dancyu1991年2月号「俺のカレー、私のカレー」特集に掲載された「なんと玉ねぎ30個!刻んで、炒めて、煮込みます。涙、涙の『ヘトヘトカレー』に挑戦」を紹介します!
この企画では、カレーを愛してやまない立川談四楼さんが、4人前のカレーをつくるために、30個もの玉ねぎを使うという常軌を逸したレシピを紹介します。調理に手間がかかって、とにかく疲れることから名前は「ヘトヘトカレー」。玉ねぎを刻むだけで爪は真っ黒、目はショボショボ、肩はカチカチになるそうです。
本文は談四楼さんの噺を聴いているかのような、こんな語りから始まります。
「カレーライス」か「ライスカレー」かは、よく論議のなされるところ。カレーとライスが別々に供されるものをカレーライス、ライスの上にカレーがかけまわしてあるものをライスカレー。
談四楼さんお気に入りのカレーは立川談志師匠がご馳走してくれたインディアンカレー。さらには10日間でカレーを食べること20回、二の腕には「カレーライス命」と彫りものをしたいほどのカレー好きで、好みは大辛と公言しています。
10歳年上の従兄が作るカレーは、親類中の名物であった。肉を使わず、カツオやマグロのフレークが入っているのが特徴的で、名物というのは、大量に作り親類を呼んで食べさせるのはいいが辛くて誰も食べられないという意味の名物で、私はそれに敢然と挑戦、小学校高学年時に2杯平らげ、大いに従兄から賞賛を受けたのである。で、今、従兄も私も親類中で2人だけハゲている......。
玉ねぎ | 30個 |
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牛肉 | 300g |
カレールウ | 適宜(市販/辛口) |
にんにく | 適宜 |
鷹の爪 | 適宜 |
カイエンペッパー | 適宜 |
顆粒ブイヨン | 適宜 |
ヘット | 適宜 |
旨味調味料 | 適宜 |
塩 | 適宜 |
胡椒 | 適宜 |
たかが玉ねぎの皮むきといえども30個はつらい。指の先も爪も茶色に染まっていく。みじん切りからあら切りまで自在に。トントントンと順調に、リズムに乗って刻めば心もはずむ?全部刻み終えるまでに、約30分。
十分に熱したフライパンにヘットを入れる。ヘットとは牛の脂のこと。刻んだ玉ねぎを中火でトロトロと狐色になるまで炒める。ヘットと玉ねぎの香りが食欲をそそるが、難行苦行はここからが本番。
寸胴鍋に少量の水を沸騰させ、顆粒ブイヨンを溶かす。30個分の玉ねぎから、大量の水分が出るため、水は少なめでオッケー。スープの中へ市販のカレールウを投入。いよいよカレーの香りが部屋中に......。きれいに炒め上がった玉ねぎを寸銅鍋の中へ。さっきまでの苦労が脳裏をよぎる。カレールウと玉ねぎを合わせ、じっくり気長に弱火で煮込む。こがさないように、常にかき混ぜながら、玉ねぎが溶けるまで煮詰めていく。
にんにく4~5片をすりおろし、カレールウに加える。「ドラキュラ以外の人は必ず入れるように」。味に深みが増し、美味しくなること請け合い。
鷹の爪を刻み、これもまたカレールウの中へ。大辛、中辛、小辛と好みに合わせて量を調整する。5~6本入れれば大辛になるはず。カイエンペッパー、旨味調味料、塩、胡椒で味をととのえる。この状態で一晩ねかせる。
牛肉を角切りにする。熱したフライパンにヘットを入れ、その脂で肉を炒める。強火で肉の両面をサッと炒め、軽く塩、胡椒する。炒め過ぎは禁物。
炒め上がった牛肉を一晩ねかせたカレールウに合わせる。よく混ぜたのち、さらに煮込んでいく。「カレーの命は煮込みにある」。炊きたてのごはんにかけて食べよう!
玉ねぎを切り終えたあたりから、だんだん笑顔が消えていった談四楼さん......。
「大辛を食べれば、成しとげた満足感と辛さによるシビレで頭がボーッとしてくる」と綴っています。
おまけで、材料を混ぜるだけで簡単に完成するカレー風味ドレッシングのレシピも披露する談四楼さん。使うのは、玉ねぎではなく、にんじん。
カレーパウダー | 大さじ4 |
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顆粒ブイヨン | 大さじ1 |
サラダオイル | 150ml |
酢 | 適宜 |
塩 | 適宜 |
胡椒 | 適宜 |
にんにく | 適宜 |
にんじん | 適宜 |
1951年、群馬県生まれ。高校卒業と同時に立川談志師匠に師事。1983年に立川流落語会第一期真打となる。以来、東京・下北沢の北澤八幡神社で行われる「立川談四楼独演会」など、独演会を積極的に展開する。昇進試験を題材にした小説『屈折十三年』で文壇デビューを果たし、『シャレのち曇り』『一回こっくり』『談志が死んだ』など著書は30を超え、小説やエッセイを発表し続けている。
しばらくの間この厄介なカレーを作ることはあるまいなと思いつつ、寝てしまえばいいのである。実際、これがよく眠れるのだ。で、翌朝になったら、冷たくなってたりして......。
写真:大井一範