
進化を続ける東京の町焼肉。今回ご紹介するのは、五反田・有楽街の裏路地「壱番街」に店を構える「炭火焼肉ホルモン まるは」だ。カナダで製菓を学び、フランス料理店やスペインバルを経て焼肉の道へ。遠回りを重ねた料理人がたどり着いたのは、王道の町焼肉だった。焼肉激戦区・五反田で支持を集める「まるは」の魅力に迫ります。
「もう五反田で10年目になりますが、軌道に乗ったのはこの3年くらいのことなんです」
五反田駅の東口からほど近い、五反田有楽街。その一角、「壱番街」と呼ばれる路地のちょうど真ん中あたりに「炭火焼肉ホルモン まるは」はある。人通りは驚くほど少なく、ここを目指しても素通りしてしまう客もいる。
だが店に入れば印象は一変する。いつも満席の店内は、ダクトで吸いきれない煙で薄くもやがかかったように、おいしそうな肉の匂いで満ちている。
店主の巴山顕宏さんは1981年、愛知県生まれ。20代前半でカナダに渡って料理学校に通い、製菓の道からキャリアをスタートさせた。帰国後、一度は料理とはまるで無縁の製造業に身を置くが、2008年のリーマン・ショックで「もう一度料理をやってみようか」と、とあるフランス料理店の門を叩く。その後、都内のスペインバル、焼肉店を経て、2017年、五反田有楽街の裏路地「壱番街」に「まるは」を開いた。
焼肉店にとって重要なのは一にも二にもまず仕入れだが、オープン当時、巴山さんはツテもコネもないまま芝浦市場の代表番号に電話をかけた。なんとか取引はスタートできたが、半年ほど経った頃、専門誌で見つけた内臓卸「芝浦嵯峨正造商店」にたどり着いた。
「とにかくいい内臓がほしかったんです。以来、現在に至るまで内臓は嵯峨さんのお世話になっています。いまでも配達ではなく、こちらから取りに伺っています」
当初、仕入れの部位は限られていたが、徐々に仕入れられる部位や量も増えていった。コロナ禍を経て、メニューにも工夫を凝らしていった。例えばテール(1,200円)は、近年流行りの関節ごとに骨から外すタイプではない。スライサーで骨ごと薄切りにした骨付き肉を七輪上で焼き、しがむようにかぶりつくクラシカルなスタイルだ。
「テールは骨付きをかぶりつくのが旨いと思うんです」
いまでは全焼肉店垂涎の和牛ハラミやサガリも欠かさず入るようになった。売切御免、枚数限定の特上和牛ハラミ(1枚1,200円)は2cm厚という分厚さで「一人でも多くの方に召し上がっていただきたい」と1枚から注文できる。
もっとも、よほどの特上好きでもなければ、ここはあえて通常の上ハラミ(4枚2,700円)&サガリ(1枚850円)をおすすめしたい。分厚い特上和牛ハラミには忍耐と深めの焼きが要求される。僭越ながら、極厚のハラミを歯切れよくなるまで焼き切るお客さんはあまりお見かけしない気がする。

個人的には最近、特上ハラミはあまり注文しなくなった。焼きと休ませに時間がかかるのと、店にとって大した儲けにならないことを知っているからだ。特上ほどの厚さはないものの、その分焼きやすい上ハラミや、肉の繊維が繊細で(多少焼きが甘くても)歯切れよく食べられるサガリもいいし、気軽に注文できる。

和牛4種盛り(1人前は、ランボソ、ミスジ、ザブトンといった部位が日替わりで並ぶ。この日は三角バラ、シンシン、トモサンカク、イチボというラインナップ。いい感じのサシが肉に乗っているのを見て「お肉のお供」を片っ端から注文する。カットレモン、おろしポン酢に九条ネギ、にんにく、青唐辛子スライスに生玉子……。

バランスのいいサシの三角バラやトモサンカク、赤身肉の味わい豊かなシンシンを頬張っていると、そろそろガマンにも限界がやってきた。満を持して「ライス」のコールをかける。炙りロース(1,980円)とともにごはん(大・450円)がやってきた。ここで「お肉のお供」の生玉子を引っ張り出す。
くるくると回すように焼いたら、生玉子にダイブさせてライスへ一直線! 柔らかく、香ばしく、丸みのある味わいを白飯がしっかりと受け止める。タレの絡んだ肉と噛むほどに伸びやかな白飯は絶対引き剥がしてはならないベストパートナー。ああ、これが焼肉だ。
本日の〆肉はホルモンの盛り合わせ。味噌ダレをまとわせた内臓を、テーブルごとの七輪でじっくりと焼く。ギアラがぷっくりと膨らみ、トロホルモンの脂がはじける。それぞれ違う肉質が炭火でさらに際立つ。名残惜しいが、すっかり腹は膨れている。
そして本日は、うっかり大ライスを食べてしまったので〆はスープのみに。なめこの上にどっさりと岩のりを乗せたスープは滋味深く、優しく、どこまでも奥深い。

老舗洋食店から酒場、スナックまでが混在し、カウンター文化の根づく五反田は実は近年都内屈指の焼肉激戦区になっている。
「10年目ですけど、助走期間が長かったのでまだ気持ちは新人です」と巴山さんは言う。遠回りの料理人がたどり着いた味わい深い王道焼肉。猥雑でちょっぴり入りにくい壱番街の看板は、焼肉好きにとっては格好の目印だ。

文・写真:松浦達也