
2026年日本酒dancyu「出会えてよかった! 心ふるえる酒」特集では、選りすぐりの日本酒を、気の効いた料理と共に味わえる注目の新店をピックアップ。今回は大阪・阿波座「賽(さい)」をご紹介します。
塩入 得由(しおいりとくよし)さんは、海鮮居酒屋や立ち飲みを手がける飲食業の会社を経て、2024年6月にこの店を開いた。前職の頃、熟成酒をきっかけに日本酒に開眼。「温めたらより美味しいやん」と気づいて、深みに入ったと穏やかに笑う。


魚中心の品書きを見れば、「鮮」の項に連なる文字がもう飲ませる。アジのりゅうきゅうになめろう、真鯛の酒盗オイル。天然ブリは“津軽酢掛け”ときた。すりおろしたりんごの酸でブリの脂を程よく抑えるセンスに脱帽だ。いや、シャッポを脱ぐのが早すぎた。この一品に合わせて出てきたのは、53℃の「天穏」佳撰だった!
「安くて旨い酒はこんなにあるぞ! と伝えたくて」。地元を中心に流通する普通酒やレアな熟成酒もスタンバイ。「天穏」のパック酒を仕入れることもあるという。「最初にハマったのが『天穏』で。酒器も小島達也杜氏のお気に入りを使ってます」。

53℃という細かい温度は実は「香りを頼りに、温度計を使わずに燗つけするので、たぶん、それくらいです(笑)」と塩入さん。燗の温度はアテや盃の進み具合を見ながら、微妙に変えているのだそう。普通酒の燗酒を味わう時間は、難しくなく穏やかで、どこか懐かしい。そんな飲み方を愉しめる日本酒党ならば、塩入さんの待つカウンターは特等席になる。


文:中本由美子 撮影:東谷幸一