』に挑戦」を紹介します!

談四楼とかけて玉ねぎととく。

この企画では、カレーを愛してやまない立川談四楼さんが、4人前のカレーをつくるために、30個もの玉ねぎを使うという常軌を逸したレシピを紹介します。調理に手間がかかって、とにかく疲れることから名前は「ヘトヘトカレー」。玉ねぎを刻むだけで爪は真っ黒、目はショボショボ、肩はカチカチになるそうです。

本文は談四楼さんの噺を聴いているかのような、こんな語りから始まります。

「カレーライス」か「ライスカレー」かは、よく論議のなされるところ。カレーとライスが別々に供されるものをカレーライス、ライスの上にカレーがかけまわしてあるものをライスカレー。

若い!当時、談四楼さんは39歳。現在の談四楼さんとは、いろんな意味で(髪型とか)、別人。
若い!当時、談四楼さんは39歳。現在の談四楼さんとは、いろんな意味で(髪型とか)、別人。
小説『シャレのち曇り』を上梓したばかりで、「落語も出来る小説家」として紹介されている。
小説『シャレのち曇り』を上梓したばかりで、「落語も出来る小説家」として紹介されている。

談四楼さんお気に入りのカレーは立川談志師匠がご馳走してくれたインディアンカレー。さらには10日間でカレーを食べること20回、二の腕には「カレーライス命」と彫りものをしたいほどのカレー好きで、好みは大辛と公言しています。

10歳年上の従兄が作るカレーは、親類中の名物であった。肉を使わず、カツオやマグロのフレークが入っているのが特徴的で、名物というのは、大量に作り親類を呼んで食べさせるのはいいが辛くて誰も食べられないという意味の名物で、私はそれに敢然と挑戦、小学校高学年時に2杯平らげ、大いに従兄から賞賛を受けたのである。で、今、従兄も私も親類中で2人だけハゲている......

そのこころはどちらも人を泣かせます。

立川談四楼のヘトヘトカレー

材料費は牛肉よりも玉ねぎ30個分のほうが高くつく?
材料費は牛肉よりも玉ねぎ30個分のほうが高くつく?
談四楼さん好みの大辛は、ソフトな甘味とコクを感じ、その途端にドカーンとくる。
談四楼さん好みの大辛は、ソフトな甘味とコクを感じ、その途端にドカーンとくる。

材料 材料 (4人分)

玉ねぎ 30個
牛肉 300g
カレールウ 適宜(市販/辛口)
にんにく 適宜
鷹の爪 適宜
カイエンペッパー 適宜
顆粒ブイヨン 適宜
ヘット 適宜
旨味調味料 適宜
適宜
胡椒 適宜

1 玉ねぎ30個の皮むきとみじん切り

たかが玉ねぎの皮むきといえども30個はつらい。指の先も爪も茶色に染まっていく。みじん切りからあら切りまで自在に。トントントンと順調に、リズムに乗って刻めば心もはずむ?全部刻み終えるまでに、約30分。

15分経過後の談四楼さん。ここまでで15個を刻んだ。まだ半分残っていると思うか?もう半分で終わると思うか?
15分経過後の談四楼さん。ここまでで15個を刻んだ。まだ半分残っていると思うか?もう半分で終わると思うか?
目はショボショボ、肩はカチカチになりながら、30個を刻み終える。前座修業のつらさに比べたら、なんのこれしき苦労のうちには入らない。
目はショボショボ、肩はカチカチになりながら、30個を刻み終える。前座修業のつらさに比べたら、なんのこれしき苦労のうちには入らない。

2 30個分の玉ねぎを炒める

十分に熱したフライパンにヘットを入れる。ヘットとは牛の脂のこと。刻んだ玉ねぎを中火でトロトロと狐色になるまで炒める。ヘットと玉ねぎの香りが食欲をそそるが、難行苦行はここからが本番。

談四楼さん曰く「ビーフカレーのときは、やはりヘットを使いたいものです」。
談四楼さん曰く「ビーフカレーのときは、やはりヘットを使いたいものです」。
見よ!フライパンからこぼんればかりの玉ねぎを。しかし、30個分を炒めるのは至難の業。
見よ!フライパンからこぼんればかりの玉ねぎを。しかし、30個分を炒めるのは至難の業。
どんなに手が疲れても、急ぎの用事があろうともここで手を抜いてはいけない。
どんなに手が疲れても、急ぎの用事があろうともここで手を抜いてはいけない。

3 じっくりと煮詰める

寸胴鍋に少量の水を沸騰させ、顆粒ブイヨンを溶かす。30個分の玉ねぎから、大量の水分が出るため、水は少なめでオッケー。スープの中へ市販のカレールウを投入。いよいよカレーの香りが部屋中に......。きれいに炒め上がった玉ねぎを寸銅鍋の中へ。さっきまでの苦労が脳裏をよぎる。カレールウと玉ねぎを合わせ、じっくり気長に弱火で煮込む。こがさないように、常にかき混ぜながら、玉ねぎが溶けるまで煮詰めていく。

