心ふるえる酒2026
【燗酒は世界の温度を上げる!】燗酒は"温度の表現"。海外ではそれがアートになる―高崎 丈(池尻大橋・高崎のおかん)

【燗酒は世界の温度を上げる!】燗酒は"温度の表現"。海外ではそれがアートになる―高崎 丈(池尻大橋・高崎のおかん)

2026年日本酒dancyu「出会えてよかった!心ふるえる酒」特集では、燗酒の魅力を少し違った目線で掘り下げました。“温めて飲む”という日本酒にとっては当然の手法が、日本国外や洋酒の世界から熱視線を浴びています。前編は海外で燗酒文化を広めている高崎丈さんが、海の向こうで感じた燗酒の可能性を語ってくださいます。

※高崎さんの「高」は、正しくは「はしごだか」です。ブラウザの環境により正しく表示されない可能性があるため「高」を使用しています。

燗酒を海外へ。海の向こうで感じた手応え

夕刻6時の開幕、限定8席。湯気の立つ燗床を設えたカウンターを舞台に、コース料理に燗酒という驚きのペアリングでもてなす「高崎のおかん」。劇場のようなライブ感に身をゆだね、酔いしれるゲストの実に3割を、海外からの客が占めるという。

高崎 丈さん
「高崎のおかん」店主、高崎 丈さん。前店の三軒茶屋「JOE’SMAN2号」時代に燗酒の奥深さに開眼し、「食材・酒・人」を熱燗と料理で表現する現店のスタイルを確立
ちろり
5種類(ビーカー、錫、銅、ステンレス、チタン)のちろりを表現したい燗つけのイメージに合わせて使い分ける

店主の高崎丈さんは、開業間もない2022年から海を渡って燗酒の魅力を伝える普及活動、名付けて「OKANLOVER」のプロジェクトを続けてきた。

これまでの渡航先は韓国、タイ、アメリカ、EU圏を含む6カ国9都市に及ぶ。現地では地元シェフとのコラボによる燗酒パーティー、地場の食材を使った料理との燗酒ペアリング、プロ向けの燗つけマスタークラスなどの多彩な“燗活”を敢行。

世界各地で燗酒の魅力に開眼した人々が、よりディープな燗体験を求めて来日し、「高崎のおかん」にやってくる。「ほとんど自主練」の地道さで蒔いてきた種が、確実に芽吹いていることの証明だ。そして「波及のスピードは想像よりずっと早かった」と高崎さんは振り返る。

“燗活”イベント
ソウルを皮切りに、NY、LA、ポートランド、バンコク、チェンマイ、パリ、アムステルダム、コペンハーゲンの9都市で“燗活”イベントを実施。「国によって共鳴されるポイントが違うのが面白い」と高崎さん。(写真提供=土屋勇太)
“燗活”イベント

「燗の刺さりどころ、いわゆるパンチラインは各国で違いますが、共通するのは日本よりずっと率直な『アメージング!』の反響。食材の仕込み、料理、燗ペアリングを一人で仕切ったパリのイベントでは、『素晴らしい作品をありがとう』と言われたのが印象的でした。燗酒に文化としての価値を見出し、リスペクトしてくれているんだなと。燗は単なる飲み方じゃなく、日本が世界に誇れるアートであり、作品そのもの。燗酒の価値は、テクニックや道具ではない“温度の表現”という本質にある。そんな気付きをもらえる体験でもありました」

書籍『the BOOK of ATSUKAN』
2025年には燗酒の歴史や概念を紐解いた英文書籍『the BOOK of ATSUKAN』を上梓。海外の燗酒ラバー必読の書となりそう。

お燗は“日本の天然資源”だ!

