
2026年日本酒dancyu「出会えてよかった!心ふるえる酒」特集では、選りすぐりの日本酒を、気の効いた料理と共に味わえる注目の新店をピックアップ。今回は四谷三丁目「鎹(かすがい)」をご紹介します。
外苑東通りから路地へ入ると、住宅街にぽつんと小さな灯が見える。「鎹」は、酒好きの店主が“酒飲みの立場に立って生み出した飲み放題のコース”が話題の酒場だ。


「少なめの量の料理をたくさんつまんで、いろんな日本酒を飲んでもらいたい」と語るのは、店主の宮里常嗣さん。和食店やジビエ料理店で経験を重ねた宮里さんと、荒木町「きんつぎ」などで修業した料理長の眞壁徹さんが提供するのは、ジビエ料理をはじめとした季節の酒肴の数々だ。

突き出しの鹿骨のスープで胃袋が温まったところに出てくるのが、目移りしそうな7種類の前菜。そしてカウンターには酒盃が二つ置かれる。たとえばズワイ蟹のおひたしにはやわらかなにごり酒を、猪肉餡のかかった百合根饅頭にはしっかりした辛口をと、異なるタイプの酒を同時に飲み進めながら、多彩な組み合わせで料理との相性を楽しんでいくというわけだ。当然ながら盃は空になるも、次の酒をすぐに提案してくれる。一番人気のショートコースで選べる酒の銘柄は7種類だが、「お客様が美味しそうに飲む姿を見ると、こっちも楽しくなるんです」(宮里さん)と、メニュー外の酒を注ぎはじめることもしばしば。

ついつい酒に気を取られるが、料理も見事。鹿肉や猪肉を上品に仕立てた眞壁さん得意のジビエはもちろん、アン肝や南蛮漬けといった小菜も丁寧な仕事が施されており、旬の味と日本酒の一期一会の相性をさらに掘り下げたくなる。そんなふうに思いを巡らせてしまうのは、若き二人がつくり出すこの店の魅力によって、心に“鎹”が打ち込まれた証なのかもしれない。


文:宮内 健 撮影:三東サイ