カレールウのメーカーは問わない。とにかくいちばん辛口のものを使うようにと、談四楼さんは主張する。
カレールウのメーカーは問わない。とにかくいちばん辛口のものを使うようにと、談四楼さんは主張する。
プロのコック直伝というかき混ぜ方を披露する談四楼さん。手前から向こう側へ、そして左回り。また手前から向こう側へ、次は右回りで、常に垂直にして。
プロのコック直伝というかき混ぜ方を披露する談四楼さん。手前から向こう側へ、そして左回り。また手前から向こう側へ、次は右回りで、常に垂直にして。

4 味を仕上げて、ねかせる。

にんにく4~5片をすりおろし、カレールウに加える。「ドラキュラ以外の人は必ず入れるように」。味に深みが増し、美味しくなること請け合い。
鷹の爪を刻み、これもまたカレールウの中へ。大辛、中辛、小辛と好みに合わせて量を調整する。5~6本入れれば大辛になるはず。カイエンペッパー、旨味調味料、塩、胡椒で味をととのえる。この状態で一晩ねかせる。

カイエンペッパーは玉ねぎの甘味に対抗するために多めが談四楼流。
カイエンペッパーは玉ねぎの甘味に対抗するために多めが談四楼流。
玉ねぎ30個との格闘もこれにて終了。しかし、ここで早まって食してはいけない。じっと待つことが、旨いカレーをつくるコツ。
玉ねぎ30個との格闘もこれにて終了。しかし、ここで早まって食してはいけない。じっと待つことが、旨いカレーをつくるコツ。

5 具材を加えて、煮込む。

牛肉を角切りにする。熱したフライパンにヘットを入れ、その脂で肉を炒める。強火で肉の両面をサッと炒め、軽く塩、胡椒する。炒め過ぎは禁物。
炒め上がった牛肉を一晩ねかせたカレールウに合わせる。よく混ぜたのち、さらに煮込んでいく。「カレーの命は煮込みにある」。炊きたてのごはんにかけて食べよう!

カレーに入れる牛肉の種類は、好みと予算の都合で決めよう。
カレーに入れる牛肉の種類は、好みと予算の都合で決めよう。
ただし、唯一の具ゆえに、なるべく良い肉を使いたいと、談四楼さんは説く。
ただし、唯一の具ゆえに、なるべく良い肉を使いたいと、談四楼さんは説く。
一晩ねかせたことで、玉ねぎのくどい甘味が消えて、驚くほどマイルドな味になっている。
一晩ねかせたことで、玉ねぎのくどい甘味が消えて、驚くほどマイルドな味になっている。

玉ねぎを切り終えたあたりから、だんだん笑顔が消えていった談四楼さん......
「大辛を食べれば、成しとげた満足感と辛さによるシビレで頭がボーッとしてくる」と綴っています。

おまけで、材料を混ぜるだけで簡単に完成するカレー風味ドレッシングのレシピも披露する談四楼さん。使うのは、玉ねぎではなく、にんじん。

特製カレー風味ドレッシング

材料 材料 (4人分)

カレーパウダー 大さじ4
顆粒ブイヨン 大さじ1
サラダオイル 150ml
適宜
適宜
胡椒 適宜
にんにく 適宜
にんじん 適宜
サラダオイルに酢、すりおろしたにんにく、顆粒ブイヨン、カレーパウダーを入れ、塩、胡椒で味をととのえる。
サラダオイルに酢、すりおろしたにんにく、顆粒ブイヨン、カレーパウダーを入れ、塩、胡椒で味をととのえる。
簡単につくれて、どんな野菜とも相性抜群のドレッシング。よくかき混ぜれば、でき上がり。
簡単につくれて、どんな野菜とも相性抜群のドレッシング。よくかき混ぜれば、でき上がり。
カレードレッシングに、1mm程度のはす切りにしたにんじんを漬け込み一晩おく。酒の肴にもなるオツな味である。
カレードレッシングに、1mm程度のはす切りにしたにんじんを漬け込み一晩おく。酒の肴にもなるオツな味である。

教える人

立川談四楼

立川 談四楼

1951年、群馬県生まれ。高校卒業と同時に立川談志師匠に師事。1983年に立川流落語会第一期真打となる。以来、東京・下北沢の北澤八幡神社で行われる「立川談四楼独演会」など、独演会を積極的に展開する。昇進試験を題材にした小説『屈折十三年』で文壇デビューを果たし、『シャレのち曇り』『一回こっくり』『談志が死んだ』など著書は30を超え、小説やエッセイを発表し続けている。

鷹の爪を入れる前に取り分ければ、子供用になる。中辛に仕上げる場合はチキン、小辛はポークがお薦め。
鷹の爪を入れる前に取り分ければ、子供用になる。中辛に仕上げる場合はチキン、小辛はポークがお薦め。
「味は保証しますが、調理の厄介なことも保証します。まずはおあとがよろしいようで。」
「味は保証しますが、調理の厄介なことも保証します。まずはおあとがよろしいようで。」

しばらくの間この厄介なカレーを作ることはあるまいなと思いつつ、寝てしまえばいいのである。実際、これがよく眠れるのだ。で、翌朝になったら、冷たくなってたりして......

写真:大井一範