海外での活動を重ねるにつれ、高崎流ペアリングの型にも変化が表れた。酒と料理の味の要素をピンポイントで当てにいく“攻め”のアプローチから、背景の雰囲気やストーリーで一体性を表現する“引き”の提案へ。「より東洋的な、余白を楽しむ表現を意識するようになった」と高崎さん。

「たとえば、自然農法の食材とナチュラルな造りの日本酒を合わせ、そのゆるっとした空気感を燗酒の温かさで感じ取ってもらうような。今の自分が一番伝えたいのは『お燗は自由でいい』というメッセージなので、縛りは少ないほうがいいと思っています」

料理
冬のコースより、自然栽培米の糠床で漬けた寒ブリを大根で挟んだ一品。「久米桜 青れもんドオ」の酸味をマリネに使用。

一方で、海外ではまず燗酒の歴史を語り、「かつての日本酒は今でいうナチュラルな造りのものしかなく、温めて飲むのが主流だった」という史実をしっかり説明することから始める。根底にあるのは、そもそも自国の日本ですら燗酒文化が理解されていない現状への「もやっとした違和感」だ。

ラーメン鉢
チルな空気感を表現する酒器として、まさかのラーメン鉢も登場!

「いいお酒だからこそ、温めて飲む。そういう世界観があることを、僕ら飲食店の人間はきちんと飲み手に伝えてこなかった」と高崎さん。実際に海外に携えていくのは、自然派といわれる日本酒がほとんど。きれいな酸の輪郭と健全な米の存在感、複雑な味の厚みを併せ持つ超低精白タイプも多い。

それらはすべて高崎さん自身が日頃から敬愛し、絶対の共感と信頼を寄せる造り手のプロダクト。燗酒は、彼らの存在を伝える“最強のツール”と考える。


「感動体験は理解を広げてくれるし、真面目に一生懸命お酒や米を作っている生産者の価値を上げて、幸せな循環を生んでいく。『高価だから良い』とは別の、『シンプルに良い』日本酒の真価を広めたい。いずれは『海外でめっちゃ燗がはやってるらしい』という状況が日本に逆輸入され、火がつく落としどころを狙っているんです(笑)」

高崎さん
「お燗は地方創生のテーマともめちゃくちゃ相性がいい」と高崎さん。自身も出身地・福島県双葉町の地域再生に向けた燗とアートのプロジェクト「FUTABAArt District」の活動に熱心に取り組む。

しかし、実はまだ先に野望がある。“温める”という人体に心地よい行動を、燗を介して一つの文化的コンテンツに育てること。もはや嗜好品レベルの話に収まらない壮大なテーマだが、高崎さんは本気である。

「“お燗は日本の天然資源”と言い換えてもいい。実際、温め酒で体温が上がれば、エアコンは不要になりますよね。世界を究極のエコシステムに変えるための、スイッチになれる力が燗酒にはある。僕はそう信じているんです」

店舗情報店舗情報

高崎のおかん
  • 【住所】東京都目黒区青葉台3‐10‐11
  • 【電話番号】090‐6327‐1206
  • 【営業時間】一部18:00~20:30/二部21:00〜23:30(ペアリングコース、予約のみ)
  • 【定休日】不定休
  • 【アクセス】東急田園都市線「池尻大橋駅」東口より9分
2月5日発売! 日本酒dancyu vol.3
2月5日発売!日本酒dancyu vol.3
日本酒dancyu vol.3「出会えてよかった!心ふるえる酒」特集、好評発売中!酒のプロや愛飲家が個人的に惚れ込みつい熱く語ってしまう「人に教えたくなる酒」ほか、2026年に飲んでおくべき日本酒がわかる、とっておきの情報をお届けします。

A4変型判(160頁)
2026年2月5日発売/1,800円(税込)

文:堀越典子 撮影:長野陽一

堀越 典子

堀越 典子 (ライター)

千葉県出身。武蔵野音楽大学卒業後、ピアノ講師→音楽系出版社→編集制作会社勤務を経て独立。気がつけば、もっぱら酒食部門担当のライターに。dancyuをはじめ雑誌、PR誌、WEB媒体に食・酒・旅まわりの取材記事を寄稿。大好物はスペイン。サンティアゴ巡礼路歩きが15年来のライフワーク。

  • dancyu
  • 読む
  • 心ふるえる酒2026
  • 【燗酒は世界の温度を上げる!】燗酒は"温度の表現"。海外ではそれがアートになる―高崎 丈(池尻大橋・高崎のおかん)