
その町の住人が長く通う店こそ、愛される名店に違いない。dancyu2026年春号では、芦屋「メツゲライクスダ」楠田裕彦さんに、地元神戸と職場がある芦屋周辺の愛すべき店を案内してもらいました。
「削ぎ落としたパン。その深みに、魅了され続けています」と楠田さんが語るのが、自店の近くにある「ベッカライ ビオブロート」。2004年開業の松崎太シェフとは独立年も近く、ものづくりの悩みを打ち明け合ってきた戦友だ。

店頭に並ぶパンは、約15種と少数精鋭。松崎シェフの仕事は、玄麦を石臼で挽くところから始まる。「鮮度を何より大切にする姿勢は、彼のパンそのものですよ」と言って楠田さんは微笑む。
楠田さんのお薦めは、有機ライ麦と小麦全粒粉、日々継ぎ足すライ麦種で焼き上げるランブロート。「何もつけずにじっくり味わいます。一口目から余韻までもが心地いいんです」。噛みしめるほどに穀物の香りと滋味が広がり、素材の力が静かに伝わってくる。
湯種で仕込む高加水のトーストブロートもまた、生地の力を丁寧に引き出した一品。「目指すのは、毎日食べても飽きない味」と語る松崎シェフの哲学が、どのパンにもしっかりと息づいている。





神戸市生まれ。ドイツ・フランスで修業後、鹿児島「クスダハム工房」を経て2004年、芦屋で独立。創業20年目となる24年、東京「麻布台ヒルズ」に新ブランドを出店。

文:船井香緒里 写真:福森クニヒロ